隠された神殿
どうやら、史実も改竄されている様だ。
魔王が戦いに前向きではなかったなら、周囲が暴走したって事かしら?
「魔王は、なぜ戦いに前向きではなかったのですか?」
「魔王様は、お優しい方でした。我々もあの方に付き従う事が誇りでしたね。しかし、争いが激化する前に魔王様が消えられたのです。」
「魔王が消えた?戦いの前に?」
驚きに目を見開く。
「あの頃は、皆が混乱しました。当然です。自分達を導く魔王様が突如消えたのですから。」
沈痛な表情になるムガ。
「魔王様は勇者に殺された。暗殺されたのだと囁かれるようになり、それから人間達への怒りが高まり大きな戦いへと発展しました。」
それが、史実に残された戦いの軌跡。
「魔王は、本当に勇者に倒されたのですか?」
「…分かりません。誰も魔王様が殺された所を見た者はいなかったのです。」
「では、もしかしたら魔王は生きているかもしれないのですか?」
「かも知れませんが、生きているならあのお優しかった魔王様が、同胞が討たれたと知り何もしないはずかありません。」
「と言う事は、魔王は戦いの前に亡くなっている。」
その線が濃厚か。
「ですが、おかなしな事に勇者は戦いの前線に出ても我等が同胞を討つ事はなかった様です。」
「え?そうなのですか?私達の史実には、勇者が魔族を打ち倒したとあるのですが。」
「自分も噂で聞いただけなので、本当か分かりません。ですが、生き残った魔族の中に、勇者に救われたっ言う者がいるとの噂です。」
なるほど。
ここでも史実が改竄されている。
「そうであるなら、勇者も魔族を討つ事に積極的ではなかったのかも知れませんね。」
魔王と勇者。
両者が戦いに消極的だったのか。
「あぁ、確か、こんな噂もありました。」
「…?どの様な噂でしょう?」
「何でも、魔王様が魔の森の中心部へ向かったと言う噂ですよ。事実ではないと思いますがね。」
ふむ、魔の森の中心部、ね。
「なぜ、事実ではないと思われるのですか?」
「だって、魔の森の中心部には魔物ばかりいて、他には何もないはずです。そんな所に何の用も無いでしょう?」
「魔の森の中心部には何もないのですか?」
「おそらく、何もないかと。凶暴な魔物が住んでいますからね。誰も中心部なんかに行こうなんて考えませんよ。」
と言う事は、その噂は嘘?
それとも、何かしらの理由があって魔王は魔の森の中心部へ向かった?
「貴重なお話、ありがとうございました。」
「いえ、君達のご両親のお力になれず申し訳なかったね。」
フィアリアとフィリオの頭を撫でたムガが自分の家へと帰っていく。
「…ディア様、まさか魔の森の中心部へ行かれるつもりですか?」
「もちろん、そのつもりよ、ディオン。」
ディオンに微笑む。
ここまできたのだ、魔王の最後の足跡を探すのも一興だろう。
「危険は承知ですか?」
「あら、私達なら大丈夫よ。いくら魔の森の魔物が強いと言っても、ね。」
「…はぁ、止めても無駄ですね。お付き合いいたします。」
「ふふ、ありがとう、ディオン。」
さすが、ディオン。
私を止められない事を分かってる。
その日は1日、空いている小屋を借り、こっそり転移で屋敷へと戻って一休み。
次の日から魔の森の中心部へと向かう。
「それにしても、勇者も魔王も戦いに消極的だったのに、争いは起こったのね。」
戦いは、新たな戦いを生む。
今、魔族が暗躍しているのが、その証拠。
「ままならないものね。」
魔王と勇者が争わない様にしても、戦いは行われてしまったのだから。
「ーーーディア様、来ます。」
コクヨウの警告。
数秒後には巨大な熊の魔物が、その姿を表す。
だから、私達の敵ではない。
瞬時に倒してしまう。
「ふぅ、魔物が多いわね。」
倒してもキリがない。
中心部に行くにも一苦労だ。
中々、中心部に辿り着かない。
「…ディア様、何かおかしいです。」
周囲を見渡していたディオンの固い声。
「どうしたの?」
「先ほどから、同じ場所を歩かされています。」
「え?」
周囲を見渡す。
同じ様な木ばかりで、その変化が分からない。
「ディオン、本当に?」
「えぇ、ティターニア国と同じ結界の気配がします。それも、強固な結界ですね。」
「ふーん?」
ますます、中心部が怪しくなってきた。
「結界を張ってまで、何を隠しているのかしら?」
見られたくないもの。
守りたいもの。
さて、中心部には何が隠されているのか。
「ディオン、結界は壊せる?」
「お任せください。」
気負いなく頷いたディオンは結界の破壊を始める。
その間、私達は周囲の警戒。
魔物が多いからね。
「ーー結界、壊せました。」
待つ事数分。
ディオンが結界を壊した事により、新たな道が目の前に現れた。
さすが、ディオンである。
「さて、何が現れるのかしらね。」
現れた道を進む。
すると。
「あら?これは神殿?」
目の前に現れた、ボロボロの神殿跡。
人が住むには適さない壊れぐらいだ。
「さっきの結界は、この神殿を隠してた?」
魔王も、この神殿に用があった?
この神殿は、ニュクスお母様を祀っているのだろうか?
「とりあえず、神殿の中に入ってみましょう。」
何かあるかも知れない。
「ディア様、お気を付けください。」
「えぇ、アディライト。気を付けるわ。」
アディライトに頷き、警戒しつつ私達は神殿の中へ足を進める。
神殿の中も腐敗は進んでいて。
柱も倒れかけている。
『ーーー何者ですか?』
ゆらり。
私達の歩みを止める様に彼女は姿を表した。
よろしければブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告お願いします




