厄災の魔女
人は脆い。
少しの揺さぶりで、簡単に動き出す。
「ーーーっっ、見つけたぞ、この『厄災の魔女』め!?」
「この街から出て行け!」
「お前のせいで、この街に厄災が訪れたんだ!」
荒々しく踏み込んでくる街の住人達。
その手には武器。
「この街に災いを引き起こす、この『厄災の魔女』が!」
「こんな所に隠れていやがって!」
「許さないぞ!」
「私達の街に、晴れ間を返してよ!」
上がる罵声の声。
全てがアディライトへと向かう。
「あらあら、皆さん、とても物騒なご訪問ですね?しかも、急に人様の泊まっている部屋に押しかけて来て、暴言ですか?」
お茶の入ったカップを口元へ運ぶ。
うん、許す価値なしである。
私の中で、全員が復讐の対象となった。
「こんな時に何を呑気にお茶なんか飲んでいるんだよ!?」
「そんな場合だと思っているのか!?」
「お前の後ろの女をこちらに引き渡せ!」
「そうだ!」
「その女がいるから、海竜様がお怒りなんだぞ!」
そんな私に苛立つ住人達。
「この嵐がアディライトのせい?この街に『厄災の魔女』がいるから海竜様がお怒り?」
喚く住人達を鼻で笑い、私は目を細める。
「海竜様が直接、そう言ったの?今回の嵐は、アディライトのせいだ、って?」
「「「っっ、」」」
私の問いに、住人達が一様に口を噤む。
そうするしかないのよね?
この街に起こっている厄災は、アディライトのせい。
悪いのは、全てアディライト。
「違いますよね?だって、海竜様には、どなたも会っていらっしゃらないのでしょう?」
ーーーそう、思いたいのよね?
見たくないものには蓋をして、誰かを悪として吊るし上げる。
それが楽だから。
「なら、なぜ貴方達はアディライトが悪いと責められるのでしょうか?」
真実なんて、誰も見ようともしない。
それは、なぜ?
ーーー自分が悪とされるのが怖いからだ。
「だ、だが、」
「実際、アディライトが天候を操作するとして、その理由は?」
反論しようとする声を遮る。
「なんの証拠もなく、憶測だけで幼気な少女を、こうやって皆さんは糾弾なさると言うのですか?」
どんな理由?
「それで?その手に持つ武器でアディライトに何をするつもりです?」
「そ、それは、」
「俺達は、ただ、この街を厄災から守りたくて・・。」
言葉に詰まる住人達。
誰も好きこのんで悪者にはなりたくないものね。
「この街を厄災から守りたい?だから、何も悪くもないアディライトの事を傷付けても良いと、皆様はお考えなのですね。」
この場に集まった住人達へ冷たい目を向ける。
ふざけるな。
証拠もないのに、アディライトを犯人扱い?
「良く分かりました。この街の住人は、証拠もなく少女を寄ってたかって痛めつけようとするのが礼儀なんだと。」
私は冷笑を浮かべた。
「っっ、お前は何なんだよ!?」
「『厄災の魔女』と知り合いか?」
「悪いが、俺達が用があるのは『厄災の魔女』なんだ。」
「邪魔しないでくれるか?」
用がある、ね?
「関係なら有りますが?」
ふざけるな。
その手に持っている武器は何?
「貴方達がアディライトに何かする事は不可能ですよ?何故なら、アディライトは私の奴隷ですから。」
「ど、奴隷!?」
「『厄災の魔女』は、奴隷なのか!?」
「ど、どうすれば良いんだ!?」
住人達が慌て出す。
「なっ、アディライトが奴隷!?」
「そんな事、聞いてないぞ!?」
ざわめき出す人達。
そんな人達を冷ややかに見つめる。
「聞いてないから、アディライトに何をしても良いと?まぁ、皆様はそんなに偉い方達なのですね?」
知らないから許せ?
無知が免罪符になるとでも?
「アディライトが私の奴隷と知っても、何かされると言うなら、こちらもそれなりの対処はさせていただきます。人の奴隷に無体な行為をする事は、法で固く禁じられているはずですからね?」
海竜の怒りと、法の刑罰。
彼等達の頭の中で、天秤が揺らぎ出す。
「その貴方達が手に持っている武器で何かします?人の奴隷を奪ったり、傷付ける事は犯罪なりますが、お好きにどうぞ?」
手に持って武器を指差す。
何様なの?
「ふふ、どうします?『厄災の魔女』を無理矢理にでも街の外へ追い出し、法の裁きを受けるか、事実かも分からない海竜の怒りの鉄槌を待つか。」
ーーー決めるのは、貴方達です。
私は笑う。
「何もしていない少女に武器を向けて迫る事が、皆様の正義なのですか?」
この場に来た事が間違いなのだ。
何の根拠も無く、アディライトの事を悪だと決め付け、『厄災の魔女』だから排除する。
そんな考えだから。
「し、しかし、」
「実際に雨が止まず、晴れ間が来ないんだ!」
「このままだと、街が海に沈んでしまうわ!」
上がる声は、全て言い訳。
謝罪一つない。
「だから、皆様の正義を許せと?何も悪くないアディライトを引き渡せとでも言いますか?」
『厄災の魔女』が原因?
この街にアディライトがいるから、雨が降り止まない?
「私のアディライトを糾弾する根拠は何でしょう?有りますよね、こうして物騒な武器を持って押し掛けて来ているんですから。」
さぁ、話せ?
私が欲しい、言葉を。
「ーーーっっ、サフィアが言ったんだ、『厄災の魔女』のアディライトがいるから、雨が降り止まないんだって!」
そう、私の望む展開にする為に。
「・・サフィアさんが?」
「そうだ、この街に『厄災の魔女』がいるから海竜様の怒りを買ったんだって。」
「私達は、この街を守りたいだけなの!」
「そうですか。」
頷き、カップをテーブルの上に置く。
言質はとった。
もう、この人達に用はない。
「ーーー・・私の無実を、皆さんにお見せすれば納得していただけますか?」
後ろに控えていたアディライトが一歩、前へ出た。
私達の後ろには、フィリアとフィリオの2人が静かに控えている。
「何・・?」
「それは、どう言う意味だ?」
困惑し出す、住人達。
「海竜様に、私が舞を捧げます。それで海竜様のお怒りが解ければ、私への疑いは晴れましょう。」
凛と、アディライトが告げた。
「『厄災の魔女』であるお前が、海竜様へ舞を?」
「それで海竜様のお怒りは解けるのか?」
「いや、しかし、『厄災の魔女』だからこそ、その身に良くない事を取り入れる事が出来るのでは?」
「おぉ、確かに!」
顔を見合わせ、意見を出し合う住人達。
「だが、確か今、今年の乙女に選ばれたサフィアが海竜様の為に舞っているはずだぞ?」
「なら、それで嵐は治るのか!?」
「いや、嵐が弱まった気配は見られないが・・。」
落ちる沈黙。
住人達が、視線でどうするか問いかけ合う。
『ーーーディア様。』
その時、リリスから念話での連絡が入る。
ーーーついに、準備は整った。
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