聖女はつらいよ。
「ブラック企業で働いているみたい」
先代聖女はぽつりとつぶやいた。
どこか遠くを眺めてつぶやく師の姿を、印象深く覚えていた。
ボロアパートの一室で、ブラウン管テレビから名探偵が活躍する推理ドラマが流れている。
「犯人は副社長!」
「拙者はしがないサラリーマン課長に一票」
「え、そっち?」
一緒に見てる忍者のサスケに、おにぎりを渡す。
「かたじけない」と受け取ったサスケは、牛乳を片手に頬張りながらテレビに見入っている。
おにぎりと牛乳ってあうの?
サスケは戦国、幕末番組も好むテレビっ子で、聖女である私の護衛だ。
空腹で倒れていた彼におにぎりを恵んで以降、守ってくれている。
「桃太郎のきび団子みたい」
私とサスケの関係を、師は笑ったっけ。
先代聖女の師は神様の手違いで、別の世界からこの世界に来た。
元の世界に戻せない罪悪感から、一つだけ望みを叶えると言った神様に、師は即答した。
「テレビ!」
元居た世界の番組をリアルタイムで見たい。
師の願いは叶った。聖女の癒し魔法使えるおまけつきで。
聖女として有名となった師は、求めに応じて能力を使った。
日夜問わず、連日問わず。
テレビを見る間も無くて疲れて、うっぷんが溜まって爆発して失踪した。
近所に住んでいた私に丸投げして。
本好き文学少女だった私を、師は後継者として育てていたのだ。
本人の了解もないままに。
師の雲隠れ以降、仕方なく師の後を継いでいる。
テレビも一緒にね。
「勇者の話、受けるでござるか?」
「偽物の? 受けないわよ」
巷で噂の勇者。
「先代の聖女は伝説の大魔王にさらわれた! 助けに行こう!」
と騒いでいる。
入道雲による激しい雷と豪雨を「ドラゴンの仕業!」と騒ぐ「偽物」勇者だ。
暇つぶしで「魔物討伐!」と騒ぐ困ったちゃんでもある。
ケガ治す私の仕事、増やすなっての。
それにしても。
「おねぇの大魔王……」
ダメだ。笑ってしまう。
師にホの字の兄は、男性が苦手な師の前で、おねぇを装っている。心も体も健全な青年なのにね。
兄は失踪した師に付き添って、森の奥深くで暮らしている。
師の体を気遣ってつくる野菜は農民顔負けだ。
「聖女ってさ。疲れて治癒の魔法をコントロールできないと、文句言われるのよ? 愛想つきて当然でしょ。私も先生の必殺技使いたいわ」
「必殺技?」
首を傾げるサスケに、私はにっこり笑った。
「魔王側についてもおかしくないわよね?
魔王の妹なんだし♪」
あらすじにも書いてましたが。
「なろうラジオ大賞2」応募の作品になります。
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※本筋を変えず、本編内の細かな文章の訂正をするか、あらすじの「全ワード記載」文面を修正します。
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