「テラレックス」
「テラレックス」
別れ道の右側を進み、長い道を歩く途中でフールが言った。
「今日はこの奥を明確にしたら一旦戻りましょう」
ジムがそれに答える。
「そうだね! 僕もお腹空いちゃったよ!」
その時、道の先に広い空間の明かりが見えた。
「行き止まりではなかったみたいね」
それを見てフールはそう呟き、マナークウルフの子供が唸り始め、フールは言葉を続ける。
「いるわね……私が覗いてくるわ」
フールは気配を消し、岩陰に隠れながら進み、その場所を覗く。
「……っ!?」
その光景に驚ろき、仲間が待機する所まで戻る。
ジムが戻ってきたフールに聞いた。
「どうだった?」
「ここに来て1番厳しいかも……テラレックスが3体居たわ」
その言葉にジムは驚いた。
「げっ!? それはさすがに……」
更にザーコが口を開いた。
「このメンバーならおそらく倒せなくは無いでしょうが……しかし、消耗が激しすぎる」
そして、フールが言葉を返す。
「なら、一旦退却する? 作戦立て直して、装備整えてから出直す?」
その時、キリオが口を開いた。
『テラレックスって……確かあのティラノサウルスみたいな奴か……なら……』
「無力化すれば話は早いんじゃ無いか?」
キリオの呆れた発言にフールが言う。
「あんたバカ? テラレックスよ? しかも3体! 一応聞くけどどうやってやんのよ!?」
「さっきの蜘蛛との戦いの時に感じたんだけど、ここのダンジョンは微量だが壁や石に魔力が通ってる……だから俺の錬成のアシストになってるぽい。おそらくここなら、もっとすごい錬成が可能だ」
それを聞いてジムが理解した。
「あ! なるほど! 倒すでも無く、撤退でも無い! 無力化ってそう言うことか!」
ツルギがジムに聞く。
「ジム様! 私にも分かるよう説明してください!」
「要するに罠にはめるんだよ! 僕とキリオで!」
「なるほど!!」
「でもそうなるといろいろ出来ちゃうな……どんな罠にしようかな。キリオ? なにが出来そう?」
「そうだなぁ……落とし穴とか?」
「それはやばいな! あのサイズの落とし穴とかかなり良いね! となると……炎系は僕達まで一酸化炭素の影響を受けるな……なら水かな?」
「水素爆発なんてどう?」
「それも考えたけど、衝撃で瓦礫に埋まる可能性あるかもね……どうしよう」
その時、ザーコが口を挟んだ。
「あの……話してる内容についていけてないのですが、でも何か上級魔法系かそれ以上の事をやろうとしてませんか?」
ジムが答える。
「うん! そうだよ!」
「そこまでの大規模が逆に必要そうなのでしょうか? もしかしたらこの後も魔力が必要になるかも知れません。温存が可能ならそちらの方がいいのかと……」
その言葉にキリオが反応した。
「そうか! わざわざ広範囲にする必要はないな! となると捕縛系で考えれば……」
キリオは壁に手を当て、元素を分析する。
「チタン、鉄、硫黄まであるじゃん……なんでも出来そう!」
ジムがキリオに聞く。
「キリオ? 何が出来そう?」
「チタンと鉄の化合物で壁に貼り付けとかどうよ?」
「それだ! それでいこう! ちなみに3匹同時は?」
「それは……きついな……体の大半が地面や壁に付いてれば出来るって感じ」
「となると……3匹同時は厳しいか……わかった!」
話が煮詰まったのを見てフールが口を聞く。
「聞きましょう……その作戦を」
ジムが地面に絵を描いて説明する。
「まず、ツルギを囮に壁際に誘い込み、テラレックスを壁に突っ込ませ、キリオが1匹を捕縛する! 更にもう1匹は僕が重力で抑え込み、キリオが2匹目を捕縛……」
フールがジムに聞く。
「ジムの力を信用してないわけじゃないけど……あんなに巨体なのに1人で可能なの?」
「ずっとは無理だけど、キリオが来るまでの時間なら大丈夫! でも問題はもう1匹の方……」
フールが理解し言う。
「私とザーコで足止めね」
「うん……可能かな?」
「強者達の魔力の温存を考えるとこれが最善な気がするわ。なんとかしましょう」
「僕も片手で加勢できればするよ!」
「ありがとう……では始めるわ」
全員は準備をし、構えに入る。
そしてジムがキリオに聞く。
「キリオ? 準備は?」
「いいよ!」
「よし! ツルギ! 行け!」
「御意っ!!」
ツルギは壁際を全速力で走り、その後方からキリオが続く。
3匹の巨大なテラレックスは予想通りツルギに気づき、咆哮を放ちながら走り出した。
そして、フールが一番後ろを走るテラレックスの目に向けて矢を構え、詠唱を始める。
「我、理に触れ、主たる根源に至し魔を拝頂せし、今ここに我の名を持って戒現せよ!! 一条乃螺旋!!」
フールが構える矢に風が螺旋状に乱気流を起こす。
それと同時にザーコが肩から下げる剣に手を掛け、腰を低くし、凄まじいスピードで飛び出した。
続けてジムがもう1匹のテラレックスに手を翳し、魔法を使う。
「大地乃怒!!」
テラレックスの足元に魔法陣が浮き上がり、凄まじい音と共に地面に叩きつけられ、ジムはテラレックスの動きを封じた。
『うお!? これ両手じゃないと抑えきれない!?』
「ごめん! フール! そっち手伝えない!!」
ジムは瞬時に片手だった魔法を両手に変える。
「わかったわ!!」
そして、フールは矢を放った。
凄まじい速度で矢はテラレックスの目へと向かう。
しかし、矢はテラレックスの目ではなく、その周辺に刺さり、テラレックスは痛みに怯んだ。
「くそ! しくじった!」
フールは直ぐに二発目を準備する。
「まず! 足を狙う!!」
ザーコがテラレックスの脚に斬りかかり、力一杯に振り抜いた。
しかし、鈍い音が耳を打つ。
「なに!?」
テラレックスのあまりの皮膚の硬さに微々たる傷しかつけられなかった。
その時、テラレックスはザーコを標的に捉えた事にフールが気づく。
『まずい!! 詠唱が間に合わない!!』
「ザーコ逃げてぇ!!」
テラレックスはザーコに向かって尻尾を力一杯に振りぬき、攻撃をしてきた。
「くっそ!?」
ザーコは咄嗟に腕をクロスさせ、ガードをしたがテラレックスの体格差にザーコは激しく吹き飛び、凄まじい音を立てて壁に叩きつけられた。
「がっは!?」
ザーコは叩きつけられた衝撃で肺に傷をおい、口から血を吐いてそのまま気絶する。
「ザーコ!?」
フールは急いでザーコの元へと向く為、走った。
「っ!? ザ、ザーコ!?」
ジムはザーコの状況を見て、突然の恐怖に駆られる。
自分の作戦が浅はかだったと憂い、自分の判断の誤ちで仲間が死ぬ責任。
その重圧がジムを襲う。
「僕がこの作戦を考えたから? うまくいくはずだったのに……なんで? ぼ、僕の所為じゃないか……僕の所為でザーコが……ザーコが……」
ジムは放心状態に陥る。
そして、気づけばツルギは自分を囮に使い、上手くテラレックスを交わして、壁に激突させていた。
それに続きキリオが壁に手を当て、錬金術を使用する。
「ツルギ! フールの加勢に行けぇ!!」
「御意!!」
キリオは壁からチタンと鉄など、テラレックスでは破壊できない原子で壁に貼り付ける。
しかしその時、ザーコを吹き飛ばしたテラレックスが標的をフールへと移す。
ザーコへ向かって走るフール目掛けてテラレックスは長い尻尾を使い攻撃を放った。
「っ!?」
『攻撃に気付くのが遅れた!? まずい!?』
フールは振り下ろされるテラレックスの攻撃に防御態勢しか取れなかった。
「殺られる!?」
フールは死を覚悟した。