泡沫の夢
結構辛辣に拒絶した事で、今は王子達が諦めるのを願うしかない。
「あの時は、王子達の口を縫い付けたくなりましたね。」
「私達の目の前で、ディア様の事を口説くとは王子達は良い度胸です。」
王子達に対して容赦のない毒を吐く2人。
ご立腹の様子。
・・うん、気持ちは分かるから、真っ黒いオーラを放つのは止めようか?
「もう、少しは落ち着いて、2人とも。あんなの、ただの子供の戯言でしょう?」
自分の手に入らないものを欲しがる、我儘な子供の戯言である。
「ふっ、ディア様も言いますね?」
「せっかく口説いても、戯言とは。」
愉快そうに笑う2人。
どうやら、機嫌は治った様子。
「だって、そうでしょう?この容姿と、Sランク冒険者って言う肩書きが王子様方にはお気に召しただけなんだもの。」
唇を尖らせる。
あんな告白を本気にするはずがない。
「それに、私以外を捨てれない王子様方を受け入れるはずないでしょう?」
冷たく笑う。
「・・王子達が家族や、国を捨てたら?」
「・・ディア様は、王子達を受け入れますか?」
ふむ、捨てたら、か。
「その時は、目を向けるかもね?」
あくまで可能性の話。
「ふふ、私の為に愚王子と呼ばれるのも面白いかもしれないわ。」
さしずめ、私は王子を誑かす悪女?
面白いじゃないか。
「私の為に何かを貢ぐくらい、あの王子達ならしそうよね」
くすくすと笑う。
「ディア様、王子達と交流を続けるのですか?」
「んー、どうしよう?王子達で遊ぶのは楽しそうではあるけど、後が面倒かな?」
本気になられても、困る。
ここは、もちろん拒絶一択でしょう。
「まぁ、王子達の婚約者が決まるまでのお遊びみたいなものよね?」
いつか目を覚ます。
その気待ちが、嘘だったと。
今は見ていればいい、泡沫の夢を。
「ディア様、王子達で遊んだら、いくらなんでも王の怒りを買いますよ?」
コクヨウに窘められる。
「・・むう、可愛い悪戯じゃない。私から何かする訳でもないし。」
本気にしないでよ、コクヨウ。
ほんの戯れ。
楽しい冗談なのだから。
「聖王国パルドフェルドでも、ディア様は遊ぶ予定なのでしょう?」
「ふふ、もちろん。コクヨウの事を傷つけた元凶様を私が許す訳がないわ。」
「なら、自粛して下さいよ?」
「はーい。」
聖王国パルドフェルドで遊べなくなるのは嫌なので、渋々、頷く。
「まぁ、国を壊す方が、王子様達との恋愛ゲームをするよりも楽しそうだしね?」
やりがいがある。
しかも、聖王国パルドフェルドには私の復讐相手がいる。
コクヨウの両親が。
「コクヨウは嫌?生まれ故郷が消えるのは。」
「いいえ?あの国に対して特になんの思入れもない、どうでも良い存在ですね。」
あっさり言い切るコクヨウ。
祖国や両親に対して、一切の未練も見られない。
「聖王国パルドフェルドを、ディア様は灰燼に帰すつもりですか?」
「それも、面白そう。」
自分達が祖国を滅ぼす元凶だと知った時、一体、彼等はどんな表情を浮かべるだろうか?
絶望?
虚無?
怒り?
苦しんで、ぼろぼろになればいい。
「ーー全てを壊してしまえば、私は何も失わないのかな?」
「ディア様?」
「そうすれば、煩わしい事もなくなるし。この世界は私達だけの楽園よね?」
私を蝕むのは、真っ黒な闇。
大切なコクヨウを傷つけた聖王国パルドフェルドが、なぜ、今ものさばっているの?
・・あぁ、許せない。
「ーーあの国を消さなきゃ。」
罪を償うべきよね?
己の犯した罪の重さを思い知るべきだ。
その身をもって。
「・・そう、しますか?」
「え?」
「ディア様が望むなら、僕はそれでも構いませんよ?」
真っ黒い闇に染まる私の頬を、コクヨウの温かな手が撫でる。
それだけで、灯る光。
「貴方の心を占めるモノを、これ以上は形容できませんよ?」
「・・なぜ?」
「ディア様が思うのは、僕達の事だけで良いんです。」
私の心をすくい上げるのは、いつも皆んなだ。
壊れた、私の心。
不安定な私は、皆んながいるからこそ、こうして平穏に保たれている。
「ふふ、コクヨウ達は、国にさえも嫉妬するの?」
笑えるのも、皆んなのおかげ。
気づいてる?
私が本当に心から、こうやって笑えるのは、皆んなの前だけだって事に。
「いけませんか?」
「うぅん、嬉しいわ。」
歪で、渇いた私の心が満たされていく。
どうして、手放せる?
こんなにも、愛おしい存在を。
「私もコクヨウが、皆んなが他の誰かに心を傾けたら、嫌だもの。」
私以外を見る事は許さない。
きっと、その時は、この自分の手で息の根を止めるだろう。
「ーー私になんか捕まって、可哀想な皆んな。」
コクヨウの唇をなぞる。
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