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【真珠】王子殿下と剣道少年 前編

ブクマ&評価、誤字脱字の報告ありがとうございます(*´ェ`*) 感謝です。


 昨夜のコンサート後に気を失ったわたしは、貴志に抱えられ、兄と祖母に付き添われて『星川』へ戻った。理香と晴夏と紅子も同行してくれ、後から咲也と加山も心配して来てくれたようだ。


 しばらくして目を覚ますと、往診に来てくれた医師の診察を受け、特に問題がないとのことで一安心した皆は、それぞれの部屋に戻って行った。


 翌朝は早目に車で帰宅するため、皆との別れの挨拶もその場で済ませることになった。


 晴夏については月曜日に、紅子と共に月ヶ瀬の自宅に遊びに来ることになっているので、また今度という話になり、握手をして別れた。


 加山とは暫く会えないが、理香と咲也は火曜日に国立科学博物館にご一緒することになっている。


 兄がみんなと連絡先交換をしてくれたので、これからもコンタクトを取ることができるのでホッと一安心だ。


 せっかく仲良くなったのだ。

 時々は近況報告などをして、連絡を取り合いたいと思っていたので、気を利かせてくれた兄に大感謝だ。


 そして本日──日曜日。

 貴志と共に都内へ戻っている途中なのだが、生憎の雨模様。


 天気予報によると小型の台風が近づいているので、その影響からか横殴りの雨だ。


 まるでわたしの心の中を表しているかのような天気。


 ──憂鬱だ。

 

 誠一パパとも今朝電話で話したが、あくまで王子殿下という素性は隠したまま『ラシード君』と言い続けていたことを思い出す。

 父は『絶対に気に入られてはいけない』と何度も言っていた。


 ──そこは大丈夫だ。

 わたしも彼には絶対近づきたくないので、用心して遊ぶことにする。


 夕べ倒れたことを持ち出して、遊ぶ約束を反故にするという手も考えたが、今はすこぶる元気で顔色も良い為、仮病も通用しないだろう。


 そして、現在──貴志は運転に集中している。

 強い雨脚のためワイパーを使っても、フロントガラスの視界が良くないのだ。


 わたしは助手席に座りながら、まさか出会うことになるとは思わなかった、ファンディスクの攻略対象について、覚えていることを纏めることにした。


 ゲームをプレイ当時、日本に激しい憧れを持っていた伊佐子(わたし)は、海外の王子さまという設定には全く食指が動かず、彼のルートは、あまりやり込まなかったのだ。


 シェ・ラ・シード=アルサラーム


 太陽神シェ・ラを主神に戴く独特の宗教観を持った東南アジアの海洋国家──南洋の楽園と謳われる観光立国でもあるアルサラーム国の第五王子だ。


 母は東洋人と英国人の混血で、在アルサラーム英国総領事館で働いていた元外交官の才媛。公務で出会った現国王に見初められ、現在は第三側妃となっている。

 たしか国王陛下より二十歳程年下で、第一王子である王太子殿下との年齢差も、さほど無かったはず。


 父の国王陛下は大の親日家。日本の学校制度についての見識を深め、自国にその制度を取り入れようと、第五王子の彼がその制度を学び、持ち帰る為に留学してくるのだ。

 彼の弟王子たちも中等部と小学部に学びに来ていたような、来ていなかったような──この辺りは、うろ覚えだ。


 強引系の俺様キャラで、わたしはあまり好みではなかった。


 彼が十歳の頃に、現在ご存命の第三側妃は亡くなってしまう。


 その母を失った傷を癒してくれた主人公と結ばれるのだが──なんとこのファンディスク、親密度によってBADエンドが存在するのだ。

 ちなみに『この音』のメインゲームにはBADエンドは存在しない。


 あまりやり込まなかったわたしの親密度など上がる筈もなく、BADエンド一直線であったことは想像に難くないだろう。


 『この音色を君に捧ぐ』と伝えた彼の演奏を受け取った後、そこから更に親密度を上げていかないと嫉妬深い王子の逆鱗に触れて、監禁誘拐後に第三夫人に迎えられるという衝撃の展開で、目が点になった。


 この王子さまの猛烈な愛情アピールは凄まじく、両想いになった途端、彼は手も早かった──すぐにキスだ。

 そして、その後の彼の独占欲たるや、推して知るべしだ。


 乙女ゲームだけあって、それ以上の展開はないのだが、本編の他のキャラクターが奥手でジレジレだったこともあって、その攻め方の差に制作側のチャレンジ精神と意気込みを感じた。


 だが、グイグイ来るタイプは私的になんとなく苦手で、完全に傍観者視点でプレイしていた記憶が呼び起こされる。

 

 ちなみにハッピーエンドだと、生涯主人公だけを愛するという第一夫人コースに乗る。


 ゲームだったら『良かったね、お幸せにね』となるのだが、これが現実だとしたらどうだろう?


 第一夫人としての宮廷作法の教育も受けていない主人公は、果たして幸せになれるのだろうか。


 王子の母親のように、外交の役に立つことで身を立てるという選択も難しいだろう。


 ハッピーエンドもクリアしたが、その後の主人公の境遇を心配してしまったほどだ。

 祝・恋愛成就、よりも権謀術数渦巻く宮廷生活で無事生き抜けるのだろうか、と妙に冷めたことを考えていたわたしだ。


 ファンディスクということもあり、本物の王子さまとの恋愛を楽しむというコンセプトだったのかもしれないが、本編に比べると色々と詰めの甘さが目立っていた気もする。


 ここで問題になるのが、悪役令嬢であるわたしについて。


 ラシード王子殿下ルートにおいても、何故かわたしは彼の婚約者となっている。


 日本を代表する月ヶ瀬グループの令嬢と婚姻関係を結べば、経済活性化が期待できる。そんな思惑から結ばれた契約のようなものだったのではないかと思う。


 目に見えて敵役に据えるには、婚約者が一番適任だと承知しているが、何故わたしばかりがそんな役になるのだろう。

 まあ、わたしが悪役令嬢役だから仕方がない、で一蹴されそうだが、なんとも悲しい。


 『主人公』と結ばれるのだから、婚約者だった真珠はお払い箱の筈なのに、無慈悲にも月ヶ瀬を乗っ取った兄に持参金付きで、この王子の元に厄介払いされるというオチも待っている。


 しかもその後の境遇は、ゲーム展開には一切出てこない。

 夫人扱いで迎えられるのか、召使いのようになっているのか、はたまた他の有力者に下げ渡されるのか、まったく分からないのが恐怖だ。


 現在、わたしと兄との関係は良好だ。

 だから、そんなことになるとは思いにくいが、まかり間違っても婚約などというものは阻止したい。絶対に避けねばならぬのだ。


 故に、気に入られるわけにはいかない。


 でも大丈夫だ。

 わたしは、彼が嫌がる女性のタイプを知っている。


 高校時代の彼は、自分を立てない女性が嫌いだった。

 半歩下がってついて行きます──という無口で芯のある大和撫子タイプが好みだったので、その正反対の女性を演じればいいことも分かっている。


 こればかりは、ゲームの基礎知識があって救われた気分だ。 

 はっきり言って、他国に連行されるなど、まっぴら御免だし、間違いなく楽器を続けさせては貰えないだろう。



 それに、『主人公』が貴志を選ばず、貴志も彼女に惹かれていない場合──できれば、わたしは彼と一緒にいたい。



 チラッと運転中の貴志を盗み見て、最近開発された乙女心なるものを駆使し、想像力を働かせてみる。



 高校時代の『月ヶ瀬真珠』──主人公のライバルキャラだけあって、外見もスタイルも並み以上。

 ややきつい顔立ちだが、そこそこ美人。

 攻略対象や主人公ほどではないけれど、まあ見れなくはない。


 人の美醜の好悪など、個人の趣味の問題だから何とも言えないが、多分そんなに悪くはない──と思いたい。


 ちょっと想像の中で、花嫁衣裳を着せてみる。

 白無垢、いいではないか。

 色打掛、ほうほう、これもなかなか。

 では、お次にウェディングドレスなど──


 妄想炸裂で思い描こうとしたその時、純白のウェディングドレスを着たモデルの掲載された雑誌が、突然脳裏をかすめた。


(あ……れ?)


 夏休み前の真珠の記憶がよみがえる。





『これ着たい!』


『チビ? これは花嫁さんが着るんだぞ』


『うん、着たい! 翔平のお嫁さんになってあげるから、真珠、これ着る! はい、指切り! やったーっ ドレス~!』


『ははっ ドレスか。しょうがねーなー。よし、指切りな。これでいいか?』




 わたしは目を見開き、息を呑んだ。


 今まで思い出せずにいた、真珠が翔平と交わした遊びの約束。

 心の奥底に残っていた『ものすごく楽しい遊び』とは、このことだったのか。


「思い出した……これかっ この約束!」


 咄嗟に声に出てしまった。



(ど……どうしよう。これは、とんでもない約束なのではないか!?)



 伊佐子の記憶がよみがえる前、ただ単にウェディングドレスを着てみたいがためだけに、翔平と結婚の約束をし、指切りまで交わしていたとは──真珠の行動力、おそるべしだ。







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『くれなゐの初花染めの色深く』
克己&紅子


↑ 二十余年に渡る純愛の軌跡を描いた
音楽と青春の物語


『氷の花がとけるまで』
志茂塚ゆり様作画


↑ 少年の心の成長を描くヒューマンドラマ
志茂塚ゆり様作画



『その悪役令嬢、音楽家をめざす!』
hakeさま作画


↑評価5桁、500万PV突破
筆者の処女作&代表作
ラブコメ✕恋愛✕音楽
=禁断の恋!?
hake様作画

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