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リセット〜絶対寵愛者〜【完結】  作者: まやまや
第10章〜海竜編〜
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勇者の名

半泣きの宰相と別れ、私達は宿へと戻る。

私やアディライトに向けられる周囲からの視線は、今までの事に対しての申し訳なさと尊敬や憧れ。

本当に都合のいい事である。



「ふう、疲れたわ。」



宿の部屋に辿り着いた私は、ソファーへ凭れ掛かって息を吐き出す。

王宮はなんだか気疲れしてしまう。

根っからの庶民なんで。



「お疲れ様でした、ディア様。」



アディライトがすかさず、温かいお茶を淹れてくれる。

その隣には、クッキーも。



「あの、ディア様、この度は私の事では大変なご迷惑をおかけいたしました。」

「謝らないで、アディライト。今回の事は全て私が好きでしたんだから、気にしないで?」



カップを手に取る。



「んー、今日のお茶も美味しいわ。さすが、アディライトね。」



最高のひと時。

のんびりと、アディライトの淹れてくれた美味しいお茶と、手作りクッキを味わう。

癒される。



「ーーー・・ディア様。」



そんな時だった。

するりと、私の影からリリスが滑り出てきたのは。



「リリス、どうかした?」

「はい、勇者の事でディア様へご報告が。」

「あぁ、勇者、ね。」



数週間前、密かに勇者召喚は行われたらしい。

他国、自国の民へも内密に、だ。

もしも勇者召喚をする日を反対する勢力に知られ、邪魔が入ったら大変だもんね。

安全対策で、決行日は隠されたらしい。



「で、リリス、その異世界から召喚された勇者の事は詳しく分かったのかしら?」

「はい、ディア様。今回、異世界より、こちらへ召喚された人数は、全部で27名の男女の人間でした。」

「27人、か。予想より多いのね。」



思っていたよりも多い。

一度の召喚で、そんなにも呼べるとは驚きだ。



「人間だけ?多種族はいなかったの?」

「人間だけです。どうやら、異世界より召喚された者達の国には、人間しかいないようです。」

「へぇ?」



地球と同じようね。

勇者と言うのだから、人間が選ばれるのかしら?



「しかし、今回の異世界からの召喚には膨大な魔力を消費したようです。異世界から呼ばれた者のほとんどが、ディア様と同じ16才でした。」

「ほう、私と同い年。」



親近感が湧く。

が、所詮は他人なので、召喚された異世界人に会いたいとは思わないが。



「で、彼等の中に勇者様はいたの?」

「召喚された人間達の中で、勇者の称号を持つ者が1人おりました。聖皇国国王と、聖女と呼ばれる皇女が全員のステータスを確認したので間違いありません。」

「・・ふーん、勇者の称号、ね。」



またカップに口を付ける。

ちゃんと聖皇国が熱烈に求める勇者様がいたのね。



「その勇者は、どんな人?」

「召喚されたほとんどの者が髪と瞳が黒く、聖皇国では大慌てです。もちろん、勇者である者も例外ではありません。」

「へぇ?」



髪と瞳が黒色とは面白い。

散々、黒色は魔族の証と不快感を示していた聖王国が勇者として迎え入れるなんて。



「勇者の名前は、相馬凪と言う男です。」

「・・・え?」



どくん。

心音が嫌な音を立てる。



「勇者の名前が、相馬、凪・・?」

「そう、ですが、ディア様?」

「っっ、」



私の手から紅茶がまだ入っていたカップか滑り落ち、絨毯の上に転がってシミが広がっていった。

血の気が引いていく。

相馬凪が、どうして、勇者なの?



「ディア様!?」

「っっ、一体、どうされたんですか!?」



皆んなの声も私の耳には入らない。

心が凍り付く。



『お前、生きてる価値なんてないよ。』



なぜ、今更?

また私の幸せを奪いに来たの、相馬凪は。



「っっ、」



私は自分の顔を覆った。

ーーー嘲笑うような相馬凪の姿が、私の頭の中から離れない。



「ディア様、どうかドアをお開け下さい!」

「どうされたのですが、ディア様!?」



どうやって戻ってきたのか覚えていないけど、コクヨウとディオンの2人が自室の寝室へ引き込む私の名前を呼び、ドアを叩く音が聞こえてくる。

だが、私はエトワールの張った結界の中でベッドの上て布団を被り、耳を塞いで蹲った。



「っっ、いや、」



怖い。

相馬凪が、私の幸せを奪いに来る。

身体の震えが止まらない。



「どうしてなの!?どうして、貴方がこの世界へ来たの、相馬凪っっ、!!?」



相馬凪とは、高校が一緒で、クラスメイトだった。

そして、私への虐めの主犯。

忘れたくても、鮮やかに追い出せる男。

その男が勇者?



「あ、あぁっっっ!」



絶叫を上げる。

飲み込んだ、『あの子』とは別に私の中で悲鳴を上げて泣いている『彼女』。

相馬凪に怯える『彼女』は、何度も囁く。

また、全てを失う、と。



「ーーー・・もう、いや、疲れた。」



頑張る事も。

争う事にも、私は疲れた。

私は自分のスキル、武器作成で一本の短剣を作り出す。



「・・・これで、楽になれる。」



自分の手首に、そっと短剣の刃先を滑らせる。

ポタリ。

私の手首を伝い、赤い血がシーツの上に零れ落ちた。




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