アディライトの怒り
怒りの矛先をアディライトから私へと変えたサフィア。
うん、お馬鹿さん。
そんな事したら、1番ダメだったのに。
「・・サフィア、貴方は今、なんと言いました?」
ほら、反応した。
私の可愛いアディライトが。
「は?もしかして、アディライト、耳まで遠くなったの?」
サフィアの口元が悪に歪む。
「あんたのご主人様は、自分の奴隷も満足に管理も出来ないダメ人間だって言ったのよ!今度は聞こえたかしら?」
「・・そう、やはり、そう貴方は言ったのね。」
消えるアディライトの表情。
ゆらりと揺れたアディライトはサフィアにあっという間に近づくと、その首へと手を伸ばし、掴んでしまう。
「あっ、ぐう、」
アディライトに掴まれた首が絞まるのか、苦痛の声を上げるサフィア。
しかし、緩まる事のない力。
サフィアの首を締めならがら、アディライトはその身体を持ち上げてしまう。
「サフィア、貴方の事を早急に排除するべきでした。私の大切な主人に対して、暴言を吐く前に。」
淡々と告げるアディライト。
苦しがるサフィアを見る目は、旧友に対するものではなかった。
「私の主人を貶める人間は必要ありません。サフィア、私と主人の前から消えてください。」
「っ、あぁ、くっ、」
どんどん強まるアディライトの力に蒼白になるサフィア。
瞳も虚になっていく。
あらあら、しょうがない子ね。
「ーーー・・アディライト、止めなさい。」
ぴたりと止まる、サフィアの首に食い込んでいたアディライトの指の力が私の制止する声に緩まった。
ドサリと地面に落ちるサフィアの身体。
「かは、ゲホ、あぅ、」
地面に横たわりながら、サフィアが大きく咳き込む。
その顔は涙でぐじゃぐじゃだ。
「っっ、サファイ!?」
咳き込みながら、地面から起き上がれないで苦しむサフィアに駆け寄るトム。
え、今?
ようやくの動きに驚いてしまう。
「ディア様、彼はアディライトの行動に驚いて、ずっと固まっていましたよ?」
私にこっそりと囁くディオン。
トムの間抜けな所をばっちりと見ていた模様。
「へぇ、自分の記憶の中のアディライトと違う一面を見て驚いたって所かしら?」
人は自分の理想を相手に押し付ける。
そうあれと言うかの様に自分の理想と違う事をすれば幻滅し、裏切られたと嘆く。
勝手な生き物だ。
「ふふ、アディライトの一面しか見ていなかった坊やには、刺激が強過ぎたかもね。」
必死にサフィアの背中を擦るトムに笑う。
何が恋だ。
相手の全てを受け入れられない半端者が、私からアディライトを奪えるとでも?
「ーーー大丈夫ですか、サフィアさん?」
微笑みを顔に貼り付け、サフィアとトムの2人に近付く。
ようやく地面から起き上がったサフィアが、近付く私を睨み付けてくる。
「っっ、これが大丈夫に見える!?あんたの奴隷のアディライトに首を絞められて、私は殺されかけたのよ!?」
サフィアが吐き捨てる。
忌々しそうなサフィアの顔に私は内心で拍手喝采。
折れない心が素敵だ。
「申し訳ありませんでした、サフィアさん。私のアディライトはとても過保護で、暴言や敵対行動を許さないんですの。」
最初に喧嘩をふっかけたのは貴方でしょう?
言葉に滲ませる。
「まぁ、サフィアさんがアディライトと婚約者との関係を誤解するのも分かりますわ。だって、とっても素敵な婚約者さんなんですもの。」
特に、扱い易いと言う意味で。
サフィアを怒らせる起爆剤として、彼はとても優秀です。
「私も夫がおりますから、サフィアさんの気持ちが分かりますの。自分のお相手が素敵な方だと、不安になりますよね?」
「・・夫?」
「えぇ、こちらの2人が私の夫ですの。」
私の腰を抱くコクヨウと、そばに寄り添うディオンの事を2人をサフィアに紹介。
どう?
私の素敵な旦那様は?
「ふふ、私の夫も素敵でしょう?」
「・・そう、ね、とても素敵だわ。」
今までアディライトにしか目を向けていなかったサフィアは、私の紹介でコクヨウとディオンの2人に姿に釘付けになってしまう。
おい、お馬鹿さん。
貴方の隣に婚約者のトムがいるのに、人の旦那をガン見するな。
「あら、釘付けになるくらい私の夫を素敵だと思ってくださって、ありがとうございます。」
「っっ、~~」
困った様に微笑めば、サフィアの顔が羞恥に染まる。
そりゃ、そうよね?
トムに浮気だとか、アディライトに気があるって詰っておいて、自分は人の夫に見惚れているんだから。
「サフィアさんの不安なお気持ちも分かりますし、どうでしょう?お互いに今日あったことは見ずに流し、忘れると言う事で?」
こてりと、首と傾げる。
「サフィアさんも大事にはしたくないのでは?街の方が言ってましたが、今年の舞手に選ばれたのですよね?」
この提案は、貴方の為。
サフィアの事を思っての提案なのだと囁く。
「・・確かに問題を大きくしたくはないわ。でも、アディライトのした事を許せと言うの?」
「サフィア、これ以上はよそう?こんな揉め事が街中の人に知れ渡れば、君の舞手としての悪評となるんじゃないか?」
渋るサフィアをトムが宥める。
トムもこれ以上の揉め事に発展する事は嫌な模様。
うん、ありがとう、素晴らしいアシストです。
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