魔王
半透明な彼女。
その髪も、目も黒い。
魔族の証。
「貴方は、魔族の方?」
『そう、私は魔族です、人間の娘。何用で、人間の娘がここに参った?』
「魔王様がこの、中心部へ向かわれたと聞きました。貴方様と関係があるのですか?」
すぅと、魔族の女性の目が細まる。
『なぜ、その様な事を気にする?私からあの人を奪った人間が!』
「え?」
突如、強烈な敵意を向けられてしまう。
『絶対に許さぬ!またも、あの人だけでなく、私からあの子まで奪うつもりか!』
敵意が膨れ上がった。
「まって、あの人って?あの子ってなんの事!?」
『ーーー黙れ、憎き人間!」
闇魔法が放たれる。
「ちょ、何で!?落ち着いてください!」
『うるさい!』
聞き耳持たず。
次々と放たれる闇魔法。
何とか避ける私の隣に来たコクヨウが問いかける。
「ディア様、どうなされますか!?」
「そうだね、コクヨウ。こうなったら、倒すしかないよ。」
話を聞いてくれないのだもの。
倒すのも致し方ない。
愛用のレイピアを取り出し構える。
「貴方に恨みはないけど、倒させてもらうよ。」
レイピアを手に突っ込む。
『かはっ、』
胸に深々と突き刺さるレイピア。
『っっ、おのれ、』
「お願い、これ以上はやめて。」
『何を、』
「私は、貴方と戦いたくないの。だから、お願い。これ以上、敵意を向けないで。」
無駄な戦いなどしたくない。
理由がないからだ。
意味の分からない敵意を相手から向けられても、困ってしまう。
「ねぇ、貴方は何を怒っているの?」
『……。」
「おの人って?あの子って?」
『…夫と、我が子だ、ぐっ、」
魔族の女性が膝をつく。
『…あぁ、私は消えるのか。』
ぽろりと涙が零れ落ちる。
「貴方は、何なの?生きてはいないわよね?」
魔族の女性の前に私も膝をつく。
半透明の女性。
絶対に生きている人ではない。
『私はただの残留思念だ。結界に全ての意識を囚われていたが、その結界をお前達が解いたのだろう?』
「えぇ、私達が結界を解いたわ。その結界を解いたから貴方の意識が浮上したの?」
『そうだ。我が子を守らねば。』
「お子さんがここにいるのね?」
『っっ、あの子には何もしないでくれ!頼む!』
私に縋り付く魔族の女性。
「もちろんよ、私もこれ以上の戦いを望んでないわ。貴方のお子さんには何もしないと約束する。」
『そうか。』
ほっとした様に、魔族の女性が表情を緩ませる。
「ねぇ、貴方の名前は?」
『レオノーラ。」
「レオノーラ、私の名前はディアレンシア・ソウル。貴方のお子さんは生きているのね?」
『あぁ、私の術で深い眠りついている。』
眠りに、ね。
「いつ、レオノーラのお子さんは眠りに?」
『人間との戦いが終わってからだ。』
「じゃあ、レオノーラのお子さんは100年くらい眠っているのね。」
『…100年。そんなに経ったのか。』
レオノーラが長い年月に遠い目になる。
「レオノーラ、お子さんのお名前は?」
『レイシー。女の子だ。』
「あら、いい名前。」
レイシー。
レオノーラのお子さんの名前ね。
「ねぇ、夫を人間が奪ったって言ってたけど、どう言う事?」
『…夫は人間だった。なのに、人間に騙されて殺されてしまった。』
「それは、」
言葉を失う。
魔族と人間が夫婦?
「まさか、貴方達が夫婦だったから旦那さんは人間に殺されたの?」
『違う。私達が夫婦だった事は人間は知らなかった。夫は魔族を必要以上に殺す事を憂いて行動して、邪魔になったから殺されたのだ!』
レオノーラが唇を噛み締める。
『夫は優しい人だった。本人だって、戦いたくなかったのに、人間の思惑で戦わされていた。」
「戦わされていた?」
『レオンは。レオンシオは、人間側の勇者だった。』
「は?」
レオノーラの旦那さんが勇者?
「え、勇者?魔族であるレオノーラの旦那さんが?」
『そうだ。勇者として、この世界に召喚されたのだと言っていた。』
まさかの、勇者の痕跡発見。
じゃあ、レオノーラの殺された旦那さんは100年前に聖皇国パルドフェルドで殺された勇者って事?
「じゃあ、レイシーは勇者と貴方の子なのね?」
『あぁ、だから、レイシーの存在は隠さねばならなかった。魔族にも、人間にも。』
「そうね、その存在を知られたら、殺されてたかも知れないわ。」
魔族にとっては、憎い勇者の子。
人間にとっては、憎い魔族の子。
その存在を知られれば、どうなっていた事か。
レイシーの存在を隠した事は英断だ。
「ねぇ、レオノーラ。魔王は?優しかっと聞く魔王にレイシーの事を相談もできなかったの?」
『…魔王にも何もできなかった』
「そうなの?優しい魔王なら、レイシーの事を守ってくれたんじゃない?」
いくら勇者との子供だって守ってくれそうだけど。
やはり、勇者との子供だから無理なのかしら?
『私だ。』
「うん?」
『魔王は私だと言ったのだ』
「はい?」
…何だって?
魔王?
目の前の女性が?
レオノーラが?
「はぁぁ!?レイシーは魔王と勇者の子供!??」
驚愕の事実である。
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