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【閑話・神林飛鳥】完全無欠の『スーパーヒロイン』


「あ! あっちのチームは晴夏が割ったみたいだ! 穂高、ほれ! 晴夏んトコに行くぞ!」


 晴夏クンが周囲からの歓声と、自分の手に伝わった手応えを感じたのか、目隠しを外している。


 彼は既に同じチームの子供達に囲まれていた。


 翔平と穂高クンが、少し離れたところから晴夏クンに向かって称賛の声をおくったところ、その声に気づいた晴夏クンが二人を確認する。


 掌を閉じたり開いたりしていた晴夏クンは、二人の「良くやった!」の声で、自分が割ったことを実感したようだ。


「わ……っ──笑った!」


 隣から、斉木さんの興奮した声が聞こえた。

 わたしも同じことを考えていたので驚いたけど、彼女は歓声の中心にいる晴夏クンを凝視している。


 凛とした氷の花のようなイメージだった晴夏クンだったけど、この笑顔は印象がまるで違う。


 大輪の花が咲き誇るかのような彼の満面の笑みに、周囲の男子もポカーンとしたあと、急に赤面する様子が可笑しかった。


 その後、女子チームもすぐにスイカを割ることができ、再び歓声が湧き上がる。



「……ん……なに……? なんの声?」



 真珠が目を擦りながら、ムズムズと動き始めた。


「真珠? 起きたの? スイカ割りの声だよ。全部割れたから、みんな嬉しくて騒いでるの」



 そう伝えた瞬間、真珠の眉が突然ハの字に変わる。



「まさかの寝落ちで、勝負事への参加を逃したのか……? わたしとしたことが……一生の不覚!」



 愕然とした表情を見せる真珠に、もしかしたら泣いちゃう!? と少しだけ身構える。


 だけど、そんな心配は無用だった。


 焼きそばを見つけた真珠の意識は、そちらに完全に移ったようで、透明なプラスチックパッケージをジーッと見つめている。



「お腹空いたでしょ? 焼きそば、食べよっか?」



 真珠はコクリと頷いてから、わたしの膝に座り直し、今度は近くにいた貴志さんの浴衣の袖を引いた。



 いつも、この縁側では、翔平が真珠の世話をしながら色々と口に運んでいたけど、今夜は貴志さんがその役目に就くようだ。




 目覚めた真珠はすっきりした笑顔を見せる。


「泣いちゃってごめんなさい。眠さに気づかなくて、感情が制御できなくなっちゃったみたい。多分……アレは愚図っていたんだと思う」


 自分の行いを分析して、恥ずかしそうに謝罪する姿は、子供の筈なのに何故か大人の女の人のように見えた。


「今夜はもう、貴志から離れて心配かけるようなことは絶対しないから」


 そう言って、真珠はわたしの膝から立ち上がり、貴志さんにギュッと抱きつくと、彼の背中をポンポンと叩いた。




 真珠はその後、わたしの膝の上に戻ると貴志さんから焼きそばを食べさせてもらい、完食後にお茶を飲んで一息ついたようだ。


 穂高クンと晴夏クンは、剣道少年たちと楽しそうに遊んでいる。そんな彼等の姿を、笑顔で見守る真珠の様子はどこか慈愛に満ち、大人びた微笑みにドキリとした。



 今夜の真珠は、夏休み前の幼い様子とはガラリと変わり、わたしよりもお姉さんに見えるのが不思議だった。



 貴志さんが真珠に笑いかけ、彼女に向かって手を伸ばす。

 大きな掌の上に、真珠が手をのせると、貴志さんはその手を優しく引き寄せ、真珠を立ち上がらせた。


「飛鳥、ありがとう。重かったでしょう? ごめんなさい。足、痺れてない?」


 そう言ってから、真珠は貴志さんの膝の上に移動する。


 気遣ってくれたようだけど、空いた膝の上が、何故だかちょっぴり寂しかった。



 時々、道場に通う男性が近くに来ては貴志さんと会話をし、膝の上に座る真珠を抱っこしようとしたけれど、その都度貴志さんがやんわりと断り真珠を助けていた。



 とても愛おしそうな眼差しで、小さな真珠を守る彼の姿が尊くて、それを見ていた斉木さんが顔を赤面させながら肘でわたしのことを(つつ)いてくる。



「恥ずかしくて見てられない……のに、目が離せないこの不思議。あっちゃんは?」



 斉木さんが同意を求めてくるので、目線は二人に定めたまま逸らすことなく、わたしは無言で何度も頷いた。





 穂高クンが、割ったスイカを綺麗にカットした物を差し入れてくれた。

 昼間は見せなかった嬉しそうな笑顔は、普通の男の子のように映り、とても微笑ましい。


 真珠がスイカを食べ始めると、穂高クンはその隣に座って見守っている。


 穂高クンが「ここに、ついてるよ」と笑って、真珠の頬についたスイカの種を外しはじめる。

 妹に向ける表情の温かさが尊くて──その様子に斉木さんらと一緒に釘付けになってしまい、四人でその兄妹の姿をガン見してしまった。

 美少年と美少女──絵になる兄妹だ。


「これを眼福と言うのね」


 斉木さんの呟きに、わたしはまたしても無言で頷いた。




 今度は、晴夏クンが線香花火を持ってきた。

 真珠はお礼を伝えながら縁側の前で遊びはじめる。


 何を思ったのか、スイカを食べる晴夏クンは線香花火に興じる真珠の隣に座った。


 二人は寄り添うようにひとつの火花を静かに見つめている。

 その絵面がこれまた尊くて、斉木さんたちと一緒にうっとりと見入ってしまう。



 線香花火の燃えカスが最後にポトリと落ち──その赤い火が真珠の足の上に落ちそうになる。


 みんながヒヤッとして、思わず腰を上げる。

 けれど、晴夏クンが手にしていたスイカの皮で、その残り火をすかさずキャッチしたので事なきを得ることとなった。


 ホッと安堵したわたし達の慌てぶりとは違い、晴夏クンは沈着冷静だ。

 表情を変えずに対処しながら真珠を守る様子は、わたしと斉木さんを悶えさせた。



 まるで、『ヒーロー』が三人いるようだ。

 大切なお姫さまを陰ながら守る、騎士に王子に貴公子だ。




 真珠は彼等のことを『ヒーロー』と呼び、何故か自分を『悪役令嬢』と言っていたけど、わたしの目には『ヒーロー』三人に愛された唯一無二の『ヒロイン』のように見えた。




 美人四人組が帰ったあと、大学生のお姉さん達に、わたしの感じた真珠考を伝えると、みんながその話に乗ってくる。



「わかる! あれは間違いなく『ヒロイン』属性だわ」


「いやいや、『ヒロイン』を超越してるでしょ?」


「『ヒロイン』を超越した『ヒロイン』って、ナニソレ?」



 みんなが楽しそうに真珠談義に花を咲かせる。





 真珠はこの会話の内容を知らないけど、みんなの話をまとめて結論づけられた彼女の役回り、それは──



 ヒロインなんて言葉では物足りない──完全無欠な『スーパーヒロイン』──だ。



 それが、今夜──わたし達四人が抱いた、真珠の鮮烈な印象だった。





挿絵(By みてみん)


これにて閑話終了です。


次話は、幕間です。

イロイロと色々な事実が明かされます!





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