模擬戦
無事に勇者一行と迷宮へ入る事が決まった私達。
第二関門も突破である。
「では、私達は背後に控えて勇者様の支援を主に担当すれば良いのですね?」
一緒に迷宮へ向かう兵と、明日の打ち合わせを行う。
相手は、騎士団長のルイド。
「そうだ、この迷宮討伐の目的はあくまで勇者様方のレベルを上げる事だからな。君達には、勇者様が安全にレベル上げが出来るよう、邪魔なモンスターの排除を優先的にして欲しい。」
「分かりました。」
素直に頷く。
要は、私達に勇者達の子守をして欲しいのね。
勇者達の尻拭いは大変そう。
「時に、君はSランク冒険者なのだとか。本当か?」
「そう、ですが?」
「その年で、Sランク冒険者となるとはすごいな。1つ、手合わせ願いたい。」
「・・それ、は、私の実力を見たい、という事ですか?」
「そうだ。」
頷くルイドと見つめ合う。
「良いですよ、それをルイド様がお望みなら。」
微笑み、ソファーから立ち上がる。
そのまま、私達はルイドに連れられて訓練場の建設へと向かう。
向かい合う私達の事を、兵達が見守る。
「武器は練習用の剣で良いか?」
「はい、構いません。」
渡される剣。
練習用の為か、刃先が潰れている。
これなら、あまりルイドに怪我をさせずに済みそうだ。
「ーーー行くぞ!」
剣を互いに向け合い、まず最初にルイドが動く。
俊敏な動きで私に迫るルイド。
が、それも所詮は普通の相手にとって、だ。
「ふっ、」
私へと迫る剣先を、自分の武器で弾く。
散る火花。
「中々の力ですが、まだまだ、ですよ。」
笑い、私は動く。
「ーーーっっ、一体、どこに!?」
私の姿を見失う、ルイド。
その瞳が私の姿を捉えんと、忙しなく彷徨う。
「チェックメイトです。」
ルイドの後ろの回り込んだ私の剣先が、その首筋へ突き付ける。
その場に落ちる静寂。
「ルイド様、まだ続けますか?」
剣先を首筋に突き付けたまま、ルイドヘ問いかける。
「・・・いいや、完全に俺の負けだ。」
だらりと下がるルイドの剣。
「・・嘘、だろ、ルイド様が、負けた?」
「あの子の今の動き、何だよ!?」
「俺、あの子の動きが早くて、何をしたのか全く分かんなかった。」
ざわめき出す兵達。
その瞳に私への称賛が宿る。
「強いな、ソウル殿。さすがは、Sランク冒険者だ。」
「恐れ入ります。」
ルイドの首筋から下げる剣先。
「これほどの実力があるソウル殿がいてくれれば安心だ。明日からの勇者様達との迷宮の討伐、どうか頼む。」
差し出されるルイドの手。
出された手を握る。
「はい、ご期待に添えるよう、頑張ります。」
ルイドに、私は深く頷いた。
翌日から勇者一行と迷宮内部へと入る私達。
元クラスメイトである勇者一行の後ろを歩きながら全員のステータスを見ても、特質した能力を得ていない事を改めて確認が出来た。
「勇者様、無駄に魔法の連発は控えた方が良いのでは?」
中でも最低なのが相馬凪。
遭遇するモンスターの弱さに関係なく魔法を連発する始末。
呆れるばかり。
「は?安全に倒せれば文句はないはずだ!」
しかも、こちらの言葉に全く耳を傾けないと言う最低さ。
貴方、この場で死にたいのか?
「・・魔力量を抑え、次にモンスターに遭遇してしまった時の為に余力を残しておくべきではないでしょうか?常に余力を残す事は、勇者様の安全にも繋がりますよ?」
「ふん、そんな必要はない!」
不機嫌な表情で、相馬凪は歩き去っていく。
「ソウル殿、すまない。」
「いえ、ルイド様が悪いのではないんですから謝罪はいりませんよ。」
詫びるルイドに首を振る。
何気に、ルイドは苦労人でもあるようだ。
「しかし、このままでは何か不測の事態があった場合、勇者様達の身に危険が迫ると思うのです。」
「うむ、俺もそれに悩んでいるのだ。」
渋くなる、ルイドの表情。
「中々、迷宮の攻略が進まないのも、勇者様の独断の先行と、戦い方の拙さにもよるものが大きい。今回、優秀な冒険者を求めたのは、戦い方の見本を少しは学んで欲しかったのだ。」
しかし、その意見を全く聞かないと言う体たらく。
ルイドの苦労が偲ばれる。
「荒療治、が、必要でしょうか?」
「うん?」
不思議そうに瞳を瞬かせるルイドに微笑む。
「今の勇者様達には敵わないレベルのモンスターとわざと遭遇してもらうのです。そうすれば、命の危険が迫り、危機感から多少は私達の進言も耳に入ると思うのですが。」
「っっ、なっ、本気か!?」
「勇者様達の身の安全は保証しますよ。それに、このまま勇者様が迷宮攻略さえできずに、魔族や魔王と戦わせるより良いのでは?」
私としても、ここであの男達が死ぬなんて事は嫌だ。
まだ、その時ではないの。
「・・勇者様達の身の安全は保証されるんだな?」
「はい、問題ありません。」
「分かった、君に任せよう。ただし、必ず勇者様の身は守れ。」
「心得ております。」
守りますとも。
今は、ね。
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