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【真珠】守るぞ、乙女の操!


「シード! いい加減にその腕を真珠から離すんだ!」


 エルが首に巻き付いたラシードの腕を引きはがすと、わたしは咳き込むように呼吸を再開する。



 ──天に召されそうになった。


 割と、本気で。



 ラシードの馬鹿力が首に食い込んで、危うくわたしは意識を失う直前だったのだ。多分。



 ソファから滑り落ちるように床に突っ伏したわたしは、そのまま丸くなった。



 貴志が心配そうに、背中を撫でてくれる。


 心地よいリズムで繰り返される手の動きに安心感を覚え、わたしの呼吸も少しずつ落ち着き始める。



 涙目になりながら貴志を見上げると、その手が頬に触れた。


 わたしはその掌に自らの手を重ね、ほうっと息をつく。


 いつもの冷たい感触に、すりすりと頬ずりをして、そのままその腕に抱き着いた。




 わたしはそのまま貴志の腕に(すく)い上げられると、いつもの縦抱きの体勢になる。


 触れていると安心するので、彼の首に腕をまわし、完全に身をゆだねた。





「真珠、真珠! すまない。力が入り過ぎてしまった。大丈夫か?」


 ラシードの慌てた声が聞こえ、足元を見下ろすと、貴志の足にまとわりつく碧眼が目に入った。



「大丈夫……でも、あんな風に抱きついたら駄目だよ。女の子には、特に優しくしないと。力の強さだって違うんだから」



 彼の母親役を買っていたわたしは、最後までそれを成し遂げなければならない。



 この力と向こう見ずな性格が『主人公』に向かったら、大変なことになる。



 そういえば、ゲーム中のBADエンドは監禁後に既成事実を作り、アルサラームへ誘拐。後に、第三夫人になり終幕だったことを思い出す。



 力に任せて、か弱き乙女に何ということをしてくれたのだ!



 と、プレイ当時は憤りを覚えたのだが、今から良く言い聞かせて矯正していけば、女性に乱暴を働くような人間にはならないだろう。



 本人も先程『しっかりと考えてから行動する立派な王族に──大人になる努力をしようと思う』と言っていたのだ。



 一朝一夕で、その気質を変えることは難しいけれど、忍耐と洞察力は後付けできる。



 余計なお世話かもしれないが、後ほどエルにラシードの教育方針について物申しておこう。



 ラシードは、エルから再び注意を受けているようだ。

 エルの叱り方は高圧的なのかと思いきや、諭すような口調だった。


「エルは、将来良いお父さんになりそうだね」


 そんな感想が口から洩れた。


 わたしの呟きを拾った貴志が、気遣わしげに声を出す。


「真珠……もう落ち着いたのか?」


 彼に(もた)れていた身体を離し、その目を真っ直ぐ見つめる。


「うん。もう平気。心配かけてごめんなさい。ちょっと驚いただけ」


 わたしの元気な様子に安心したのか、貴志はホッと息をついた。



「ラシードのお母さん役をつとめるわたしが、女の子の扱い方をしっかりと教育する必要があるのかもしれない。これは、シェ・ラから課せられた、わたしの使命?

 将来、無理矢理既成事実を作られて、万が一子供でもできたら目も当てられん。まさしく貞操の危機だ」



 ──『主人公』を守らねば!



 貴志のことを『譲れない』とは思うけれど、彼女にも幸せになってもらいたい。


 だから、万が一の事態が起きないよう、注意を払う必要があるのだ。



 先程、貴志に対して感じた感情を思い出し、少し赤面しながらドサクサに紛れてピトッと抱きつく。


 ──が、貴志からは、何の反応もない。



 訝しく思って身体を離して貴志をまじまじと見つめると、彼がピシリと凍りついていることに気づいた。



「貴志? どうしたの?」


 彼の頬をペチペチ叩き、こっちの世界へ戻って来いと呼びかける。



 我に返った貴志は慌てた表情を見せると、バシッとわたしの可愛い額に、なんとデコピンを放ちおった。



「お前は……、なんて事を言い出すんだ!」



 眉間に皺を寄せた貴志が、突然小言を言い始めた。


「へっ? わたし変なこと……言った?」


 先程の科白を反芻(はんすう)する。



 わたしは『主人公』のために……と思ったところで、主語がなかったことを思い出し、アワアワと赤くなりながら訂正する。



「わ……わたしのことじゃ……ないから! ないからね!

 将来、ラシードの想いが叶わない場合に、そういった行動に出る可能性があるっていうだけ。実際には起きないように、わたしは全力で守るし、ラシードには女性を大切にするよう言い続けるつもりだよ。

 守らねば、乙女の(みさお)を!」



 ──『主人公』の!



 貴志が頭を抱え始めたので、わたしはすぐさまお口にチャックだ。



「もういい。警戒は必要、ということが……分かった」



 そう呟くと、貴志はエルとラシードに視線を移した。




 警戒? わたしの言動にか⁉

 相変わらず、わたしに対してだけは大変失礼なヤツだな!



 不服そうに頬を膨らますが、文句は垂れずにグッと堪える。

 これも惚れた弱みなのか、と少々こそばゆい。



 貴志が頭を抱えたまま溜め息をついた後、真剣な眼差しになり、今度はわたしの瞳を見つめ返す。



 わたしは反射的にピンッと背筋を伸ばし、話を聞く態勢を整えた。









読んでいただきありがとうございます。

今回も2000文字以内の文章量で試験的に投稿しております。



次話、エルの本質が垣間見える

 【真珠】『貴き志』

は、今夜22時前後での更新予定です。



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