閑話:愛おしき人の心の傷
コクヨウside
気を失うかの様に意識を失ったディア様の事をディオンに任せ、僕とアディライト、フィリアとフィリオ、リリスさんは別の部屋で顔を付き合わせる。
本当に、ディア様を失うかと思った。
あの時の恐怖心が、今も僕のこの胸にある。
「リリスさん、相馬凪とは、ディア様にとってどんな存在なのですか?」
「私にも分かりません。」
首を横に振る、神妙な顔をしたリリスさん。
1番、ディア様との付き合いが長いリリスさんでも知らない、相馬凪と言う男。
あれほど、ディア様の事を取り乱させる相馬凪とは、一体、何者なんだ?
「ですが、相馬凪はディア様と同い年。『あちらの世界』で、ディア様と相馬凪の2人に何かしらの接点があったのでしょう。」
『あちらの世界』
ディア様は、この世界とは別の生まれであるらしい。
日本と言ったか。
ディア様は日本で自ら死ぬ事を選び、こちらの世界へに天使と名乗る者に転移してもらったらしい。
「・・同い年、という事は、ディア様がおっしゃっていた『高校』と呼ぶ場所での知り合いなのでは?」
今までだまっていたアディライトが口を開く。
「っっ、『高校』。」
顔を顰める。
「では、勇者に選ばれた相馬凪はディア様があちらの世界で自ら死を選択した事に関わる人間だと?」
ふつふつと怒りが湧き上がっていく。
相馬凪。
ディア様のお心を傷つけたいかも知れない男。
「リリスさん、ディア様へ相馬凪を近付けぬようにしっかり監視をしてください。」
「えぇ、この目で見張る事としましょう。」
リリスが頷く。
「ーーー・・それは、しばらく止めた方が良いかも知れません。」
ディア様が眠る部屋のドアが開く。
部屋の中から出て来るのは、ディア様を腕に抱いたディオン。
「ディオン、それはどう言う意味ですか?」
リリスさんがディア様へ心配そうな眼差しを向けた後、ディオンの事を見る。
「先ほど、ディア様が目覚められてパニックを起こされました。」
「「「「!??」」」」
ディオンの言葉に、この場の全員が息を飲む。
「どうやら、目覚めた時に私以外がいなかった事でご自分の側から離れていったと勘違いしたようです。」
何、だと?
ディア様に対しても、怒りが湧く。
こんなにもディア様の事を思っているのに、どうして理解して下されない?
ディオンの腕の中で眠るディアに僕は視線を向ける。
「・・また、ディア様は眠られたのか?」
「いや、力づくで眠らせた。」
ディオンの顔が歪む。
「ディア様には魔法の耐性がある為に、そうせざる得なかったからな。」
ディア様に目元には、涙の跡が残っている。
それが痛々しい。
「ーーーそれは、とても英断よディオン。」
ふわりと、2つの神気が降り立つ。
「闇の精霊王様、光の精霊王様、なぜ、ここへ?」
降り立つのは、闇と光の精霊王。
この場の誰もが驚く。
「私達も、ディアちゃんの事が心配だったの。」
「あのままだったら、いずれディアちゃんの心が壊れてしまっていたわ。」
沈痛な表情の2人。
「闇の精霊王様、光の精霊王様、ニュクス神様は相馬凪をどうして勇者としてこの世界に呼んだのでしょう?」
他の人間ではダメだったのか?
そうであれば、こうもディア様が苦しむ事はなかったのではないかと思ってしまう。
「勇者は相馬凪でなくてはいけなかった。」
「ディアちゃんの為にも、ね。」
2人の言葉に困惑する。
「ディア様の為に、相馬凪が勇者でなくてはいけなかった・・?」
どう言う意味だ?
「相馬凪があちらの世界の彼女に何をしたか、貴方達は知りたい?」
「知る覚悟はあるの?」
ひたりと、強い瞳を2人から向けられる。
覚悟?
「ーーーあります。」
そんな事、聞くまでもなく当たり前の事じゃないか。
ディア様の全てを受け入れる。
全員が頷く。
「そう、なら、見せてあげる。」
「相馬凪から受けた、あちらの世界の彼女の姿を。」
2人の力で見せられた、あちらの世界での孤独なディア様の姿。
彼女への周囲の悪質な虐め。
謂れなき中傷。
『お前、生きてる価値なんてないよ。』
そして、嘲り。
一人で耐え忍ぶ彼女の背中は悲しかった。
こんな風に、あちらの世界のディア様は、1人孤独に生きていたのか。
高校の屋上に立った彼女は、落ちながら美しく笑っていた。
『っっ、一体、貴方は何をしているのですか!?』
あの時、止めた瞬間も。
手首から血を流し、自分の首に短剣を突き付けたディア様は、死ぬ事が幸せだと言わんばかりの笑顔を浮かべていたんだ。
「っっ、」
身も凍る様な瞬間を思い出し、唇を噛み締める。
僕達はどうなる?
「何よりも大切なディア様を失って、僕達が正気でいられると思っていたのか?」
そんな訳、ないだろう?
ディア様を失った瞬間、僕達も後を追う。
迷いなく、そうするに決まっているじゃないか。
「ーーー相馬凪。」
それが、僕達からディア様を奪いそうになった原因の憎い男の名。
この瞬間、相馬凪は僕達全員の敵となった。
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