天使
どうやら、天使と言うのは本当らしい。
こうして証拠を見せられては、天使だと言う話を信じるしかないと納得する。
「ね?僕が天使だって言う事は、本当でしょう?」
「・・・そうね、で?死んだ私を、天使である貴方が迎えに来たって事?」
目の前の瞳が見開かれる。
「・・・ちゃんと認識していたんですね?ご自分が死んだ事を。」
「当たり前でしょう?」
鼻を鳴らす。
「自分の意思で、死ぬ為に校舎の屋上から飛び降りたんだから。」
そう、それで私は死んだ。
終わりにしたの。
あの、悪意と増悪に満ち、奪われるだけの日々から。
「・・・あのー、」
「何?」
「それなら、僕が本物の天使だとご理解していたんでは?」
「まぁ、理解したくは無かったけどね。」
死んだら天使に会った?
なにそれ。
どこのファンタジー小説の中のお話しなんだか。
笑えない。
「うぅ、なのに疑ったんですか?」
酷いです。
そう言い、自分の顔を手で覆いめそめそと、うざったく泣き始める天使。
「ねぇ、うざったいから嘘泣きは止めてくれない?」
「・・・本当、良い性格してますね。」
どっちがよ。
ゆっくりと顔を上げた天使は、もう泣いていなかった。
目元さえ、涙で濡れてさえいない。
「まぁ、良いですけど。」
天使が肩を竦ませる。
「改めまして、天使のリデルと申します。」
「はぁ、どうも。」
「突然ですが、」
そして、目に前の天使は言ったのだ。
「ーーーー人生、リセットしてやり直しませんか?」
と。
「・・リセット?」
胡乱げな眼差しを天使へ向ける。
・・・一体、この天使は何を言っているのだろうか?
「僕の上司、神と呼ばれる存在が貴方の人生を哀れに思い、救済する命を今回、僕が承ったんです。」
「は?救済?」
「はい。」
リデルの顔が翳った。
「貴方の人生を見守っていた神は、どんどん世界に絶望していく事に大変心を痛めておりました。そんな貴方が自らの手で、その人生を終わらせてしまった事を知り、急ぎ僕を派遣したのです。」
「貴方を?」
「はい、貴方の人生のリセットの為に。」
「へぇ~。」
救済、ねえ?
自分の口元が歪む。
「派遣された貴方って頼りなく見えるんだけど?」
「!?」
ショックを受ける天使。
「ごめん、冗談。」
「っっ、うぅうぅ、酷いですよ~」
「ごめん、ごめん。」
べそをかきいじけ出す天使に謝る。
「でもさ、私思うのよ。」
「何をですか?』
「今まで何もしてくれなかった神が、今更ってさ?」
遅くない?
皮肉げにリデルに笑う。
「っっ。」
苦しげに歪む、リデルの顔。
何度も願ってきた。
この地獄のような毎日から助けてほしい、救ってほしいって。
「ふふ、そんな些細な願いも叶えてくれなかった神が、今更私を救うって言うの?」
なのに、現実はどうよ。
救いはあった?
「私の少しくらい皮肉、許してよ。」
願いは、1つ。
ーーーー普通の平穏だった。
「だから今更そんな事を言われてもね。」
簡単に神様だとか天使だとかの話を信用なんか出来ない。
「っっ、すみません!」
頭を下げるリデル。
私は頭を下げるリデルに目を瞬かせた。
「ですが、神と言えど人間界には不用意に手を出せないのです。」
「なら、なんで今?」
「貴方が死んだからですよ。」
「うん?」
「貴方の魂は死んだ事により人間界の輪から外れました。今なら神が何をしようとも、なんの制約に縛られる事なく救済が出来る。そう、貴方の望む人生を与える事さえ、今の神には可能なのです。」
リデルの真剣な目が、私を射抜く。
「神の力で、次は幸福な人生を選べますし、地球の裕福な家庭に生まれ変わり、今まで貴方を虐げていた人達を、いえ、他の人達さえも見返す事も可能ですが、いかがでしょうか?」
「見返す。」
私を見下して、嘲笑ってきた人達を。
拳を握り締める。
「はい、貴方が望む通りの人生を、神の命により僕が与えます。」
「・・・私が望む人生を。」
あぁ、それはなんて、魅力的で。
ーーーーとてつもなく、 私にとって甘美な誘惑なんだろうか。
「それを望むかは、貴方次第です。」
全ては、私次第。
「・・どんな事でも叶うの?』
「はい、貴方が望めば、何でも叶えます。」
リデルが頷く。
ずっと、あいつらに復讐する事だけを考えてきた。
良いだろうか?
もう自分の幸せを考えても。
「ただ、僕にできるのは環境を整えるだけ。」
「その後は、私の行動次第?」
「そうなりますね。」
リデルが頷く。
「貴方が普通に幸せになりたいと望むなら、子供を何よりも大切にしてくれる夫婦の元へ、僕が責任を持って転生させます。」
心が揺らぐ。
ずっと欲しかった家族。
それを、私が望めが叶うとリデルは言う。
「私はーー」
私の本当の願いとは、一体、何なんだろう?
考えた事がある。
私をバカにして見下し、嘲笑っている人達を見返せたら、と。
何度も夢想した。
ーーそれが、叶わぬ夢と知りながら。
「私は、幸せになりたい。」
「はい。」
「愛されたいっっ、」
一人ぼっちは、もう絶対に嫌だ。