勇者の剥奪
勇者である資格を剥奪すると言うニュクスお母様の神罰は、相馬凪の大事な拠り所である最後の希望を摘み取る事になる。
私の最初の復讐。
私の為を思った、相馬凪へのニュクスお母様からの神罰だった。
「ーーーっっ、勇者の資格の剥奪!?」
目を剥く周囲。
愕然と誰もが言葉を失う。
「・・・もう、この世界はおしまいだ。」
最初に神官が膝を折る。
その声がさざ波のように広がり、誰もの瞳に絶望の色が宿っていく。
魔族の脅威から守る為、召喚された勇者。
その勇者の資格が剥奪され、神敵となった今、これらは絶望するほかないのだろう。
「皆の者、絶望する事はない!」
私は声を張り上げる。
集まる視線。
「ニュクスお母様は、この世界に生きる全ての母。そのお方が、皆を見捨てる事があると思うのか!?」
周囲へ強い目を向ける。
「私は、ニュクスお母様の愛し子!この私が、ニュクスお母様の慈しむ世界の平和を守ろう!」
手に出現させたレイピアの先を、私は空に向けた。
私の身体が光り輝く。
「この私を、ニュクスお母様を信じよ!さすれば、ニュクスお母様の加護は、いつでも皆の側にある!」
爆発する歓声。
涙し、ニュクスお母様を称え出す。
「「「我ら一同、心より感謝いたします、ニュクス様の愛し子様!」」」
そして、ニュクスお母様の愛し子の私へ、誰もが額ずいた。
「アディライト、彼女をここへ。」
「はい、ディア様。」
私の指示に身を翻したアディライトが、すぐに1人の少女を連れて戻って来る。
「なっ、クレイシュナ皇女殿下!」
「ご病気が良くないと聞いていましたが、大丈夫なのですか!?」
「顔色は良く見えるが・・。」
心配げな表情を浮かべる周囲の人達。
この場に現れたクレイシュナ皇女殿下の姿を凝視する。
「わたくしは、大丈夫です。」
淡い微笑みを浮かべるクレイシュナ皇女殿下。
「元よりわたくしが病気だと言う話は、事実ではありません。全ては父である皇王様の狂言なのです。」
私の隣に並ぶ。
「その狂言を真実にする為、私の事を部屋に閉じ込め、一部の人間としか会わぬ様にしていたのです。そして、恐ろしい事に、ルーベルン国の使節団を襲う計画も企て実行しました。」
「「「なっ、!」」」
クレイシュナ皇女殿下から齎される、驚愕の事実。
隠された真実だった。
「使節団は、ニュクス様の愛し子様のお力でご無事ですので、ご安心ください。」
クレイシュナ皇女殿下の暴露に、言葉を失う人達。
戦争に発展していたかも知れない事実に、蒼白になっていく。
「先ほど、ニュクス様から神託がありました。」
はっと、息を飲む音が広がる。
「わたくしが父である皇王様より聖皇国パルドフェルドの皇位を継ぎ、魔族の脅威から愛し子様と共に皆を守れ、と。それを、ニュクス様はお望みです。」
クレイシュナ皇女殿下が私に向き合う。
「ニュクス様の愛し子様、わたくしは貴方様に変わらぬ忠誠を皆の前で誓います。どうか、この世界の平和と安念をもたらしください。」
私に膝を折るクレイシュナ皇女。
絶対の忠誠を私へ誓う。
「ーーー許す、クレイシュナ皇女殿下、いいえ、ニュクスお母様に認められし誠の聖女よ。」
「ありがたき幸せにございます、愛し子様。」
敬愛と尊敬、信頼を滲ませたクレイシュナ皇女が深く私へ首を垂れた。
「愛し子様、わたくしは貴方様に忠誠を誓う者。どうかこれから先、わたくしの事はクレイシュナと敬称なくお呼びくださいませ。」
「分かりました、クレイシュナ。まず貴方にお願いがあります。」
「何でございましょう?」
「貴方への一つ目のお願いは、顔を上げる事。これは命令です、クレイシュナ。」
「はい、愛し子様。」
私の命令と言う名のお願いにクレイシュナの顔が上がる。
「クレイシュナ、私の名前はディアレンシア・ソウルと言うの。」
「ディアレンシア・ソウル、様。」
「貴方には、ディアと名前で呼ぶ事の許可を与えましょう。それが貴方への二つ目のお願い。」
「っっ、それは本当でしょうか!?」
輝くクレイシュナの瞳。
「本当よ、クレイシュナ。名前で呼ぶ事を許します。」
「ありがとうございます、ディア様。貴きお名前を、この様にお呼びできる事が何よりも嬉しゅうございます!」
クレイシュナが顔に歓喜を滲ませる。
「三つ目のお願いは、異世界から勇者と共に召喚された者達の処遇を全て私に任せて欲しいと言う事。」
「あの方々を、どうされるのでしょうか?」
「私の元で彼らを鍛えます。力も、その心も私が責任持って育てましょう。」
「分かりました、全てお任せいたします。」
頷くクレイシュナ。
こうして、相馬凪の次に私の復讐対象である元クラスメイト達の身柄を手元に置く事に成功した。
嘘は言っていない。
遊びながら、本人達が壊れない心を育てればいいのだから。
「ふふ、ありがとう、クレイシュナ。彼らの処遇を私に預けてくれた事、心から感謝するわ。」
婉然と微笑む。
「彼らを何よりも大切にすると誓いましょう。」
私の玩具として。
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