「マナの結晶」
「マナの結晶」
神殿の様な大き過ぎる扉に、目の前にはマナークウルフの子供が尻尾を振って座り、地形上この位置に来て初めて扉がある事に皆が気づけた。
「あの中に何かあるのでしょうか?」
ツルギのその言葉にキリオが答える。
「狼が警戒しないって事は安全ではあるっぽいね。ジムの判断はどう?」
『つか、この大変だった時に狼はいったい何やってたんだ?』
「僕は行くべきだと思う」
『その為に……僕は来たんだから』
そして、次にフールが言う。
「私はザーコ次第ね」
その言葉にザーコが答える。
「では、私はもう大丈夫ですので行きましょう」
人間には大き過ぎる頑丈な扉に、その両脇に黒い石が設置されていた。
扉の前に着き、キリオは触れて、押して、も扉は何も反応しない。
「これ……どう開けるの? 壊す?」
キリオのその言葉にジムが言った。
「いや、何か開ける方法があるはずだ」
そして、ジムの目線の先には両脇に設置されている黒い石が目に入る。
「恐らく魔力が必要なんだね。どのぐらい魔力をもっていかれるかわからないから僕とキリオでやって見よう!キリオは向こうをお願い」
ジム、キリオは黒い石の前で配置につく。
「いつでもいいよ」
「了解」
キリオとジムは石に手を翳した。
「せぇえっの!!」
ジムの掛け声に合わせて黒石に魔力を送る。
注がれる魔力で石が発光し、それと同時に扉が音を立てて開き始める。
開く扉の隙間からオレンジ色の光が光芒を作り、次第に光を強め、そして扉は大きく開いた。
「うぉ……」
「な、なんて……き、綺麗なの……」
「これは……」
「な、なんと素晴らしい……」
「す、すげぇ……」
素晴らしい景色に全員は空いた口が塞がらなかった。
そこには膨大な広さの空間に壁一面が緑色の光結晶で敷き詰められ、更に壁と一体化し中央を見つめる遥かに大きい幻想的な亀の像。
そして、中央にはマナの大樹の根があり、根に絡まれ、守られているオレンジ色の大きな結晶が光り輝いていた。
「……こ、これってもしかしてマナダンジョンの中枢? と、ということは……これは攻略になるのでは?」
ザーコが言葉を漏らし、その言葉にフールが答える。
「ええ……き、きっとそうよ! 信じられない! 私達だけでマナダンジョンを攻略したんだわ!」
全員が驚きを隠せなかった。
「す、すげぇ……綺麗……」
そして余りの綺麗な輝きにキリオが中央へ歩き、マナの結晶へ触れたその瞬間だった。
「森地のマナダンジョン攻略者よーー」
突然、全員の頭の中に言葉が流れる。
「な、なんだよ! こ、この声!? 頭の中に響いてくる!?」
謎の声は言葉を続けた。
「ーー時が来た。黙示録に伴い、紀元の遥か前から予見されていた災の暗示が今、起きようとしている……攻略する者達よ。其方達は災を防ぐ力がある。創造主にして唯一神ヤハウェの産物達よ。マナの力を使い、叡智乃超越を探せ……さもなくば……この73番目の世界が……き……き……ふ……ぎ……ア…あ…イ…………」
突然ノイズに声が聞き取れなくなる。
「73番目? 叡智乃超越? いったいどういうことだ? 最後まで聞けなかったぞ?」
キリオが疑問を抱く中、ジムがキリオに言う。
「そうだね。でもとりあえず! キリオ? あのオレンジ色の結晶を錬成してみてくれないか?」
「え? あぁ! なるほど! さっき言ってた「マナの力」ってこれの事か! んで? 何を錬成すればいい?」
『ん? ジムはなぜこれがマナの力だとわかった? まぁ……いっか』
「そうだな……とりあえず! それぞれの武器でいいんじゃないかな?」
「なるほど! じゃぁ先ずは俺の鋏剣を錬成しようかな!」
キリオは自分がいつも愛用する片手剣サイズの鋏を作ろうと、ジムに言われるがままオレンジ色の結晶に手を当て、錬金術を使う。
しかし、その瞬間だった。
夥しい光の量が辺りを照らし、その錬成はいつにも増してオレンジ色の錬成光を輝せ、激しく乱気流を起こしていた。
「っ!? な、なんだ!? 錬成力が勝手に上がってく!?」
そして、光は徐々に緑色へと変わり、光量を増していく。
「キリオ!? だ、大丈夫!?」
予期せぬ事態にジムがキリオを心配した。
「え!? もしかしてやばい!?」
キリオが焦りを見せたその時だった。
雷の様な轟音を響かせ、閃光の様に瞬く間に光が散った。
「うわ!? ……びっ、びっくりし……え?……」
キリオは右手に持つ鋏を見て驚いた。
「え!? 小さいんだけど!?」
その鋏を見てジムが言う。
「キリオ何やってんの? それで誰かの髪切るつもり?」
キリオが結晶から錬成したのは、オレンジ色に輝き、透き通る透明感の結晶の鋏。
しかし、大きさは一般的に髪を切る時に使うサイズの鋏だった。
「え? いや、俺はいつも愛用してる片手剣ぐらいの鋏を錬成したはずなんだけど……おっかしいなぁ……」
『 それよりもこのサイズの鋏を作る時に持ってかれた錬成量が鋏一個分の錬成力を超えすぎてるよな? いったいどういう事なんだ?』
そのキリオの状況にフールが嫌味を言う。
「なんであんたは普通の武器を作らないわけ? 自分の故郷の自慢でもしたいの?」
キリオが理由を説明する。
「 お前のその食ってかかる感じなんなの? でも教えてやるよ! 錬金術師は錬成する時、手に馴染んだ物、幼少期から縁のある物など、情報量が多い物の錬成度が高いんだ! 俺は異世界じゃない場所で10年以上に渡って鋏を使い続けてた! 初めての錬成の時、どの武器より鋏の錬成度が格段に高かったってわけ!」
キリオはそう言いながら自分の服を錬成し、鋏を収納する「シザーケース」を作り、マナの結晶で作った鋏を仕舞い、言葉を続ける。
「次はジムのを……」
突然、止まったキリオにジムが言った。
「ん? どしたの?」
キリオが答える。
「いや……お前武器必要なの?」
そう、ジムはいつも手ぶらだった。
「あぁ! そうだね! この際ここで杖作ってもらおうかな!」
「あ!! そっか! 魔法使いと言えば杖か!! どんなのにする?」
「キリオに任せるよ! 美容師なら感性溢れるデザイン得意でしょ?」
「しょうがねぇな! 後から文句言うなよ?」
キリオは近くにあるマナの大樹の根も使い錬成する。
鋏剣を作ったと同じ様にオレンジ色の光が乱気流を起こし、錬成されていく。
弾ける様な音と共に杖は完成した。
「おお!!」
キリオも驚きの出来に思わず声が漏れる。
洗練され、根では表せない人工的なデザインの杖に先端はデザインされた結晶をはめ込んだ立派な魔法使いの杖が完成した。
「良い出来だよ! ジム!」
「ありがとう! キリオ!」
ジムは杖を受け取り、早速分析する。
「 うわ!? なにこれ?! すごい魔力量だよ!? これだけの魔力をこの結晶が!? どうなってるの? それに……この結晶は風属性か! わぁー! 嬉しい!! 本当にありがとう! キリオ!」
そのレアアイテムを受け取り喜ぶジムの様子を見ていたザーコがフールに話しかける。
「フール様? あの二人は本当に凄いですね。特にキリオさん……そもそも錬金術師は戦闘員ではないのに攻略隊に一人いるとここまで心強いのですね?」
フールが言葉を返す。
「彼奴が特別なのよ。でも、気をつけなさいよ? 錬金術師はこの世界を破滅へと向けた術師よ? 私の父様だって……あの事件で亡くなったんだから……許せるはずがないわ」
「フール様があの事件以来、人間に対してあまり良く思ってないのは知っています。なら何故、今回の任務に来られたのですか?」
「見定める為よ。何故、父が死ななければならなかったのか、村の長が何故錬金術師に支かえたのか」
「それでどうでしたか?」
「……まだわからないわ。彼奴だけ見れば悪い奴ではないのが分かったぐらいね」
「そうですか。私はあの二人は大丈夫な気がします。フール様ももっと仲良くしてもらえたらと思うのですが……」
「ザーコにそう言われるとね……」
「私にそう言われるとダメなのですか?」
そのザーコの言葉にフールは赤面し慌てて言葉を口にする。
「なっ! なんでもないわよ!」
「も、申し訳ございません」
頭の後ろを掻きながらザーコはフールへ謝罪をいれる。
しかし、その時だった。
「……っ!?」
フールが何かを感じ、息が詰まった。
それと同時にキリオの足元に居たマナークウルフの子供が外に向かって威嚇し、荒れ狂う様に吠え始める。




