プロローグ
プロローグ
ヒューマンのキリオ、ジム、エルフ族のフール、ザーコ、ゴブリン族ツルギの5人は遺跡に訪れていた。
その時、突如として、危機迫る凄まじい悪寒が突風の様に押し寄せ、金髪の女性エルフ族のフールは一早く危険に気づく。
『な、なに!? この気配!?』
「ちょっと待ってみんな!? な、何かとてつもない気配が……うしろ!?」
フールが凄まじい気配を背後から感じ、振り返ったその時、門の更に向こう側の洞窟から奴は現れた。
「……な、なんなの……あいつ……?」
目視した事で全員がその恐怖を感じ表情が歪む。
奴は途轍もなく悍ましい気配を纏い、顔は骸骨、武装された鎧、中は空、そして大きい剣を片手に奴は現れた。
「おおぉぉ……これは素晴らしい魂思意が揃っているな」
マグリのその言葉は全員の頭に響き渡り、更に言葉は続いた。
「おぉぉ……珍しい…魂交換者が一つとは……これはなんと好機なことだ……ん?」
マグリはその時、何かを見つける。
「これは?……魂思意を司る天使、サリエルの恩恵ではないのがいるな……この気配は……」
マグリはその場に居た全員の魂思意を探り、思いも寄らない事態に瞳孔を狭め驚く。
「な、なんだと!?……伊弉諾尊の恩恵だと!? なぜだ!? この世界に干渉しているとでも言うのか!? も、もしや…ノアの方舟の選定者!? ならなぜだ!? なぜ七十三に貴様がいるのだぁ!?」
マグリの言葉は何一つ理解できない。
それでも、全員はたった一つだけはわかっていた。
悍ましい脅威が近づいて来ていると。
「皆!! 逃げてっ!!」
フールが勇気を振り絞り、激声を上げる。
しかしーー
「動くな」
ーーマグリのその言霊で全員は動けなくなった。
『何これ!? か、体が動かない!!』
「ジム!? キリオ!? あなた達は!?」
フールは直ぐに状況を確認する。
「だめだ! なんだこれ! 動けない!!」
「くそ! なんだよこれ!!」
キリオもジムも動けないのは同じだった。
そして、マグリは刻々と近づく。
「まぁいい……全員食ってしまえば同じことだ。魂の声を我に味わわせてくれ」
その時まだ遠くに居たはずのマグリが気づいた時にはエルフの男性のザーコの目の前に立っていた。
「先ずはお前から頂こう」
「は、速いっ?!」
マグリはザーコの頭を左手で鷲掴みにする。
「良き魂鳴を期待するぞ」
『に、逃げなきゃ!? くそ!? でも体が動かない!!』
それを見てフールが叫ぶ。
「お願い! やめて! あなたの目的はなに!? なにか私達に出来ることがきっとあるはず!! だから! 協力をさせて!!」
『な、なんとか時間だけでも稼がないとザーコが殺されてしまう』
そして、マグリは言った。
「歩兵の分際で我らに協力だと?」
「歩兵でもなんでもいいから! ザーコだけは! ザーコだけは見逃して! お願い!!」
そして、フールはザーコと自分さえ助かりたいと願ってしまう。
「後ろの人達だけが目的なら私達は関係ない!! だから……」
もうフールは決断するしかなかった。
「お願い……お願いします。私に出来る事なら何でもします。だからザーコだけは……助けてください……」
「お、おい……な、何言ってんだよ……」
突如として仲間を売るフールの言葉にキリオは自分の耳を疑った。
「私にとってあなた達よりザーコが大切なの。それに……私……錬金術師を絶対に許せない!!」
顔を伏せて歯を食いしばりフールは嫌悪の目をキリオに向けてそう言った。
「……は?……な、なんだよそれ……なんなんだよ!」
『また錬金術師だからなのかよ……』
それを聞いたマグリは笑う。
「フハハハ! 良き欲望ではないか! 清らかな心故に仲間を売ってでも愛する此奴を救わんとするか! 良き強欲に近いその感情! 我は喜びを覚えるぞ! フハハハ……」
マグリの言葉にフールは希望が垣間見えた気がした。
しかしーー
「だが、お主の欲望は強欲では無く、傲慢だ。その欲する顔が、声が、魂思意が、どんな味に変わるか……とても楽しみになった」
ーーマグリの続いたその言葉にフールの表情は一変し、絶望へと変わる。
「……え?」
そして、その瞬間フールは理解した。
ザーコが殺されると。
「や、やめて……お願い!! やめてぇえ!!」
フールは必死で動かない体を何度も何度も動かそうとする。
今直ぐにでもザーコの元へ駆け寄り、助けたい気持ちが溢れる。
しかし、体は動いてはくれない。
「ダメ!! お願い!! やめてぇぇぇえええ!!!」
フールはただ叫ぶことしか出来なかった。
「フハハハハハハハハハっ!!!!」
時間がゆっくりと流れる中、マグリの笑った声が耳を打つ。
しかし、それでもザーコの声ははっきりと聞こえた。
「フール様……叶わぬ恋でした……」
ザーコは一瞬だけ、フールに微笑みを向けてそう言った。
そして、ザーコの断末魔の叫びが辺り一面を一瞬で染める。
「ああぁぁぁあああああああ!」
マグリはザーコの頭を体から力一杯に引き抜いたのだ。
体から頭が抜かれ、連なる脊髄。
噴き出る大量の真赤な血。
そして。
胴と頭を切り離されて尚、断末魔を叫び続けるザーコ。
「い……いやぁぁぉぁぁああああぁぁぁぁ!!!!!」
フールは目の前の光景に絶望し、悲鳴を上げる。
「……ぁは? ザ、ザーコが……死ん……」
キリオはその状況に経験したことのない恐怖を感じ、混乱する。
唐突にザーコの死を理解したその瞬間に全員の動きを止めていた呪縛が解かれ、全員は崩れる様に膝を着き、キリオは嘔吐する。
「ぅぉえぇ……ハァ、ハァ……ザーコのハァ……目が俺を?……お、俺を見てた?……ぉえぇ……」
乱れる感情。
無惨に殺される仲間の瞬間。
次は自分が死ぬ恐怖。
今まで感じたことの無い絶対に敵わないと思わされる思想。
少なからず、キリオは今まで修羅場を潜り抜け(ぬ)けてきた。
しかし、マグリの恐怖は次元が違う。
キリオは脚がすくみ、顎を揺らし、更に嘔吐を何度も繰り返す。
「……あ……あぁ……」
突然の出来事に仲間のゴブリン、ツルギは放心状態のままただ眺めることしか出来なかった。
「ぼ、僕の……僕の所為? な、なんだよこれ……死んだ……ザーコが死んだ?」
余りの出来事に、ジムも狂い始め、自分を責め、憂いていた。
「……アハハハ……」
その時、突然フールが笑い出した。
「ハハハ……ハハハ……」
心を寄せ、拠り所にし、ずっと一緒に居たかったザーコの死を目の前にフールの感情は今この瞬間に壊れてしまった。
「おぉぉ! 何という美味かぁ! 満たされるぞ! 我の強欲が満たされていく!!」
マグリはこの空間に広がる絶望、表情、思想に感極まり喜ぶ。
「素晴らしいぞ! この乱れ溢れる感情の連鎖! これぞ! 魂感情! 素晴らしい!」
マグリの左手に持つ、揺れるザーコの生首がずっとキリオを見ていた。
「し、死ぬ……こ、このままじゃ殺される……あ……あああああああ!」
その時、キリオはあまりの恐怖に耐え兼ねて、叫びながらその場から逃げ出す。
「いやだ! 死にたくない! 嫌だ!」
キリオは一生懸命に走るが、恐怖で脚が竦み、震えて上手く走ることが出来てなかった。
それでも必死にその場から逃げようとする。
キリオは恐怖から逃げた。
「ぼ、僕達を置いて……に、逃げた? な、なんだよ……裏切……」
目の前で友達が自分の命惜しさに逃げ出したのを見てジムは目を疑い絶望し、逃げるキリオを見てマグリが笑う。
「ガハハハハ! なんと無様かぁ! 仲間を見捨て自分だけが助かりたいと!? 笑いが止まらない!! 愉快だぁ! 愉快愉快!!」
そして、マグリは一呼吸置いて言葉を続ける。
「だが……」
その言葉を残し、瞬間的な移動で気づけばキリオの目の前に立っていた。
「うぁぁあああああ!!」
突然現れたマグリにキリオは恐怖で叫び声を上げ、後ろに倒れる。
「……見るに耐えない」
キリオは泣き叫んだ。
「や、やめて! 殺さないで! し、死にたくない! 死に……」
その瞬間だった。
「……え?」
キリオが気づいた時には頭が両断されていた。
プロローグを読んでいただきありがとうございます!
これから「錬金術使いの異世界美容師」をお楽しみください!!