「危機的状況」
「危機的状況」
「殺られる!?」
フールはその時、死を覚悟した。
「……え?」
しかし、気づけばフールはツルギに抱えられ、助けられていた。
「ザーコ殿の所へ……このテラレックスは私が相手をしよう」
「……え? あ……はぁ!? や、やめなさい!! ゴブリンの分際でテラレックスに一人で相手できるわけがない!!」
「ザーコが死んでもいいのか! 早く行け!」
「くっ……」
フールはツルギに言われるがまま悔しさを力一杯に噛み締めザーコの元へと走り、ツルギはテラレックスに剣を構え、覚悟を決める。
『私では勝ち目がないことは分かっている……しかし……愛する男の為に走る女の邪魔は私がさせない!!』
テラレックスはツルギを睨みつけ、凄まじい咆哮を放つ。
それはマナの森に生息する生き物が持つスキル「捕食者」だった。
スキル捕食者は魔力の量で決まる。
しかし、ジムに名を与えられたツルギはテラレックスが持つ魔力より遥かに高く、テラレックスの捕食者はツルギには効かない。
その様子にまたテラレックスは苛立ちを増していた。
「来い!!」
ツルギが挑発をし、テラレックスは怒り、凄まじいスピードでツルギに向かって走り出す。
そして、迫り来る大きく開けられたテラレックスの口。
ツルギはギリギリまで戦闘態勢のまま動かない。
「ここだ!!」
ツルギはテラレックスが顎に力を入れる瞬間を見逃さなかった。
向かって来るテラレックスに対し、斜め前に飛び出し攻撃を避けながらツルギは持っていた剣を喉へと投げる。
剣は勢い良く突き刺ささり、テラレックスは悲鳴を上げ、更にツルギに怒りを向け、咆哮を放つ。
「フハハ……やってやったぞ! テラレックス!」
ツルギが勝ち誇る顔でテラレックスを睨みつける。
そして、テラレックスは体を回転させ、遠心力からツルギに向けて尾で攻撃を繰り出した。
「フン……こんな物……避けるに足りぬ」
悟ったようにその場で鋭い眼光をテラレックスへ向け続けた。
そして、凄まじい速さでテラレックスの尾がツルギへ迫る。
それでもツルギは動かない。
その瞬間だった。
凄まじい音が鳴り響く。
気づけば、ツルギの顔面ギリギリでテラレックスの尾は停止していた。
「まった?!」
キリオが1匹目のテラレックスの捕縛後、ジムの抑えていた2匹目のテラレックスの捕縛も終え、ギリギリでツルギへの攻撃の尾だけを錬金術で拘束し、止める。
「いえ……待っておりません」
「良く言うわ!」
そしてその時、ジムが魔法を使用する。
「許さない……」
ジムはその言葉と共に手を振り抜いた瞬間、テラレックスの両足が切断された。
テラレックスは倒れ込み、もがき苦しむ。
しかし、ジムは更にテラレックスに近づきながら何度も手を振り抜き風の刃を飛ばす。
その度にテラレックスは尻尾、肉片、胴体、ジムが投げる風の刃によって削られていく。
「許さない……許さない! 許さない! 許さない! 許さなぁい!!」
キリオはジムの違和感に気づいた。
「ジ、ジム?」
そして、ジムはテラレックスの首を切断し、最後には残ったテラレックスの頭を縦半分に両断する。
「……。」
ジムはテラレックスの死骸の前でまだテラレックスへ殺意を向け続ける。
恐る恐るキリオはジムの肩に手を置き、話しかけた。
「ジ、ジム? 大丈夫か?」
「……。」
キリオが覗き込んだ時、ジムの表情は殺すのを楽しむ様に笑っていた。
「おい! ジム!! しっかりしろ!!」
キリオがジムに大きく呼びかける。
「あ! ごめん! 大丈夫だよ!」
そして、ジムはいつもの笑みへと戻っていた。
「ジム……お前今……」
しかしその時。
「お願い! 助けてぇ!!」
フールが叫んだ。
慌ててキリオ、ジム、ツルギの3人は駆け寄り、キリオが状況を聞く。
「ザ、ザーコは!? 大丈夫なのか!?」
フールが答える。
「回復薬が効かないの!! 助けてぇ!!」
ザーコには意識はなく、口から血を流し、倒れていた。
「っ!?」
『これ……し、死ぬのか?』
キリオは今にも死にそうなザーコを見て息を詰まらせ、声を失う。
『ザーコが……し、死ぬ?……』
その時、忘れていた恐怖がキリオを襲った。
日本では滅多に体験することが無い命のやり取り。
簡単に死んでしまう仲間。
浮かれていた故に迫る恐怖。
目の前で死に直面している仲間を見てキリオは恐怖で立った鳥肌と止まらない冷や汗に混乱する。
また仲間が死ぬ恐怖に怒りが込み上げ、拳を力一杯に握る。
「内臓が機能してないんだ。だから回復薬を飲ませても効かない……内臓をまず、修復しないと。退いて、僕が変わる」
ジムはそう言ってザーコの体に手を当て詠唱を唱える。
「聖なる神の恩恵よ。我を媒介にマナの龍脈によって与えよ、我の言霊に答え、我の名を唱え、我の力を変え、生命の声を聞き届け、彼の者の声を聞け、繋ぎ、手繰り寄せ、そして命を癒せ……回復術」
ジムの手が発光する。
その光はザーコへと流れ、浸透し、体を包み込んだ。
そして、ゆっくりと徐々に光は消えてく。
「ザーコは!? ザーコはなおったの!?」
フールがジムに聞く。
「内臓はね……ツルギ、回復薬を飲ませて」
横で回復薬を準備していたツルギがザーコに回復薬を飲ませる。
「……ん、あ……み、皆さん……ご迷惑をおかけしました」
ザーコが目を覚まし、全員の緊張が解ける。
そして、フールは声をかける。
「ザーコ! ごめんなさい! 私の所為で……」
「いえ……フール様の所為ではございません。ましてやジム様の所為でも無いです。私自身の不注意になります……どうか二人ともお気を落とさないでください」
その言葉にジムが口を開く。
「とは言っても反省は必要だ。今回は魔力を温存を目的にとても厳しい作戦になってしまった。次からは安全に最善を尽くすべきだと思う」
その言葉に全員同じ意見だった。
その時、ツルギは何かを発見する。
「ジ、ジム様……あれを見てください」
ツルギの指差す方向に全員は視線を向け驚く。
そこにあったのは神殿の様な大きな扉だった。