表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

短編集

婚約破棄の行方

掲載日:2019/07/06


 その日、俺は「婚約破棄」というものを初めて知った。


言葉は知っていたけど、それが本当に自分にも起きるのだと、初めて知ったのだ。


両親は戸惑い、仲人には「式まであと一か月もないんだぞ」と怒鳴る。


電話口の親戚のおばさんが「すみません、すみません」を繰り返している声が聞こえた。


「いいよ、もう」


俺は親父に電話を切ってくれと頼んだ。


 彼女とは見合いだった。


営業職で忙しい俺に、三十五歳を過ぎてから持ち込まれた縁談。


断る理由もなく話が進んで、二度、三度と会うとすぐに結婚にとなった。


 


 ごく普通の会社の事務をしている、おとなしそうな女性だった。


相手も三十歳を過ぎて、親が焦っての見合い話だったそうだ。


「親を安心させたい」と顔に書いてあったな。


 それがある日、突如として破談になる。


仲人からの電話では、彼女が不倫していることが発覚したそうだ。


相手は彼女の会社の上司だった。


「式を挙げる前で良かったんじゃないか」


五つ年上の兄がそう言った。


何が良かっただ。


会社にも友達にも招待状を送った後だぞ。


破談にしても理由を説明しなきゃならない俺の身になってくれ。


カッコ悪くて言えやしない。




「すみませんでした」


「いえいえ、そちらが悪いわけではないんですから」


結婚祝いをもらった得意先にご祝儀を返しに行く。


もらった現金をそのまま返すわけにはいかないので、同額を商品券にしてお詫びとして渡すことになる。


得意先を一つ一つ、頭を下げて回る。


ようやくすべてが終わったのは、キャンセルした結婚式の日取りをとっくに過ぎていた。




 家にいるのも居たたまれずに外に出る。


俺の唯一の趣味である映画館に向かった。


「ふぅ」


チケットを買ってロビーでたばこを一服する。


「あれ?」


「え?」


明るい笑顔で「こんにちは」と声をかけられた。


あ、思い出した。


得意先の女性主任だ。


同年代ということもあり、偶然、観たい映画も同じだった。


落ち込んでいた様子の俺を気遣ってくれて、一緒に映画を観ることになった。


「うふふ、いつも元気な方なのにすっかりおとなしくなって」


帰りにお茶をご馳走すると、会社でそんな話になっていると教えてくれた。


俺は頭を掻く。


「でも、お仕事の顔以外も見れて新鮮でした」


そう言って微笑んでくれて、俺はホッとした。




 あれから一年後、俺はその女性主任と結婚する。


あの「婚約破棄」がなかったら、俺は彼女とこうして付き合うこともなかっただろう。


人生、ホントに何があるか分からないね。



お付き合いいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ