お客様とのひと時
“その人”が屋敷へ訪ねて来たのは、私がルーベルンで読書をしながら、まったりしていた時だった。
「ん?」
読んでいた本から視線を上げる。
招かれざるお客様のマーカーの接近によって。
「・・これ、は、」
私と同じ様に、その人の接近に気が付いたコクヨウも、険しい表情を浮かべる。
他の皆も一様に。
しばしの間、沈黙が室内に流れる。
「・・はぁ、仕方ない。」
招かれざるお客様と言えど、無下にはできない。
仕方なく、読んでいた本を閉じた。
「アディライト、ルルーシェルにお客様が来るって、伝えてきてくれる?」
「かしこまりました。」
一礼したアディライトは、部屋から出で行く。
優秀な子達が、問題なくお客様を丁寧に出迎える事だろう。
「・・・ディア様、お出迎えされるのですか?」
「ん、一応、ね?」
険しい顔のままのコクヨウに頷く。
あの方が私の所に来るなんて、何かしらの理由があるのだろうから。
「ーーディア様、アレン王子が来られました。」
数分後。
ルルーシェルがお客様、アレン王子の到着を告げる。
「そう、それで、アレン王子のご用件は?」
「ディア様にお話があるようです。」
「私に話し?分かった、アレン王子を一階の応接間へお通しして。」
「かしこまりました。」
一礼し、出で行くルルーシェル。
さて、アレン王子は、一体、私に何の話があるのやら。
重い腰を上げる。
渋々、私はアレン王子が待つ応接間へと向かう。
「お待たせいたしました、アレン王子。」
応接間へ向かった私は、ソファーから立ち上がるアレン王子ににこやかに微笑む。
ルーベルン国、第3王子、アレン。
14歳の若き高貴なる王族の方が、恐縮した様な様子で応接間にいた。
「アレン王子、お座りくださいな。」
「はい、ありがとうございます。」
着席を進めれば、笑顔で頷いて座るアレン王子。
その顔は固い。
訝しみなが、私も机を挟んでアレン王子の前のソファーへと腰掛ける。
座る私達の目の前のテーブルに、アディライトの手によって用意されるお茶とお菓子。
今日のお菓子は、チーズケーキの様だ。
「アレン王子、よろしければ、お茶とお菓子をどうぞ。こちらのケーキは、チーズを使った甘さ控えめなお菓子です」
「美味しそうですね、ありがたくいただきます。」
安全上の理由から断られるかと思ったが、アレン王子は嬉しそうにお茶とお菓子に手を付ける。
毒の心配はいらないのかしら?
不用心。
「・・幸せだな。」
「はい?」
「安心して美味しい物が食べられる事が幸せだなって。」
はにかむ、アレン王子。
「あら、私がアレン王子に毒を盛るかもしれませんよ?」
「ふふ、ソウル嬢なら、そんな事をせずとも、僕を簡単に屠れるでしょう?」
「まぁ、私への過分な信頼ですわね。」
毒なんて盛らないけどね。
私への信頼があっての、毒味なしだったのか。
しばし、アレン王子とお茶を楽しむ。
「さて、アレン王子。本日は当屋敷への急な来訪、一体、いかがされましたか?」
一口、私もお茶に飲み、カップを置く。
「・・礼を欠いた突然の訪問、お許しください、ソウル嬢。」
「いえ、アレン王子の訪問に驚いているだけですので、謝罪は不要ですわ。」
「そう言っていただけると、ありがたいです。なにぶん、今日、ここへ来たのは内密なので。」
「内密?お忍びで来られたと言う事ですか!?」
目を見開く。
「はい、そうです。」
「・・まぁ、護衛の方々がアレン王子の事をお探しになっているでしょうに。」
苦笑いを浮かべる。
まったく、思い切った事をする方ね。
驚かされる。
「どうやって、お城の外へ?」
「・・王族だけが知る、秘密の抜け道を使いました。」
「あらあら、この話を陛下が聞いたら怒られてしまいそうですね。」
「かも知れません。」
2人でくすくすと笑い合った。
私に会う為に秘密の抜け道を、ねぇ?
何かしらの緊急時の時だけに使う道よね、それ。
「ソウル嬢。」
アレン王子の顔が引き締まる。
ふむ、本題かしら?
背筋を伸ばし、アレン王子に向き合う。
「はい?」
「本日は、ソウル嬢にお願いがあって来ました。」
「お願い、ですか。何でしょう?」
首を傾げれば、ソファーから立ち上がったアレン王子は私の方へ近付き目の前に跪き見上げてくる。
急なアレン王子の行動に、止める暇もなかった。
「あ、アレン王子!!?」
何事!?
新手の嫌がらせかしら?
「ちょ、お立ち下さい、アレン王子!!」
王族ですよ、貴方!
いくら私の家族以外いないくても、高ランク冒険者に対してと言え、王族の方が跪くのはまずいでしょうが。
「ソウル嬢。」
「は、はい?」
真っ直ぐなアレン王子の目が、私を射抜く。
な、何?
「ーーー僕を、殺して下さい。」
「・・は?」
ーーーー・・何だって?
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