私の世界
借りているガルムンド王国の王宮の一室。
大きな窓から差し込む月明かりを眺めながら、これからの事を考えていく。
「ロッテマリー、ルルーシェル。少し、2人に話があるの。」
「はい、ディア様。」
「何でしょうか?」
ロッテマリーとルルーシェルの事を呼び寄せる。
「戦争が始まればリュストヘルゼ帝国の兵と、多少なりとも戦いになると思うの。寵妃の魅了が解けない限り、戦いを止めるとは思えないから。」
限りなく、誰かの血が流れる事になるだろう。
「どうする?ロッテマリーとルルーシェルの2人が望むなら、リュストヘルゼ帝国の兵達を魔法で眠らせる事も可能よ?」
ただ、例外はある。
私やディオンの魔法で、リュストヘルゼ帝国の兵を眠らせる事だ。
そうすれば、血は流れる事はない。
「いえ、ディア様の手を煩わせる事はありません。」
「そうです、全てはリュストヘルゼ帝国の問題。ディア様が全ての事を解決しなくとも、ガルムンド王国の兵がいるのですから、任せましょう。」
私の案を否定する2人。
「どうして?魔法で眠らせた方がすぐに戦いは終わると思うんだけど?」
「戦いたいのです。私の大事な領地に住む領民を、家族達を奪ったリュストヘルゼ帝国の兵達と。」
「私もお嬢様と同じ気持ちです。あの日の怒りや憎しみは忘れられません。」
苛烈な光が2人の瞳に宿った。
された方は忘れない。
その痛みを、与えられた絶望を。
「寵妃に魅了されていたから、自分達は無関係?」
「そんな言い訳、私達にとってはどうでも良い雑音です。」
あの日、2人の全ては奪われた。
寵妃の陰謀だとしても、実行したのは自分達と同じ祖国の人間。
「ルインおじ様の兵の中には、我が領地を襲った者達はいませんでした。でしたら、後方に控える中に、あの日の復讐相手がいるのでしょう。」
「この手から零れ落ちた者の命の代償は、本人達に支払ってもらいます。例え、どの様な事をしても。」
「・・そう、その手で復讐したいのね、2人共?祖国の兵達と。」
祖国の兵だから何だ。
そんな事は2人には関係なく、復讐を止める鎖とはなり得ない。
「いいわ、存分に復讐なさい、2人とも。全ての責任は、主人たる私が取りましょう。」
祖国への愛着より、復讐を選ぶ。
そんな2人の決断を私は否定する事なく、全面的に後押しする事にした。
「・・よろしいのですか?」
「ディア様のご迷惑になるかもしれませんよ?」
驚く2人に微笑む。
「迷惑?上等じゃない。」
人は復讐なんか止めろと言う。
何で?
復讐する事でしか、自分の心を守れないのなら、仕方ないでしょう?
「ロッテマリー、ルルーシェル、貴方達2人の全ては私のモノ。2人の中にある、その復讐心も、ね?」
2人の復讐心は、私のモノでもあるのだ。
「2人がする事、全て許すわ。好きなだけ暴れなさい。」
「私どもの私怨の復讐をお許しくださり、ありがとうございます、ディア様。」
「心より感謝いたします。」
私に跪く。
「2人とも、寵妃はどうする?」
「元凶は寵妃なれど、直接我が領地を襲ったのは兵達ですので、その処遇はディア様にお任せいたしますので、如何様にもしてくださいませ。」
「私達の獲物は、寵妃にあらず。」
寵妃は不要。
2人は吐き捨てて、私に深く頭を下げた。
「しかし、ディア様がご命令されるのでしたら、寵妃はこの手で始末いたします。」
「いかがいたしましょう?」
寵妃、ね。
色々と裏で暗躍してくれているので、彼女には、きちんとお礼をしたい。
「そうね、寵妃が兵達との戦いに参戦して来るようなら、私が遊んであげる事にするわ。その方が2人も自分の復讐に集中できるだろうし。」
メインは2人なのだ。
私は後方で暗躍する寵妃を押さえ、2人の復讐の手助けに動きましょう。
「ありがとうございます、ディア様。」
「心遣い、嬉しゅうございます。」
2人が破顔した。
「そろそろ、夜が明けるわね。」
王宮の大きな窓からうっすらと差し込む、朝日に目を細める。
この朝日がもっと明るくなれば、リュストヘルゼ帝国の後方に控えていた兵達も動き出す。
ルイン達の兵が、全員いないと知り。
「この戦いで、誰かの血が流れる。寵妃マリア、魔族マリージュアの望んだ様に。」
誰かが泣き、笑う。
そんな過酷な、デスゲームが始まる。
「ディア様、今からでも、少しでも良いので休まれてください。」
気遣うアディライトに微笑む。
「休む気分じゃないの。どうしてかしら、気分が高揚しているのよね?」
この世界を、私が動かす。
あちらの世界では、ちっぽけな存在だった私が、だ。
「ふふ、可笑しいと思わない?生きている価値もないと言われた私が、こちらの世界では最高の地位にいるなんて。」
誰もが、私にひれ伏す。
ニュクスお母様の愛し子と言う存在の私に。
「相馬凪が教えてくれた通り、力ある者が支配となり、好きな様に生きられる世界。あぁ、何で素敵な事なのかしら。」
なんて素敵な世界だろう。
「ディア様に愛される事こそ、至福。」
コクヨウが。
「この世界は、貴方様のものです。」
ディオンが。
「明日から貴方様に全ての者が従う事になりましょう。」
アディライトが。
「「ディア様に従わぬ者は悪なの!」」
フィリアとフィリオが。
「貴方様に従わぬ者は、全て排除致しましょう。」
ロッテマリーが。
「ディア様こそ、この世界を統べる方。」
ルルーシェルが、そんなちっぽけな存在だった私こそが、この世界の主人なのだと笑った。
ここは、私の世界。
「ふふ、私の望みは、家族である皆んなに愛される事だけ。」
この世の権力?
地位や名誉?
「そんな煩わしものは、何もいらない。」
今回だって、私の世界が脅かされそうだったから、ニュクスお母様の愛し子として立っただけ。
その地位を使って、この世界の覇者になろうとか、誰かを支配しようなんて事は考えていない。
私の世界を、壊そうとしなければの話だけれど。
「寵妃マリアの気持ち、分かるのよね。」
大事なモノを奪われたら?
きっと、私も大事なモノを奪った元凶や世界を憎み、復讐する道を選ぶだろう。
「だからと言って、このまま貴方の計画を進めさせる訳にはいかないのよ?」
差し込む朝日に立ち上がる。
私の大事なモノを、何者からも守る為に。
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