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【真珠】忍と出


 加奈ちゃんに手を引かれ、化粧室に到着したわたしは、トイレの個室に入るべく列に並んだ。


 本当は手を洗うのみでテーブルに戻るつもりでいたけれど、時間稼ぎのために用を足すことにしたのだ。


 そう、これは──極力、久我山(くがやま)兄弟と顔を合わせたくないわたしが選んだ、苦し紛れの行動だ。


「真珠ちゃん、お手洗い? じゃあ、わたしも念のために入っておこうかな」


 加奈ちゃんもそう言って、わたしと一緒に空室待ちに並ぶ。


 男女二手に別れ、それぞれの用事が済んだら、お互いを待たずに席に戻ることになっている。だから、わたしたちが遅くなったとしても男性グループを待たせることはない。



 久我山兄弟は先ほど昼食を終えたばかりで、今はまだ愛花(ういか)と話をしているのだろう。


 わたしと加奈ちゃんの二人がテーブルに戻るまでの時間で、彼等の両親の手によって、このレストランから連れ出されていることを祈るしかない。






 列に並んでいる間、わたしは久我山兄弟ルートについて考察する。



 久我山兄弟ルートでは、(いずる)(しのぶ)の双方の好感度を同時に上げていく必要があるのだが、攻略できるのは『主人公』と同じチェリストの出のみ。



 穏やかな雰囲気を持つ優等生の出は繊細で、年上ではあるが守ってあげたくなるような印象が強い。



 その片割れである忍は、まったく同じ外見にも関わらず、性格は正反対。どちらかというと主人公を困らせる問題児タイプ。



 忍は攻略対象ではないにも関わらず、彼との好感度も上げる必要があり、加えて、出との好感度を超えてはいけないという制約が設けられていた。



 性格こそ違えど、外見も声もソックリな二人。


 攻略本には、お互いを演じれば、家族でさえも見分けることができないほどのドッペルゲンガー兄弟という触れ込みがあった程だ。



 だが、しかし、『主人公』だけは彼等が入れ替わったとしても、お約束のように見破ることができたのだ。


 ──正確に言うならば、プレイヤーが判別できなければ、その先の展開に進めない、というだけのことなのだが。



 出との距離を縮める『主人公』を気に入らない忍は、『主人公』を陥れるための悪巧みを開始する。


 忍にとって『主人公』は、出と忍だけだった小さな世界に突然入り込んだ侵入者のように映っていた。


 出を奪われる──そんな危機感を持った忍は、『主人公』を排除しようと画策する。


 ある日忍は、出に成りすまして『主人公』に近づき、彼女を呼び出す。

 彼は声付きの科白で、『主人公』であるプレイヤー──伊佐子を含めた三次元女子に、柔らかな笑顔で話し掛けるのだ。


 『忍が音楽室で、君を待っている』


 ──と。



 『主人公』は、何故忍が自分を呼び出すのか、と一瞬身構える。


 呼び出される理由が分からず、どちらかといえば、出と仲良くしている自分に対して、良い感情を持っていないことを理解していた『主人公』は疑問を抱く。


 そこで、三つの選択肢が提示され、プレイヤーは今後の展開と好感度の変化を念頭に入れつつ答えを選ぶのだ。



①『なんだろう? 出も一緒に行ってくれる?』


②『何を言っているの? 忍はあなたでしょう?』


③『忍が? 何かの間違いじゃない?』



 忍の考えでは、『主人公』は自分たち兄弟の見分けがつかない上辺だけの人間だと予測していた。


 そのため、出本人の目の前で、主人公の無様な対応を露呈させ、出の心から『主人公』を追い出す計画だったのだ。


 すべては、忍が出を取り戻すためだけに。



 『主人公』になりきっていた伊佐子は、その質問を投げかけた相手が、出ではなく忍であることを即座に見破り、難なく正解に辿り着くことができた。


 正しい答えは──


②『何を言っているの? 忍はあなたでしょう?』


 正答を導き出せた理由の種明かしすると、彼を演じていた声優について触れなければならない。

 ──なんと忍役は、当時の伊佐子の推し声優が担当していたのだ。


 双子役のため、声質の似ているボイスアクターを起用していたようだけれど、いくら似通った声を出そうとも、耳の良いわたしや熱烈なファンを騙すことなどできはしない。



 推し声優への愛が、『この音』の久我山兄弟ルート攻略を、大勝利に導いたのである。



 忍は自身が仕掛けたトラップの後、『主人公』に対し徐々に心を開いていく。


 自分たち双子を同じ括りのセット品としてではなく、個別の存在として認識してくれる彼女を、ひとりの人間として認めた結果だ。


 なんというか、双子攻略にありがちなベタなゲーム展開だなと感じた伊佐子の記憶が残っている。



 今まで登場した『この音』の攻略対象たちは、揃いもそろって、何かしらの心の傷や問題を抱えていた。

 それを『主人公』が癒やすことで、仲を深めていく物語運びは、久我山兄弟ルートも他のルートと同様だ。



 久我山兄弟ルートの問題点とは──厳格な彼等の母親との、心の行き違いだったと記憶している。





次話、


【真珠】アオ


 は、推敲中。あとちょっと(;・∀・)

 (長くなってしまったので2話に分けました)



頭の中が完成に真珠脳になってしまい、新太脳に切り替えられず『氷の花』の更新は少しだけお待ちいただいております。

申し訳ありません。

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