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【真珠】愛を乞う 前編

R15です。

苦手な方や、嫌悪感を覚えそうだな方は、読まずに飛ばしてくださいね。


 背中に回された貴志の腕に守られながら、ゆっくりと寝具の波に埋もれていく。


 彼の体温を身体全体で感じる幸せに、わたしは愛する人の双眸を見つめ、微笑んだ。


 胸元に添えたこの掌から、彼の鼓動が伝わる。


 温かな眼差しが注がれ、ひんやりとした手がわたしの頬に触れた。


 その手は冷たい筈なのに、どうしてこんなにも心を熱くするのだろう。


 

 貴志の指がわたしの髪をかき上げ、そして梳く。

 髪の一房を手にした彼は、そこに唇を寄せた。


 ゆっくりとした動きで、彼はその髪に口づけを落としたのだ。


 たったそれだけのこと。

 肌には直接触れることなく、その唇を髪に重ねただけ。



 途端に、昼間感じた不可思議な痺れが身体の中心に渦を巻いた。


 吐息が口から零れ落ちる。

 背中を痺れが駆け抜け、瞳が潤む。


 身体の中に熱の塊が生まれ、背筋が()け反った。

 その苦しさを解き放ちたいと願う、説明しようのない衝動も生まれる。


 すべてを溶かされる。

 何故そう思ったのか、今となっては分からない。


 自分ではない何者かになってしまう──そんな浮遊感が全身を支配し、心に少しの混乱が生じたのは確か。


 けれど、怖くはなかった。


 より深い場所に彼を求めたくなる。

 この火照りは、一体どこから生まれ(いづ)るのだろう。



 微熱が身体包み、呼気に熱が宿る。




 ──唇で触れてほしい。 


 今まで何度となく願ったその望みが叶う。



 歓喜の想いが、たったそれだけの貴志の動作に、過剰に反応しているだけなのかもしれない。




「真珠? どうした? 大丈夫……か?」


 わたしの常とは異なる様子に気づいた貴志が、気遣うように声をかける。


「ん……平気。でも……よく……分からない」


 両手を貴志に伸ばし、彼のすべてを求めたくなる。

 この願いに応じて、貴志は再び身を(かが)めると、わたしの頭を撫でた。



 彼は幼子をあやすよう、大切に触れる。


 けれど、わたしが求める対応とは、少し違うような気がした。



 彼の首に腕を絡め、自分が感じた身体の症状をその耳元で伝える。


「これは何? 身体が熱くて、もっと貴志を欲しくなる」


 背中がしっとりと汗ばんでいる。

 体温が上昇しているのかもしれない。

 背中に回された貴志の掌にも、それが伝わっている筈だ。


 貴志が息を呑み、その後苦しげに息を吐く。



「……()(あお)るな……お前は……」



 ──髪しか、その唇では触れてくれないの?


 名残惜しく思いながら、(とろ)けたような声が口から零れる。



「お願い……やめないで……もっと、触れて……?」



 今夜だけ──そう知るからこそ、その願いは欲深くなっていくのだろうか。



 わたしは唇を貴志の首筋に這わせた。



 重ねた身体から伝わる心音が、心なしか早くなったのは、気のせいだろうか。




 貴志が口づけたのは髪。

 そこは、兄がよくその唇で触れる場所。


 熱を帯びた瞳で彼を見上げる。


 身体の奥底から、むくりと首をもたげる欲。

 わたしは彼に何を求めているのだろう?


 この情動が望むものが何であるのか、正直よくわからない。


 ただ本能のままに、貴志を欲しいと思うだけ。




 今まで一度も感じたことのない、渇いた欲求が心と身体を支配する。




「貴志、お願い……もっと、そばに来て……」


 呼吸の乱れたわたしを見つめる彼の瞳は、どこか切なさを伴う光を宿す。


「真珠……お前、意味をわかって……?」



 意味?

 わたしは首を傾げる。


 貴志はわたしの仕草に、苦笑する。



「だろうと思った。頼む……そんな強請(ねだ)るような目で見るな……もう少し、子供らしくしていてくれ……そうでなくても今夜は『あの夜』のようで……困っている……」



 『あの夜』──貴志が後悔し続けている『紅葉』での一夜。



 わたしの『目』を見ると、大人の女性と共にいるような錯覚に陥り、間違いが起きそうで怖いと、彼が嘆息していたことを思い出す。



「もし、目の前にいるわたしが大人だったら、貴志は……どうしたい?」



 わたしのこの身体に宿る貪欲なほてりの正体──その答えを、貴志が持っているような気がした。








ごめんなさい。

貴志は、大したことをしていません(;・∀・)


真珠視点と貴志視点では、全く違う印象の話に

なると思います。


R15は今話まで。

次話、後編ですが、安心してください。

貴志は貴志ですε-(´∀`*)ホッ

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