「マナの森」
「マナの森」
マナダンジョン攻略の為、キリオ達は一度出直し、ジムに事の詳細を伝え、改めてマナの森に向かう。
キリオ、ジム、ツルギ、そしてエルフ族から2人の計5人でチームを編成した。
そこでエルフの女性が口を開く。
「まだ自己紹介はしてなかったわね。私はフール、こっちはザーコよ」
「よろしくお願いします」
「キリオ」
「ジムだよ!」
「ツルギです」
そして、フールはゴブリンを見て言った。
「私、ゴブリン嫌いだから喋りかけないで」
その言葉にツルギはジムに言う。
「ジム様 コイツ殺していいですか?」
「ん……どうするキリオ?」
「普通に考えてダメだろうが! アホかっ!!」
そのやり取りを見てフールが言った。
「緊張感無いようだけど……ふざけてるならこの先死ぬわよ」
ジムが言葉を返す。
「その時は僕がなんとかするよ!」
「そんなあなたは何者なの?」
そのフールの言葉にキリオが口を開く。
「ジムは次期、国師魔法師に1番近い奴なんだよ」
「国師!? え? は!? なんでそんな奴が錬金術師と一緒にいるのよ!?」
「どういう意味だよそれ」
『コイツ喧嘩売ってんのか』
キリオは言葉を続ける。
「俺はともかく、確かにジムは強い。ジムが敵わないようなら逃げる。それだけだ」
「キリオは弱いのね。良くわかったわ」
「……。」
『コイツ! マジで喧嘩売ってる! 俺が殺ってやろうか!?』
その時、先頭を歩いていたザーコが急に身を屈め全員に言う。
「近くにモンスターがいます」
全員は息を潜めて、周りを見渡す。
そして、フールが遠くの方で敵を見つけた。
「ジオウルフだわ。食事中みたい……周りには……仲間は居ないみたいね。ザーコ、一応警戒して」
「はい」
しかし、キリオやジム、ツルギにはその姿は見えなかった。
「ジム見えるか?」
「いいんや! 全然!」
「エルフってすげぇな」
フールは背中に持つ弓を取り、構える。
「私が殺る」
そして、フールは小声で詠唱を始めた。
「我、理に触れ、主たる根源に至りし魔を拝頂し、今ここに我の名を持って戒現せよ……無音乃一旋……」
構えた矢に緑の風が取り巻き、渦を巻く。
そして、フールが狙いを定め、矢を放った瞬間に矢は消え、気づけばジオウルフの首が根元から弾け飛ぶ。
「……。」
辺りを確認し、他に仲間がいないかを探る。
「やっぱり他に仲間は居ないみたいね。さぁ……行きましょう」
魔法を見て、キリオとジムは驚いた。
「え? エルフって魔法使えんの!?」
「た、確かに!?」
それにザーコが答える。
「全員が使えるわけではありません。今のエルフの村で魔法を使えるのは6人程度で、その6人がエルフ族の精鋭部隊になっています」
「フールって意外と凄いんだな」
キリオのその言葉にフールは怒った。
「あんた私のことバカにしてんの!?」
「は? 褒めてんじゃん! それに、散々人を馬鹿にしておいて良く言うわ」
「は!?」
「なんだよ」
「錬金術師の雑魚の分際で良くそんな口が聞けたものね!?」
「ほら! そうやって見下す事しかできないじゃん!」
「あったまきたぁ! 次魔物来たらあんたがやりなさいよね!」
「はいはい……わかったわかった」
するとその時、驚いた顔でザーコが人差し指を口に当て言う。
「み、み、皆さん……か、隠れて……」
ザーコは乱れる感情を必死で抑え、冷静を装っていた。
茂みなど木の後ろに各々隠れ、焦るザーコがフールに合図し、敵の方向を知らせる。
フールは敵を見て驚いた。
先程のジオウルフより遥かに大きい狼。
人を丸呑み出来るほどの大きな口、そして、鋭い牙と角。
先程のジオウルフの死体を鼻で摩り、生死を確認していた。
「……っ!? あれは!? マナークウルフ!? なんでこんなところに居るのよ!?」
『やばい!? さっきのは奴の仲間!?』
「フール様! マナークウルフは鼻が凄まじく効きます! 気付かれる前に一旦撤退を!」
「そ、そうね……」
しかし、その時マナークウルフは仲間が死んでるのに気づき、身が震えだす程の怒りの雄叫びを上げた。
「……っ!?」
『まずい! やられた!? 体が動かない!!』
マナークウルフのスキル、捕食者でフールとザーコの体が硬直する。
『全員ここで殺される!?』
フールがそう思った時だった。
「あの大きさで漸く確認できるな……ジムどうだ? いけそうか?」
「キリオとなら余裕でしょ?」
普通に会話をする2人がいた。
『は!? なんで!? この2人は平気なのよ!? 相手はマナークウルフよ!?』
そして、ツルギも会話に入ってくる。
「私は何をすればよろしいですか?」
ツルギの言葉にジムが答えた。
「お前は待機。他にも仲間がいるかも知れないから警戒してくれ」
「御意」
そのツルギを見てフールはまた驚く。
『はぁ!? なんで!? どうして低級ゴブリンが平気でいられるのよ!? 私達は体も動かせなければ声も出ないのよ!?』
そして、ジムがキリオに作戦を伝える。
「いつも通り行く! キリオは前衛お願い!」
「まかせろ!!」
その瞬間、キリオは走り出した。
マナークウルフはキリオに気付き、もう一度スキル捕食者で雄叫びを上げる。
しかし、キリオには効かないと理解し、キリオを迎え撃とうと前傾姿勢になった時だった。
ジムはマナークウルフに向かって手を翳し、魔法を使う。
「大地之濃接吻!!」
ジムの魔法により、マナークウルフの足元に紫色に輝く魔法陣が出現し、マナークウルフは凄まじい衝撃と共に地面に叩きつけられ、身動きが取れなくなる。
そして、ジムの魔法にフールが驚いた。
『詠唱の短縮!? そんな事が可能なの!?』
間髪入れずにキリオは地面に錬金術を使っていた。
皮膚に錬成陣が浮かび上がり、自分の足元から上に向かって連なる岩を作り出し、自分を宙に跳ね上げた。
『は!? 錬金術師のただの人間があんなに高く上がって何する気!?』
キリオは足が岩から離れると同時にドライヤー型のデザインされた斧を作り出し、魔力を注ぐ。
「一撃で終わらせて殺る!!」
中のファンが凄まじく回転し、突風を起こし、キリオは回転しながらマナークウルフの隙だらけの首に目掛けて力一杯に落ちる。
「おらぁっ!!」
力、引力、遠心力を全て使い、キリオの一撃は凄まじい衝撃音を奏でてマナークウルフの首を1発で切断してしまった。
首を切断されたマナークウルフは数秒だけ、首と体が別々に蠢いたが蠢も直ぐに沈黙する。
「一丁上がり!」
そして、キリオは武器を分解し、ジムに言った。
「おい! ジム! 笑いそうになったぞ!」
「え? 何が?」
「え? 何が? じゃねぇんだよ!! 大地の濃い接吻って地球とのディープキスじゃねぇかよ! 何がグラビティハードなんだよ! 中二病にも程があんだろ!!」
「さすがキリオ! そこまで伝わっているとは! ちなみに、もしキリオの斧を名前つけるなら暴風之斧なんてどう?」
「やめろ! ださい! 使いたくなくなる!」
戯れ合う2人に硬直状態から解けたフールは言った。
「あんた達はいったいなんなの?」
その言葉にキリオが口を開く。
「詮索しないなら少し教えてもいい」
「ち、誓うわ」
キリオはフールに耳打ちする。
「は!? そ、そんなの嘘よ!? そんな事が有りえるわけない!」
「……。」
『普通はこういう反応だよな』
「いや……確かにあの斧の形はこの世の中では見た事がない……しかし、それだけではジムの詠唱の短縮や、キリオの人間離れした動きの説明がつかない」
「詮索は無しって言ったろ」
『まぁ……俺が人間離れしてるのはまだわかってないんだけどな』
「わ、わかったわ」
その時、茂みが微かに動き、全員が警戒し、構え、マナークウルフの仲間が居ると誰しもが思った。
「……。」
息を潜め警戒するがその茂みは微かに動くばかりだった。
恐る恐るキリオは茂みをかき分け、中を除くとそこには1匹のマナークウルフの子供が木の枝で遊んでいた。
「大丈夫! 危険はない!」
キリオはそう言って仲間の警戒を解き、全員がマナークウルフの子供を確認し、ザーコが口を開いた。
「これはとても珍しい事ですよ? マナークウルフの子供はかなり貴重なんです」
「へぇ……」
キリオもジムも特に興味がなかった。
しかし、マナークウルフの子供がキリオに気づき、キラキラと目を輝かせ見つめる。
「なんだよ! 何見てんだよ!」
その時、ザーコがもう一言言った。
「確か……高値で売れると」
その瞬間だった。
ジムとキリオのマナークウルフへの対応が変わる。
「おいで! いい子だから! こっちおいで!」
「キリオはもう猫が1匹いるからダメだよ! だからこっちにおいで! ほら! おいで!」
金の話に急変した2人を見てフールとザーコは一歩引く。
そして、マナークウルフの子供はジムとキリオの手の匂いを交互に嗅ぎ、キリオの手を伝って頭に乗っかった。
「おっしゃ!! 俺の勝ち!」
「くそ! なんで僕じゃないんだぁ!」
勝ち誇るキリオに悔しがるジム。
フールとザーコは2人を見て金は人を変えることを学んだ。
そして……
マナの森に向かい数分を歩き、森の崖にたどり着いた
。
キリオとジムはその光景を見て驚く。
崖から抉れた様な広大なクレーターの森。
そして、その真ん中には凄まじく大きい発光する大樹があった。
大樹を見てキリオは言葉が漏れる。
「なんだよ……あの木……」
驚くキリオにフールが答えた。
「あれはマナの大樹。この森林を守る神でもあるのよ」
更にザーコが言う。
「ここから魔物の強さが桁違いになりますので、気を引き締めてください」
その言葉にキリオが返した。
「み、見たらわかる……」
『なんか……プテラノドンみたいなの飛んでんだけど……』
キリオが見ていたのは空を飛ぶ物体だった。
その言葉にザーコが答える。
「あれは大丈夫ですよ。草食なので害はありません。問題は……」
「まさか……」
『ティラノサウルスとか言うじゃねぇよな?』
その時、崖から見下ろす森の木々が数本薙ぎ倒されるのが見えた。
「……まじかよ」
『しっかり居るじゃん……』
キリオは故郷で良く知られているティラノサウルスと似ている魔物を見つける。
そしてザーコが口を開く。
「あのテラレックスの所為で最近は食物が目減りしました」
「ならあれを倒せば良いんじゃないのか?」
『テラレックスって言うのね……』
「いえ……あれは遺跡から産まれ、放たれています。遺跡を攻略しなければ絶える事はないでしょう」
「なるほど」
「では、向かいましょう」
キリオ、ジム、ツルギ、フール、ザーコの5人はマナの大樹に向け足を運んだ。