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博士のロボット  作者: おみくじ
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博士のロボット

 幼稚園での最終試験が終わり、そこからちょうど1ヶ月がたっていた。博士の研究所では、円柱型の教育ロボットが、大量に生産されていた。もはや研究所ではなく、工場の様相を呈している。博士はパソコンにかじりつきの毎日。まだ色々とロボットのプログラミングの微調整をしなければいけない。そんななか、博士は時々、息抜きを兼ねて、ある映像を見返していた。それは、幼稚園での試験運用が上手くいったといえる記念すべき映像。


『ロボットとお話が出来た』


 と、喜ぶ園児達の映像だ。


「ねえねえ、キジトラの猫はね、口を大きく笑ってさ、しゃべることもあるんだよ」

「シラナカッタ(=゜ω゜=)」


「見て見て! 今からぼく、手から炎の魔法出すから! はい!」

「カッコイイネ(≧▽≦)」


「これ魔法のクレヨンなんだよ! 願い事を書くと叶うんだ!」

「スゴイネ(*^▽^*)」


 教育ロボットの受け答えに、子ども達が楽しそうに、まるで顔文字のように、思い思いの楽しそうな表情をしてロボットに詰め寄る。


「ねえねえ! もっとお話しよ!」「次は僕が話す番だよ!」「わあ~ん! 次は私がお話しようと思ってたのにッ‼」


 子ども達が楽しそうに騒ぎ立てたり、泣きだす声が流れ、博士の耳に心地よく届く。


「ふっ、どうだ。俺の新たなロボットは」


 博士は勝気な笑みを浮かべた。子ども達の理不尽な答えに、感情を表現する簡単な言葉で伝え、液晶画面でそれに合った顔文字を表示させるようにプログラミングした、博士が新たに手を加え発明したロボット。単純なパターン認識を教育ロボットに入れているだけなのだが、世間では、人の言葉を理解し,感情を持ったロボットだと、大騒ぎしている。イギリスをはじめとした世界各国が、この新たなロボットの誕生に注目している。ぜひ実物を手に取って見たい、と注文が鳴りやまないのだ。


「ははははっ、この子達の喜怒哀楽の映像と、日本の顔文字文化というもののおかげってとこかな」


 博士は苦笑いした。実用化とはいかなかった―――、でも、自分のロボットがこうして世に出るのは誇らしかった。そして、園児達が自分の発明したロボットと、楽しい時間を過ごしているのが、とても嬉しかった。


「ああッ! 落書きしてる!」「ずるい私も!」 


 博士は口元にふわりとした笑みを浮かべ、ロボットが映し出している映像をストップさせた。子ども達が、ロボットに何やら書き込んでいる場面。博士は、幼稚園から無事に帰還したロボット達のとある一体に、目を向ける。赤、黄、緑などカラフルな色のクレヨンで書かれた、自分の名前。

 魔法のクレヨンというもので書かれた自分の名前を見て、博士はふと思う。もしかして、実用化されるという俺の夢が、叶ったりしてな。ふふっ……、まあ、そんなことはないだろうけどな。

 だが博士の発明したロボットは、偉大なるロボットとして実用化されるのだ。教育現場はもちろん、人々がいる色んな所に。だが今の博士に知る由もない。


 博士は円柱型のロボットに書かれた自分の名前にそっと触れた。


「まったく、落書きなんてしやがって」


 これから先、未来に続く、新たな呼び名。人に寄り添い、思いを共有し、感情と会話を通して心を通わせる、まるで人間みたいなロボットにふさわしい名。

 偉大なる、若き天才ロボット博士の名を冠したその名を―――、博士は、優しい笑みで口にした。


「これからもよろしくな、アンドロイド」

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