怒ったり、泣いたり、笑ったり
博士の喉がごくりと鳴る。恐る恐るメールを開くと、「そ、そんな⁉」と博士は声を荒げ動揺した。明日の、再々再々再々再々再々再々試験運用で、実用化の合否を決める、と書かれていた。
博士は青ざめた顔で、研究所にある故障したロボット達を眺めた。まだ10台以上ある。あと残り1日で、子ども達の知識を全部メモリーに蓄積しないといけない。間に合わない、いや、間に合ったところで、また新たなたわごとで故障させられるに決まっている。俺の夢である実用化が……、一体どうすれば? ……蓄積しかない。メモリーにできる限り、たわごとを蓄積……。
博士が故障したロボット達に近づき、震える手で触れた時、誤って1台倒してしまった。ロボットがぶつかり合い次々に倒れ、その衝撃で液晶から園児達の映像が流れ、マイクから音声が一気に飛びだした。研究室の外、夜の静寂さとは真逆の、活気ある賑わいが研究所内に満ち溢れる。園児達のはしゃぐ映像と声に、博士は力なく両膝を付いた。顔はみるみるうちに怒りに染まり、怒鳴り声を上げた。
「この教育ロボットは、おもちゃではないんだッ‼‼ 俺のロボット開発人生の全てを費やしたんだ‼‼ ここまで来るのにどれだけの苦労があったと思っているッ‼ ふざけやがって!!」
だが博士の怒声は子ども達に届かない。虚しく研究所に響くだけだった。もはやロボットの実用化は水の泡となった。ロボット研究機構の研究員らがあざけ笑う表情が頭に鮮明に浮かぶ。
博士の目から、大粒の涙が流れだした。かと思うと急に、ククククッ……、と笑い出した。
「たく……、木の枝を魔法の杖とか、ただのガラス玉を人魚の涙とか、そんなの、ロボットが理解できるわけないだろ!! 答えられる分けがないだろ!! 人間じゃないんだからなッ!! 滅茶苦茶な事言いやがって!! あはははははっ!!」
園児達が自由に、何ものにも縛られる事無く、心の思うままにロボットに話かける映像を、博士は見続けた。怒ったり、泣いたり、笑ったりしながら。