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【幕間・真珠】熟女おそるべし & 穂高について

 翌朝、完全に寝坊して、九時近くに目覚めた。


「あれ……? 貴志は?」


 寝惚け眼で貴志の姿を探したが、彼は部屋にいなかった。

 既に起床して、業務の打ち合わせでもしているのだろうか。



 けれど、隣に敷かれていた布団には、人の寝た形跡がない。



 あいつはいったいどこで寝たのだ?



 もしや、どこかのお姉さんと一緒に(ただ)れた夜を過ごしていたのか?



 一夜のアバンチュールとは、なかなかやるな。



 貴志が部屋に戻ってきた時に「旅先でもお盛んですね」と物凄く感心して伝えたら、かなり機嫌を損ね「今度は本当に口を塞ぐぞ」と脅された。


 まあ、確かに誰かに聞かれたい内容でもないかと申し訳なく思い、彼を気遣って「よい良い、お姉さんは全て分かってますよ」と物分りの良い大人の対応を続けていたら、更にはデコピンまでくらった。


 しかも治りかけのタンコブの上からだ。


 なんという非道な真似ができるのだろうか、この男は!



 それはさておき、わたしの体調も全快だ。

 朝食も美味しくて、ご飯のお代わりまでした。


「おはようございます。真珠さん」


 ロビーの中にある土産物コーナーで、めぼしいものを物色していると佐藤マネージャーが声をかけてくれた。


 ちなみに貴志はすぐ近くのチェックインカウンターにて、スタッフのお兄さんと歓談中だ。


「おはようございます。佐藤さん」


「お加減も良くなられたようですね。昨日とは見違えるほど顔色が良いですよ。これで安心ですね」


 そう言って嬉しそうに笑ってくれた。


「あら? ここ、虫に刺されたのかしら? 痒くないですか? お薬が必要ですね」


 佐藤さんはそう言って、夕べ貴志にチクッとされた首筋を指さした。



 どうなっているのだ? 見えん。



 わたしはハッと息を呑んだ――まさか、まさかとは思うが、大人の階段のひとつ、チュウ・マークなのではないか⁉


 あ、あああ、あのチクッは、そういうことだったのか⁉


 わたしは慌てて首に手を当てる。


 なんたることだ!!!

 これは、貴志に意趣返しをされたのだ。きっと。


 あの鬼押出し園にて、わたしがあやつめにした破廉恥行為。あれの仕返しだ。多分。


 なんだか白目を剥いて倒れそうになった。



「はは……お気になさらず。悪い()に……吸われたのかもしれません……お仕置きに」


 虚ろな目になって、乾いた笑いで答える。


「あらあら、それは大変。あとで『絆創膏』をお届けしますね」


「はい、お願いします……」


 貴志め。乙女の柔肌をなんと心得るのだ⁉


 どう責任をとってもらおうかと算段していると、カウンターで話をしていた貴志がこちらに戻ってきた。



「おはようございます。葛城オーナー」


 佐藤さんが仕事モードで、貴志に腰を折って挨拶をする。


 公私の切り替えはさすがだ。

 星川リゾート『紅葉』のフロントマネージャーという肩書を持つだけはある。


「おはようございます。佐藤マネージャー、どうかしましたか?」


「ええ、真珠さんが首を『悪い虫』に吸われたようなので、そのお話を──オーナー……いえ、貴志くん。あなたの性格からはかるに……何か理由があることとは思うけれど、少しおいたが過ぎます。彼女が普通のお嬢さんでないことは心得ておりますが……節度というものは持ってください。

 真珠さん──後ほどスタッフに絆創膏を届けさせます。あまり他人様(ひとさま)にお見せするようなものではございませんしね」


 そう言うと、フフフフと笑いながら去って行った。


 少し怖い笑い方だった。



 悪い虫とは言ったが、その裏の意味まで瞬時に理解したということか――おそるべし佐藤マネージャー。



 人間の本質を見抜く熟女。


 どこまで何を知られているのか、ちょっと怖くなった。




 熟女を見送った貴志は、バツの悪そうな顔をしている。


「すまない……真珠、もう少ししたら出発するから、土産を選ぶなら今だ」


 そう言うと貴志は土産物コーナーに入っていく。


 彼はお土産物色中のわたしの元へ、水色のスカーフを持ってきてくれた。


 シルク織りが美しく、今日着用している紺色のサンドレスにピッタリだ。


 どうするのだろう?


 不思議に思っていたところ、そのスカーフをわたしの首に巻き、可愛いお花の形のワンポイントを作ってくれた。



「悪かった。まさかこんなことになっていたとは……、昨夜は、その……自分の中で色々と不都合が生じて……記憶が……少し、飛んでいる。

 あの夕食後から、()()()()()()()()()――お前の姿が……いや、そんな筈は……でも、あれは何だったんだ?」



 貴志から意味不明な謝罪を受けるも、彼は訝しげな表情を見せ黙ってしまった。


 何故か悄然(しょうぜん)としているようで、困惑も見てとれる。


 なぜかわたしに対して申し訳ないと思っているようで、大変悔やむ様子はいつもの彼とは違った。


 わたしは頭を捻る。


 なんだ? どうしたんだ?


 まあ……いいか。

 そんなことよりも、お土産を探さねば!

 あと、このスカーフのアレンジはどうやるのだろう?


 ねじって捩じってシニヨンを薔薇の花みたいにして、首元の『虫刺され』は上手に隠されていた。


 手先まで器用とは、やはり攻略対象者は侮れない。


 わたしは貴志の手先の器用さの方に意識をとられ、彼のおかしな様子は完全に頭の隅に追いやってしまった。



 興味は完全にスカーフアレンジに移っていたところ、大学生三人娘がチェックアウトのためロビーにやってきた。


「あ! 真珠ちゃーん、おはよう」

「ノゎ……葛城さんもおはようございます」

「おはようございます」


「お姉さま方、おはようございます」

「皆さんお揃いで。おはようございます」


 三人娘は、今日これから都内に戻るらしい。


 『滞在中、本当に楽しかった』と何度も何度もお礼を言われた。


 最後にカナちゃんが、わたしに連絡先を渡してくれた。


 カナちゃんは、酒田加奈子ちゃん。

 ルリちゃんは、西尾瑠璃ちゃん。

 ミチルちゃんは、佐竹未知留ちゃん。


 ――という氏名だと分かった。


 三人で今回の旅行のお礼をしたいから、もし気が向いたら連絡してね、ということだった。


「真珠ちゃんは、『葛城真珠』ちゃんでいいのかな?」


 カナちゃん改め、加奈ちゃんから聞かれた。


 貴志に目配せで確認をとると軽く頷いている。

 本名を伝えても良いということだ。


「わたしは、月ヶ瀬真珠と申します。貴志兄さまとは親類で、本当は兄妹ではないんです」


「そうなんだ! 月ヶ瀬……、どこかで聞いたような? ん? 気のせいかな~?」


 月ヶ瀬――知らない人はいないだろう、日本の財閥系グループのひとつだ。


 三人は頭をひねっていた。

 すぐにはわたしと月ヶ瀬グループには繋がらないようだ。


 でも、この三人だったらそれを知られても悪用されることはないだろう。

 彼女たちは信用できる人間だ。


 また会えたら嬉しいなと思う。


「お姉さま方、お気をつけてお帰りになってくださいね」


 わたしは笑顔で手を振り、三人に別れを告げた。



「さて、俺たちもそろそろ行くか?」


「はい! 貴志兄さま!」


 わたしは元気よく、妹演技で返事をした。



          …



 長野から奥日光へ向かう道すがら、貴志は穂高兄さまについての話をする。


「穂高は、あいつは、プログラミングとか詳しいのか?」


「え? どうだろう。分からないな。そういう分野の習い事はしていないけど」


「そうか……」


 貴志は何かを考えているようだ。


「ファミリーセーフティ機能は、義兄さんがつけているって言っていたんだけどな」


 そんなことをブツブツ独りごちている。


「どういうこと?」


 わたしは疑問に思って質問する。


「いや、昨日、実は何度か穂高と電話で話したんだが、年齢にそぐわない単語が続々と出てきてな。子供向けのフィルターはつけているってお前の親は言っているんだけど、どうも……セキュリティをいじっているようなんだ。あれはプログラマーというよりはハッカーに近いか……?」


 なんと⁉


「話をしていたら、自宅のネットワークを使ってパスワード解除したり、メインコンピューター内のデータを書き換えたりしているようなんだが……。そんなことを子供ができるものなんだろうか?」


 貴志は心底不思議そうにしている。


「ああ、なるほど。貴志の疑問はそういうことか」


 わたしは得心して、答えた。



「穂高兄さまは、所謂(いわゆる)ギフテッド――元々の資質は、言語に特化したGiftedなんだと思う。」



「ギフテッド?」


 貴志はわたしの言葉を反芻する。


 そう、お兄さまはおそらくギフテッドを超越したギフテッドだ。



『紅葉』の一夜。


貴志の不可解な行動の理由は、ファンディスク編にて判明となります(*´ェ`*)

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克己&紅子


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