閑話:歪んだ恋心
ミフタリアside
この日、初めての恋をした。
その輝く存在から目を反らせない、この始めて感じた激情。
キラキラと輝く羽はシャンデリアの光を浴びて、その場の誰よりも一際目立っていた。
「っっ、何て、綺麗なの。」
感嘆の溜息を吐く。
触れたい。
その瞳に私の事だけを映して欲しいと願う。
「・・、欲しい、わ。」
湧き上がる欲求。
彼の事を、どうしても手に入れたい。
「ふふ、この私が声をかけたら、きっと彼も喜ぶわね。」
だって、私はこの国の王女。
皆が私に膝を折る。
その私が声をかけるのだから、喜ばないものなどいないだろう。
「・・まぁ、この様な場に黒色の服を纏うなんて、なんて不吉なのかしら。」
黒色?
ぽつりと私にしか聞こえないぐらいの呟きに彼から隣へと視線を移す。
「っっ、」
思わず息を飲むほど綺麗だった。
黒い衣装を纏い、その長い白銀の髪を自然と背中に流し、輝かせる女は。
悔しさに己の唇を噛む。
「・・なぜ、」
貴方は、その女の事をエスコートしているの?
私は、ここよ?
・・どうして、その女の事を、そんな愛おしいような眼差しで見るのだろうか。
「ーーーーっっ、黒を纏うなど、なんと不吉な!」
・・・許さない。
気が付けば、彼の隣に当然の様に寄り添う白銀の髪の女へと私は詰め寄っていた。
でも、正しい事よね?
だって、目の前の女は不吉な魔族と同じ黒色の服をこの場に纏って来たのだから。
非難されて当然の事だ。
「ふふ、帰るならその妖精族の事は置いていってね?私の愛玩物にしてあげるから。」
私のお気に入りにしてあげる。
どんなに彼の事を寵愛したとしても、奴隷だった者をこの国の王女たる私の伴侶にはなり得ない。
ーー・・どんなに私が愛したとしても。
「ふふ、この私がお前の事大事にしてあげる。光栄に思いなさい?」
嬉しいでしょう?
この国の第一王女である私の寵愛を得られるなんて。
「ねぇ、ミフタリア様は貴方の事を欲しいそうよ?どうする?私の側から離れてミフタリア様の元へ行く?」
「いいえ、お断りします。私が心から側にいたいのも、欲するのもただ1人、貴方様だけですので。」
なのに・・。
視界にも入れたくないと言わんばかりに私からから顔を逸らされる。
そして私へはずっと冷ややかな眼差しを向けていたのに、その女には蕩けるような甘い表情を向け、見せつける様に握る私の手に口付けを落としたではないか。
「だそうですよ、ミフタリア様?残念ですが、貴方は彼に選ばれなかったようですね?」
その口元に浮かぶのは優越。
「っっ、お前ッ!」
この私に対して何たる侮辱だろうか。
許さない。
この私を馬鹿にして!
不敬罪で罰しようとした私を、目の前の女は楽しそうに。
笑っていない瞳で微笑んだ。
「だって、私をこの場に呼んだのは、この国の国王陛下ですもの。その王の許しもなく招待した者を勝手に帰すなんて不敬では?」
なのに、現実はどうだろう。
断罪されるはずの女は、逆に私の愚かさを白日のもとに晒した。
「あぁ、この国の常識は違うのですね!?だって、第一王女様や公爵令嬢様は国王陛下をご自分の格下だと思ってらっしゃるようなのですから。」
「・・・。」
「そうでございましょう?ミフタリア第一王女様?」
身体の震えが止まらない。
「まさか、下賎な私の問いに高貴な血筋のお2人は答えて下されないのですか?では、国王陛下に直接お聞きした方がよろしいかもしれませんね。」
私は、どんどん女に追い込まれていく。
何を私は間違った?
「ミフタリア、そなたはしばらく宮殿内の自室で謹慎を命じる。そして、公爵令嬢ミミリア嬢は宮殿に来る事をしばらくの間は禁止し、自宅での謹慎を言い渡す。」
王であるお父様から言い渡される宮殿内での謹慎。
お父様の娘である私へ向ける眼差しは厳しい。
でも、それ以上に私の胸を締め付け、とても悲しかったのはーー
「っっ、見ない、で、」
貴方の私へ向ける、とても冷たい眼差しだった。
私は知る。
彼にとって、この私は敵なのだと。
「ーー・・どうしよう。」
お父様から謹慎を命じられ、自室で項垂れる私は一人ぼっち。
本当なら、私の側に彼がいたはずなのに。
『ねぇ、ディオン?ミフタリア様は貴方の事を欲しいそうよ?』
『お断りします。私が心から欲するのはただ1人、貴方様だけですので。』
今、私の側には誰もいない。
「・・なぜ、」
彼は私の事を愛してくれないのか。
私は誰からも愛される、この国の王の血を受け継ぐ尊い存在なのよ?
「っっ、全部、」
ーーーーあの憎い女のせい。
ふつふつと、あの女への憎しみが私の中で込み上げる。
「そう、よ、」
今はあの女がいるから、まだ彼は私を愛せないだけ。
・・・そうでしょう?
「ーー・・ふふふ、全部、私が壊してあげる。」
彼に愛されるのは、私だけで良い。
他は全て不必要。
「あの女の奴隷から彼を私が開放して、ずっと側にいてもらうの。」
あぁ、なんて素晴らしい未来だろう。
うっとり夢想する。
「私と貴方の未来を邪魔する者は全て排除しなきゃ、ね?」
だって、私はこの国の王女だもの。
私が願ったものは全てこの手に入れるのは、当たり前でしょう?
「しばらくの間は私は自由に動けないわね。」
さて、誰に動いてもらおうか。
思考を巡らす。
「・・そうね、叔父様なら、きっと私の為に動いて下さるわ。」
叔父様であるカーシュ公。
私の母の妹の夫。
お父様の兄でもある方。
「その為に払う対価は何が良いかしら?」
仄暗く微笑んだ。
叔父様へ私が支払う対価にするものを決めたのは、数日後の事。
破滅へ向かっている事を私はまだ知らない。
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