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馥郁たる  作者: 15cc
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2 奴隷


 剪定をするため奴隷商が成金共にごまを擦りにやって来るのは、春と秋。暑さが酷い夏では汗臭く疲れ切った奴隷は売れず、寒さが辛い冬では病気にかかることが多く売る前に死んでしまう。

 その点、春だと冬を乗り越えられた頑丈な体だと喜ばれ、秋だと食い物に困らなくなるため買う側も余裕が出るのか値切られることもなく、冬に備える人手欲しさに残らず売れる。

 

 香助が初めて剪定されたのはまだ幼いときの秋頃だった。戦火を渡り歩くケチな奴隷商に拾われて直ぐのこと、銀山よりも小さい商店でそこにいた奴隷と入れ替わるように買われた。


()()山の麓で見つけた子だよ、顔は……まあ不細工でもないし、山によく入っていたと言っていたから体力もあるし体つきもいいだろう?」

 そう言われて十金(じゅっきん)で香助はでっぷりと肥えた店主の浜菊(はまぎく)の奴隷になった。

 そこでの香助の仕事は、浜菊の夜の相手であった。買われて初めての夜は怖くて怖くて逃げ出そうとしたが、男のモノを丸出しにして楽しそうに家中を追いかけ回してくる浜菊に結局捕まり、朝までいいように扱われた。

 浜菊の店には香助の他に男女五人の子供がいたが、浜菊の相手をさせられたのは香助だけだった。

 ある晩――揺すられながら香助はそういえばと思い出した。香助が買われたとき、奴隷商に売られたのは女だった。随分痩せこけ、髪も肌もボロボロの死んだ母と同じ年の頃だろう、大人の女。


 ああ、おらもアレになるんだ……


 気付いて香助は、小さく笑った。

 浜菊の精力は毎晩毎晩続いた。おかげでいつも昼過ぎまで起きられず、奴隷にしたら豪勢な飯にも食欲が湧かず、当然香助は痩せていき、「期待外れだった」と次の年の春に売られた。かわりに入ったのはまだ小さな小さな女の子――下卑た笑いを浮かべた浜菊が少女の歳を奴隷商に聞くのを香助は「すまん」と呟いて耳を塞いだ。


 それから、浜菊の店があった町を離れ、美の尾山の向こうリオウンと呼ばれる地区に香助は連れて行かれた。

 リオウン地区は海が近く、漁業が盛んであった。そこで港を仕切るマチマンと名乗る男の元に売られた。

 マチマンは外国人だった。

 こちらの国に来て十五年。妻と子供が四人いて、香助は家事と育児の手伝いをさせられた。まるで奉公人になれたようで、すっかり見綺麗になった香助は毎日が楽しく思えるようになった。――が、それも数カ月、突如起こった嵐に港のほとんどがやられ、建て直すためにマチマンは自分の子供と妻、そして香助を元手にしようとした。


「身分が低けりゃ奴隷ですがね、奥方やお子さんは違います。たかが知れた奴隷の値の三倍、いや間の子であるお子さんは五倍は高値がつきますよ。先日もやんごとないお方が髪が金色だって喜んでおまけまで付けてくれましたからね、なぁに、心配することはありませんよ。生活が落ち着いたらまた娶ればいいんですよ、新しいのをね」


 そのときは夏であったが、マチマンの美しい妻と父と同じ金髪の子供達は傷が付かないように奴隷商と同じ馬車に乗せられ、仕方なく買われた香助は皮の首輪をはめられて馬車の後ろへ縄で繋がれた。

 妻子が馬車に押し込められる際、おいおい泣いていたはずのマチマンは、少しばっかり進んでから振り返ったところで仲間と肩を組んで「これで一安心だ」――とばかりに満面の笑みだった。


 この世に本当に悲しむ人間なんて一人もいないに違いない。


 そう思いながら、香助は歩いた。



 馬車は海沿いの道をひたすら行き、リオウン地区の隣の隣の地区の途中、奴隷商は町の酒場で出会った佳菜子に邪魔になった香助を売り付けた。「伽も出来る、子守も出来る」と酔っ払いながら言ったものだから、独身女傑の佳菜子は香助に店で一番嫌がられていた厩番を命じた。



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