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【真珠】暴走王子を止めてくれ!

本日、4話目の更新になります。

「そうだ! 真珠、お前が三人それぞれの子供を産めばよいのではないか? みんなの物というのなら、喧嘩にならない! うむ、我ながら名案だ。何故、今まで気づかなかったのだろう」


 ラシードがそう言った瞬間、テーブル席周辺が静まり返り、激しく注目された。



 いや、もともとちびっ子二人が席に着いた時から、視線は注がれていた。


 可愛い黒猫のような碧眼の男の子が現れたのだ。

 人目を引かない訳がない。



 けれど、今受けている注目は、先程のものとは種類が違う。


 周囲の目が怖くて、振り返ることさえできない。


 これは自意識過剰というレベルの勘違いではない。


 恥ずかしさに汗が滲む。




 ラシードは興奮しながら、今思いついた考えを、少し離れた位置に立つ貴志とエルに伝えようと声を張り上げる。



 周囲の視線にもまったく無頓着で──残念なほどに自由な王子さまだ。




「兄上! 貴志! 名案だ!」


 ラシードは満面の笑顔で、先ほど、テーブル席周辺を凍りつかせた内容と同じ言葉を発した。



 曰く──わたしが将来、三人それぞれの子供を順番に産めば、みんなでずっと仲良しでいられる。

 一夫多妻が許されるのなら、その反対の一妻多夫婚でも良いのではないか?──という内容であった。



 あまりの衝撃にわたしは声を失った。

 今度は、冷汗が流れそうになる。



 頼む。

 誰か、この暴走王子を止めてくれ。


 恥ずかしい。

 穴があったら入りたい。


 いや、穴があったら、この王子を今すぐ埋めたい。



 貴志とエルの周りに群がるお姉さま方も、静まり返っているではないか。



 エルは苦笑し、貴志も困惑している。


 わたしたちの周囲だけではなく、店内全体が気まずい空気に占拠されてしまった。


 頼む!

 お願いだから、早く微笑ましい雰囲気に戻ってくれ。



 いや、そんなことよりも。


 そんな……そんな、ふしだらな関係など、まっぴら御免だ!


 御免なのだが……この、針の(むしろ)のような状況をなんとかしなければならない。


 ここは、わたしの返答にかかっている気がする。


 それは間違いない。



 わたしは必死に笑顔を貼り付け、声を震わせながら──心を殺して、女優になった。



「え、えへへ……う、うわぁーい、真珠、みんなのお嫁さんになれるの? 嬉しいな。仲良しだね。赤ちゃん、たくさん、コウノトリさんが運んでくれると良いねぇ……」



 ラシードは無邪気な子供だ。

 ここは、わたしがその会話に合わせることで、上手く切り抜けられる!


 たとえそれが倫理的に問題があるとしても、子供同士の会話であれば微笑ましいものに早変わり!


 ……の筈だ……多分。



 このままでは、心労が祟って本当に倒れるやもしれん。

 一刻も早く、このいたたまれなさから脱出せねば!



 白目を剥きそうになっていたところ、わたしは突然フワリと抱き上げられた。


 貴志だ。


 彼が助け船を出してくれたことに安堵するが、今度は自分で口にした科白の恥ずかしさに涙目になる。

 あまりの羞恥に耐えられず、わたしは夢中で彼の首に抱き着いた。


 貴志はこちらの様子を気遣ってくれたのか、『ごっこ遊び』に付き合うお兄さんのような対応をする。


「ラシード、駄目だ。我が『姫君』は誰にも渡さないぞ。忠誠を誓った騎士はひとりいれば充分だ」


 貴志が魅惑の笑顔で、ラシードに微笑みかけた。

 周囲のお客さま方が、秒でその美しさに心を奪われたのが手にとるように分かる。


 今日の演奏後から貴志に懐いているラシードも、笑顔を向けられ嬉しそうだ。



「貴志! 貴志……、兄さま」


 わたしはと言うと、苦し紛れではあったが、鬼押し出し園の時と同じく、年の離れた兄妹演技に徹することに決めた。



 とってつけたようなわたしの「兄さま」呼びを耳にしたエルが、クッと陰で笑いながら近づいてくる。



「シード、そんな甘い考えをしているようでは、この勝負──お前の負けだ。我が『女神』が、その手を取るのは唯一人」



 そう言ってエルがニヤッと笑ってから、わたしの瞼に口づけを落とす。



 エルめ。

 これは絶対に、この状況を楽しんでおる。



「う……うふふ、えへへ……し、真珠は、エル兄さまも、だーい好き、だよ?」



 もうやけっぱちだ。


 わたしは子供だ。

 純真無垢なお子さまだ。


 ここは、みんなから愛される妹分の演技で乗り切ろう。



 そう決心したものの、次はどうしたらよいのか皆目検討もつかずにいたところ、天の助けが訪れた。



「お客様、ただいま包装が終わりました」



 先ほど席に案内してくれた店員のお兄さんが、ラフィーネ王女用に見繕った贈り物を貴志とエルに手渡す。



 多分、わたしは今、この大人対応をしてくれるお兄さんに一番の安心感を覚えている。


 間違いない。

 助けてくれて本当にありがとう。


 気遣いのできる大人の貴重さを、ひしひしと肌で感じとることができた。


 また是非、買いに来させてください。


 心からそう思い、死地を切り抜けた歴戦の兵士のような心持ちで、わたしは次なる目的地へと連行された。




          …



 メトロポリタン口から、今度は在来線の東武東上線ホームへ向かう。


 地上の天候具合を確認しながら和光市まで向かい、そこで有楽町線に乗り換え、再び市ヶ谷に戻ることになっているのだ。


 東上線の急行小川町行きの車内に乗り込むと、既にかなりの客が乗車していた。


 エルがラシードの手を引き、貴志がわたしを抱き上げて一号車の最後尾の空間に立つ。


 停車駅の表を目にしたわたしは、そこに川越という駅名を発見した。


 その地名を目にした途端、急にお腹がすいてしまった。



「芋恋まんじゅうが食べたい……」



 わたしが呟くと、貴志が笑う。



「お前は本当に食べ物ばかりだな。川越か……来年日本に本帰国した後になるが、御朱印をもらいに喜多院にでも行くか?」


 おお! 喜多院か!

 徳川家光に春日局だ。

 歴史も浪漫だ!


COEDO(コエド)ビールも、飲んでみたいな」


「まったく……お前は。まあ、そうだな……大人になったらな」



 ──大人になったら。



 わたしは貴志の首に抱き着いて、そっと囁く。



「うん……大人になったら。全部……貴志が教えてね」



 ──お酒も恋も、大人の関係も。



 わたしの言葉の意味すべてを、理解したのだろう。

 貴志は突然その動きを止め、いつものごとく思考停止状態のようだ。


 このヘタレくんめ!


 そう思うのだけれど、わたしの言葉に戸惑うほど、とても大切にされている事実がくすぐったい。



 愛されていることが嬉しくて、この胸にあふれる想いを込め──わたしは貴志の首筋にそっと口づけた。












本日、全4話を一挙更新させていただきました。

お付き合いくださり、ありがとうございます!





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