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【真珠】目覚めたあとは


「貴志? お兄さま? あれ? ハルも? えーと……エルは……?」


 荒い呼吸と汗ばんだ身体の気怠さに、起き上がることなく三人の顔を見回す。


 寝惚(ねぼ)けた頭に手を当て、わたしは思考を整理しようと再び目を閉じた。



 ──あれ……何が、あったんだっけ?

 たしか、夢を見ていて……?



 そう思った瞬間、エルとの間に起きた出来事がよみがえり、ガバッと勢いよく起き上がったわたしは口元を両手で覆った。



 なんという夢を見ていたのだ。


 何故か頬が熱くなって、三人の顔をまともに見ることができない。


 あの空間で起きたことは、やはりわたしの妄想から生まれた夢だったのだろうか。

 けれど、何故か昨夜から身体を支配していた熱は鳴りを潜め、心も()いでいる。


 それと同時に、何故か心にポッカリと穴が開いたような、妙な寂しさも感じていた。



 あんな破廉恥極まる夢を見るとは──救いがたし。



 溜め息をついて、聖布を手繰り寄せる。

 寝起きの為か、手足が鉛のように重い。


 その黒い薄絹を眺めると、エルに対しても申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 己の妄想により、エルに何という役目を負わせてしまったのだろう。



 わたしが落ち着くのを待っていた貴志から、スマートフォンを手渡された。


「え……と、これは?」


「早く出てやれ」


 貴志の短い返答に、意味が分からずコテリと首を倒し、通話中と表示されているそれに耳を当てた。


「もしもし?」


 おそるおそる話しかけると、低い声が応答する。


「真珠、無事起きたな。先程は……すまなかった。身体は大丈夫か?」


 夢の中で聞いていたエルの声が、スマートフォンから響いた。



 彼は何故か、わたしが見ていた夢を知っているような口ぶりだ。



 ──あれ?

 じゃあ、あのおかしな出来事は、やはり夢ではなかったの?



 まだ覚醒しきれていない意識が混乱しはじめる。


「うん? うん……ん?」


 覚束(おぼつか)ない言葉が口から(こぼ)れ落ちると、エルの溜め息が聞こえ、呆れを滲ませた声が返ってくる。


「寝惚けているのか? 悪いが、それほど時間をとれない……貴志にかわってくれ」


 緩慢(かんまん)な動作でスマートフォンを貴志に返すと、彼はエルと言葉を交わし始め、廊下へ続く扉へと消えていった。




 その様子を見送りながら、わたしはふと気づいたことがあり、下腹部を触る。


 あの突き上げるような熱を受けた後、驚きに倒れはしたが、それ以降、この心は妙に清々しかった。


 そう感じていたのは、やはり気のせいではなかったようだ。


 エルが仙骨から送り込んだ熱によって、(くすぶ)る何かが解放されたことは理解できた。



 あれは、何かのツボなのだろうか?


 後でどんな効能のある位置なのか、調べてみよう。

 今後、おかしな熱が溜まった時は、お灸療法を試すのも良いかもしれない。



 目を閉じて真名を呼べ──エルはそう言ったけれど、あの場所に呼び出してアレを試みてもらうのは、なんだか気が引ける……正直に言うと、貴志に後ろめたいのだ。



 生身の身体ではない安心感と、自分が大人なのか子供なのか……その狭間で彷徨(さまよ)う状態だった。


 自覚なく、良かれと判断して動いた行いの数々が走馬灯のように脳裏を(よぎ)る。


 エルも対応に困っていたに違いない。


 彼が現れた時からのことを思い出そうとした瞬間──自分が出会い頭で何をしていたのかを思い出す。



「胸!」


 ──を、思い切り揉んでいた。



 間違いなく、ヤバイお子さま──いや、あの空間では何故か大人の姿だったから──相当危険な女状態。


 しかも、その後、わたしは心音を聴かせたくて、胸の膨らみにエルの手を無理やり押し付けた──気がする。


 頂からでは鼓動は測れないと、エルからやんわりと注意も受けた。



 ──まずい……痴女の烙印を押されたやもしれん。


 サーッと血の気が引いた。




 わたしの表情は起きてから、赤くなったり青くなったりと忙しく変遷していたことだろう。


 百面相するわたしを見ていた晴夏が、気遣わしげに声をかける。



「シィ、まだ眠いのか? 穂高は、君の昼食の準備を頼みにいっている。午前中からずっと眠っていたと貴志さんから聞いた。体調が悪いなら、横になっていたほうがいい」



 彼はそう言いながら、わたしの隣のソファーに腰かけた。







読んでいただき、ありがとうございます(^o^)


草食動物さまのご厚意で、タイトルロゴを作っていただきました。


青背景

挿絵(By みてみん)


透過

挿絵(By みてみん) 


太陽と月は、拙作に出てくるモチーフのひとつなのですが、そちらも入り、五線に音符にサウンドホールにと、とても素晴らしい作品に感動しました。ありがとうございます!


草食動物さんの書くお話はこちらから↓

https://ncode.syosetu.com/n8922gc/




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