【真珠】父の『切り札』
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「しぃちゃん、貴志くんから聞いたよ。君は、ラシードくんが王子様だということを知ってしまったんだね」
わたしが小さく頷くと、父が悲壮な表情を見せる。
何故隠されていたのか理由はよく分からないが、父の思惑も多分に含まれ、ラシードの立場隠蔽工作が行われていたと理解している。
「ラシードくんは確かに王子様だけどね、しぃちゃんだけの王子様にはなれないんだ。お伽話の王子様とは違うんだよ。そこは分かっているかい?」
父が心配そうに、わたしの顔をのぞき込む。
「お父……パパ、知っています。アルサラームは一夫多妻制ですからね」
わたしの言葉に父が「おや?」という表情を見せる。
「難しい言葉を知っているんだね。穂高もしぃちゃんも急に大人びて、パパはとても驚いているよ」
父はそう言って一度言葉を切った後、話を再開する。
「しぃちゃんが昔から『王子様と結ばれるお姫様になりたい』と言っていたのは知っているけれど……パパは王子様じゃなくても、しぃちゃんだけを大切にしてくれる人と結ばれて欲しいと思っているんだ」
父が今回珍しく、祖父の提案に『諾』と言わなかった理由は、ここにあったようだ。
もし万が一、相手に気に入られ、真珠自身も王子を気に入ってしまったら──娘は、その伴侶の唯一無二の存在とはなれず、その他大勢のうちの一人となってしまう。
父にはその状況が我慢ならなかったということだ。
それ故、祖父からは単なる「お遊び会」だと言われていたが、微に入り細に入り、父なりに調査をしていたとのこと。
父がそこまでわたしの身を案じてくれたことに驚きを隠せず、彼の顔をまじまじと見つめてしまう。
勿論、彼がわたしを掌中の珠のように溺愛しているのは知っている──が、どちらかというと、行き場を失った母への愛をわたしに与えることで、精神のバランスを保っているような──そんな歪な愛し方だった。
わたしの我が儘をすべて叶えることで、父自身の心を満たしていたのではないかと、今では思っている。
「どうしてパパが、ラシード君に気に入られてはいけないと言ったか、その理由を伝えていなかったね」
アルサラーム国王は大の日本贔屓で有名だ。それはゲーム中に語られていたので知っていたが、父が問題にしたのは、その次に入手した情報だった。
国王は常日頃から、数人いる王子殿下の夫人として日本人女性を迎えたい、と周囲に漏らしていることが発覚したのだ。
父としては、これが最大の心配の種で、いくら「お遊び会」とはいえ素直に許可できなかった理由だと言っていた。
今回のプレイデートで、わたしが第五王子の遊び相手に白羽の矢が立てられたことに対して、父が相当な危機感を覚えたのは想像に難くない。
父としても、一夫多妻制のまかり通る国に、溺愛する娘を関係させる気はさらさらなかったのだろう。
最終的には、祖父の顔を立てるため、穂高兄さまの同席を条件としてプレイデートを受け入れはしたが、兄は本日、ピアノの境野晴子先生との先約があった。
そちらをキャンセルしようと動いたのだが、先方の予定もあり延期することが適わず、わたし一人のみが王子殿下を訪問することになったようだ。
この「お遊び会」を計画した当事者の国王陛下と月ヶ瀬グループ会長の二人は、周囲の緊張など何処吹く風状態であったが、まわりを固める側近たちはそうはいかない。
彼等は、国王や会長の意向を汲み取り、数手先を予測して行動しなくてはいけないのだ。それがビジネスというものだろう。
故に、今回の王子とわたしの一対一の対面には『日本人女性を夫人として迎え入れるための布石』となる可能性も想定しなければならず、双方に緊張が走っていたようだ。
そんな大人の事情があったとは知らず、わたしはラシードと激突して『祝福』を受けてしまった。
これが、身内だけでなく周囲に知れ渡った場合、大変な事態になるため、現在この予想外の出来事を知っているのは、ほんの一握りの人間に留められているようだ。
誰が知っているのか、と問うたところ、『祝福』事件が起きてから時間も経過していないため、身内のみに周知されたばかりだと父が教えてくれた。
貴志から連絡を受けた父は、祖父母に伝達後、緊急の仕事を片付け、昼食も摂らず、大慌てでここにやって来たと言っていた。
プレイデートの時間中、父は祖父と共にアルサラーム側との会談が予定されている為、わたしとは同席できない。
そう語った父は、無念の様相で肩を落としている。
母が出席すると名乗りをあげていたようだが、ここ数日体調不良が続いて寝込んでいるらしく、外出するのは難しかったとのこと。その為、貴志が代理で付添人となっていたのだ。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。でも、わたしは『祝福』を受けるつもりはありません。好きでもない人に嫁ぐのは、嫌です」
わたしの言葉を聞いた父は、意外そうな表情をしている。
少し前の真珠であれば、遊ぶ相手が本物の王子様であると知ったが最後「ラシードのお嫁さんになる」と言い出す可能性はかなり高かった筈だ。
しかも将来有望そうな、王子の見目麗しさも相俟って、間違いなくラシードに心を奪われたであろう。
真珠は良くも悪くも、自分の『欲』に対して真っ直ぐだった──そう、ドレスを着たいが為、翔平に結婚を申し込んでしまうほど、自らの欲望には忠実だったのだ。
「そうか……それならいいが……万が一、先方が『祝福』の強要をしてきた場合は、こちらを使って辞退してくれ」
そう言うと、父は貴志に持参した小さめの封筒を手渡した。
「これは……?」
シーリングされた封筒を不思議そうに眺めた後、貴志は父に視線を向ける。
「初めて見た時は、正直に言うと寝込みそうになった──が、今回の件で『祝福』回避の切り札になることを鑑みれば、致し方ない──いや、救いの一手だと今は思っている」
遠い目をしながらそう言った父は、貴志の肩をガシッと掴んだ。
「これを、貴志くん──君に預けよう。これを使う事態にならないことを祈るばかりだ。くれぐれも真珠のことを頼んだよ」
父はこの封筒の中身を開示する状態に陥るまでは、絶対に開封するなと注意している。
なんでも父の心が折れそうになる代物らしく、切り札として使わなかった場合は、必ず未開封のまま返却するようにと、貴志に何度も念を押していた。







