【幕間・真珠】貴志とドライブ 1
幻想的な緑に覆われた森の中。
わたしはガゼヴォの下で、美しい花の妖精の二人姉妹と遊ぶ。
陽だまりに咲く花の妖精スズリンが笑い、氷雪の花の妖精ハルルンが微笑みながらわたしの名前を呼ぶ。
『シィシィ、こっちだよ』
――と。
ああ、やっとハルルンがわたしに笑いかけてくれた。
普段、笑わないハルルンの微笑は、わたしの心をホッと温かくしてくれる。彼女の笑顔を見ることができただけで、本当に嬉しい。幸せだ。
わたしはその幸福感と共に、美人妖精姉妹の胸に飛び込む。
二人に挟まれ、ハルルンとスズリンに抱きしめられる。そして、二人は、わたしの頬に優しくキスをしてくれた。
すごくドキドキする。今まで感じたことのない至福の時間に、わたしの顔はきっと真っ赤に色づいているのだろう。
ああ、なんて満たされた、夢のように幸せな時間なのか。こんな時間がずっと続けばいいのに……――
――ゴンッ と鈍い音が響く。
頭が痛い。
何処かにぶつけたようだ。
ボーッとしながら目を開けると、そこは車の助手席。ジュニアシートの上だった。
ああ、いい夢を見ていたというのに何ということだ!
笑わないハルルンが微笑んで、あまつさえホッペにチュウッとしてくれたのに。
今でもドキドキしているのだ。嬉しくてたまらない。
もうすぐ、一年に一度会える、あの花の妖精姉妹と、星川リゾートの裏の森で遊べるのだ。
スズリンは雛菊――デイジーのように可愛らしく、暖かな陽射しを思わせる年下の女の子。
ハルルンは、氷の花――寡黙だけど静謐な雰囲気をたたえた超絶美人さんだ。ハルルンは、スズリンのひとつ年上で、わたしと同い年。だけど、とても大人びて見える。
ちなみにシィシィとは、わたしのことだ。
スズリンは、わたしのことを光の妖精と呼んで慕ってくれていた。
去年も一昨年も、星川リゾートの裏の森で遊んだ。だから、今年も会えるんじゃないかと、とても楽しみにしている。
昨年、四歳時の真珠は、彼女たちを本物の妖精だと信じていた。
転生して、そういう妖精を見る力を手に入れたのか⁉ とちょっと浮き立ってしまったが、そういうファンタジー設定は残念ながら『この音』の世界には存在しないことを思い出し、早々に意気消沈した。
ああ、彼女達と会える!
あの森でまた遊べる!
わたしの心の奥にいる幼い真珠は興奮冷めやらぬ状態で、わたしまで触発されてワクワクしているのだ。
女の子。しかも美少女二人姉妹だ。
こう、なんというかクルものがある!
でも、こんな夢を見るなんて――女の子とイチャイチャしてドキドキするなんて、最近のストレスも重なって――なんというか、言いたくはないが――
(欲求不満になっているのだろうか……それとも痴女の要素が目覚めてしまったのだろうか。いや、百合?……ストレスのあまり、そちらの扉を開けようとしているのだろうか、ああ……どうしようウッカリ女の人を襲ってしまったらっ)
焦ってそんなことを考えていたら、ガツンと頭頂部を鷲掴みにされた。痛い。
「おい、そこのお前。心の声が駄々漏れになってるぞ。聞いていていたたまれないから、口を閉じろ」
右隣を見ると、まさかの葛城貴志!
お前か?
お前がブレーキを踏んで、わたしの幸福な夢は終わったのか⁉
むう、許せん! と思ったが、貴志の科白を思い出す。
「………………。お、ほほほほ……っ、口に出ておりました?」
「ああ。はっきりとな」
「え……えへへへへへへ…………」
まずい。
なんだか非常に気まずい。
『電波』どころか『変態』扱いになってしまう。
それだけは避けねばならぬ。
…
そうなのだ。
だだいまわたしは、お祖母さまの御実家――つまりは貴志の戸籍上の自宅『星川リゾート』へ向かう車中にいる。
正確に言うと最終目的地は中禅寺湖畔の『星川リゾート』なのだが、群馬と長野にそれぞれの用事で寄り道してから、本日深夜に奥日光入りになる予定だ。
ドライバーは貴志。
そして助手席ジュニアシートの上にはわたし。
お祖母さまと穂高兄さまは、そろそろヘリコプターで都内から日光へ移動し始める時間帯だろう。
毎年、お祖母さまの御実家、中禅寺湖畔の『星川リゾート』までは、お盆の交通渋滞を避けるために自家用ヘリで移動していた。
今年も祖母は、穂高兄さまとわたしを連れてお盆に帰省予定だったので、先週中に日光滞在時に使用する物を箱詰めして、早々に宅配便で送り届けている。
わたしも、二人とご一緒するつもりで準備をしていたのだが、うっかり呟いた科白を耳にした貴志が、気を利かせて今回のドライブを持ちかけてくれたのだ。
本編前にしばらく幕間が続きます。
【注意事項】
スタートした幼馴染(星川リゾート編)から■恋愛展開が山盛りになり、本編前の閑話から禁断系恋愛要素が多く含まれます。■
苦手な方はご注意ください。







