「無詠唱」
「無詠唱」
「お見事!」
キリオがジムにそう言った。
「これめっちゃ久々にやったね!」
「お前なら気づくと思ってたよ!」
「学園の時に思いついたんだっけ?」
「そうそう!」
「お前の厨二病の中でこれは少しセンスを感じたからな」
「それ褒めてんの?」
「褒めてるな」
「他には?」
「え?」
「えぇ! ちゃんと回収して欲しいなぁ!」
「あぁ……極上の肌触? だっけ?」
「そうそう!」
「何が極上なんだよ……あれ触れたら腕吹っ飛ぶ火力だろ!?」
「てへぺろ!」
「キモい」
それを見てザーコがフールに言う。
「フール様……やはり彼らはかなり強いですね」
「私たちが苦戦し、撤退までしたジークスパイダーを糸も容易く……あり得ない事が多すぎる。信じられないわ」
『無詠唱で魔法使うジムもそうだけど、キリオの錬金術の錬成度が度を超え過ぎている……そもそも錬金術師は剣を量産するか、戦争に置いての地形変動のアシスタントとしての役割しか出来ないはずなのに……それが戦闘に加わって来る事自体が不可能なはずよ? いったいどうなっているのよ』
ザーコは二人に話しかける。
「すいません。助かりました……お二人は本当に強いんですね!」
更にフールがジムに聞いた。
「ジム……さっき無詠唱で魔法使ってなかった?」
「使ったよ?」
「なら何故詠唱の短縮を?」
「ん? だってカッコよくて面白いじゃん! 魔法の名前言って魔法が出ると何か力入るし! 心踊るじゃん! でも、回復魔法は無詠唱では出来ないんだけどね!」
そこへキリオが話に入ってくる。
「ジムは中二病なんだよ」
ザーコが聞き返した。
「中二病とはなんですか?」
「あ……んっと……大人に慣れない? みたいなもん?」
そして、ツルギが話に入ってくる。
「なんですと!? 病と言うことは!! ジム様は何かの呪いに犯されておいでなのですか!?」
キリオが言葉を返す。
「お前今まで何処にいたんだよ」
「ジム様をずっと応援しておりました」
「お前……ギャグ担当になりつつあるな……とにかくジムは呪いじゃないから安心しろ! 頭のネジが足りなくてさらに頭がキレる頼れる仲間だと思ってればいい」
フールがジムに聞く。
「私にも詠唱の短縮や頑張れば無詠唱は可能なのか?」
「出来ると思うけど……コツ掴むまでは結構かかるよ?」
「聞かせてみてくれ」
「いいよ! 魔法は詠唱が必要だと思われてるけど詠唱はただの補助なんだ!」
「補助? 儀式ではないのか?」
「普通はそう言う解釈になってるよね? 説明するとーー」
ジムは地面に文字を書き始めた。
「ーー初級詠唱は……我、理に触れ、主たる根源に至し魔を拝頂せし、今ここに我が名を持って戒現せよ。って決まった詠唱があるけど! この「我、理に触れ」と言う言葉は体内にある魔力を集め、構築する前の準備の術式で、「主たる根源に至し魔を拝頂せし」で構築術式で「我の名を持って戒現せよ」で再現…そして、魔法名で発現し、発射する様にできているんだ!」
「なるほど……魔法とは理論分解するとその様になっていたのか」
「詠唱の通り、神に借りてると思っているだろうけど初級魔法は基本的に体内魔力なんだ! 上級から上は確かに自然から魔力を借りるけど、基本的には体内魔力で補っているんだよ!」
「しかし、それと無詠唱に何の関係があるのだ?」
「それなんだけど、この「我、理に触れ」って所で体内での魔力の流脈の動く感覚を自分の意思で動かす事ができるんだ」
「なんだと!? そんなことが!?」
「後はイメージと感覚で何度も練習すれば出来るよ! 試しにーー」
ジムは実践し、掌に水の玉を生成して見せる。
「ーーこうだよ!」
フールも見様見真似で試す。
「我、理に触れ……この感覚を……」
しかし、フールの掌には何も起きない。
「く……難しいなぁ。流脈とやらがつかみ取れない」
その話にキリオが割って入る。
「相変わらず簡単に言うな」
「大丈夫だよ! キリオは才能無いだけだから!」
「おい! サラッと悪口じゃねぇかよ!」
ザーコがキリオに聞く。
「キリオさんは魔法は使えないのですか?」
「魔力の操作は出来るんだけどな。自分の作った武器に使うぐらいで、魔法を発現させる戒現値がゼロで全く使えない」
その言葉にフールが言う。
「所詮は錬金術師なんだから使えなくて当たり前でしょ!」
そこでジムが口を挟んだ。
「でもキリオは僕より魔力量が多いんだよ!」
それを聞いてフールが驚く。
「はぁ!? ただの宝の持ち腐れじゃない!!」
「おい! ただの悪口じゃねぇかよ!!」
ジムが話を戻す。
「とりあえずは慣れるまで実戦では試さない方がいいですよ!」
「そうね。これは本当に難し……ん?……この感覚は何処かで……」
『……水面に体を預けた時の様な……』
その瞬間フールの掌に不安定な水の球体が出現する。
「フールさん凄いよ! 出来てる! 出来てるよ!」
しかし、水の球体は形状維持できずに弾けてしまった。
「まだまだ安定しない……もっと頑張らなきゃな」
フールの所業にザーコが目を輝かせて言う。
「凄い! フール様凄いです! 一回聞いただけでこれほど再現出来るとは!! フール様さすがです! やはりあなたは村の長に成り得る方なのでしょう!!」
ザーコの言葉にフールが顔を赤らめて言った。
「よ、よしてよ……私はただ……いや……あ、ありがとう」
フールの照れた表情にザーコも顔を赤く染める。
「あ……い、いえ…取り乱しました……す、すいません」
「もういいわよ! 次へ向かいましょ!」
先へ足を進める中でキリオとジムは嫌らしい笑顔へと変わり、キリオがザーコに耳打ちをする。
「なぁ!? フールの事好きなのか!?」
「はいっ!? え?! あ! いや……はい……」
「ほう? どうなの? 告白の予定はあるのか!?」
『久しく忘れていたこのピュアな感じ!! ワクワクする!!』
「いえ……私は末長くお支えさせていただければと思っております。どちらかと言うと憧れに近いと思います」
「ほうほう……いいじゃんいいじゃん!」
その時、ジムもフールに耳打ちで聞いていた。
「ザーコの事好きなの?」
「は!? いや! 好きとかそう言うのじゃ……ただの幼馴染よ」
「ふーん! へぇー!」
にやけるジムにフールは言った。
「な、なによ!?」
「いや! こういうの楽しいなって思ってさ!」
「ちょっと! 遊びじゃないのよ!!」
「わかってるさ! 応援してる!」
「えっ!? あ、ありがとう……」
話についていけないツルギが口を開いた。
「フールよ!! 我も応援するぞ!!」
「ゴブリンは話しかけないで」
「ジム様……コイツ殺していいですか?」
5人は先を進む。