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今昔亜人奇譚  作者: 安眠寝太郎
3/3

3話

ひどく美しく、儚さのある少女だった。


顔立ちはどこか幼さが見え隠れしながらも芯の強さがうかがえるほど凛々しく、新雪よりも白く艶やかな髪は一束の三つ編みにして肩へかけられ、右のこめかみには束ねた糸でできた髪飾りを付けている。

伏し目がちな瞳はエメラルドのように鮮やかで、何時間眺めていても飽きそうにない。

深緑色をしたノースリーブにキュロットのようなパンツスタイルに加えて、体の各所に防具をいくつか装着しているが、防具の存在が彼女の魅力を損なっているわけではなく寧ろその無骨さが彼女の美しさを引き立てていた。

そんな一つ一つの要素は印象深くとも、全体を見ると少女そのものは今にも消えてしまいそうに儚く思えてしまう。


(やっべえええええええ!超絶美少女キタ!リリスより性格よさそうだし今度こそ!)


「えっと、やっぱりどこかケガしてるんじゃ」


「いや大丈夫。それよりこっちのほうに座ってもいいかな?ツレがあんなんだから肩身が狭くて避難してきたんだ。」


倒れていた体勢からすぐに立ち上がり、食い気味に白髪の少女へ問いかける。

少女は少し面食っていたようだが、すぐに笑顔を伴って快諾してくれた。


こうしてユウタは避難場所と道中の話し相手を得ることができた。



++++++++++++++++++++



「へえー、じゃあブランはククリ刀を使うんだな。俺は見ての通り剣を使うんだけど、魔法の適正もあるみたいでさ、このクエストが終わったらそっちの訓練にも入るんだよ。ブランは魔法は?」


「魔法はあまり詳しくないけど、たまに魔晶石を使うくらいかな。」


「ああ、誰でも使えるように魔力を封じ込めた石だよな?」


「うん、自然にできるものもあるけどね。」


ブランという少女と話を始めてから、終始ユウタの頬は緩んでいる。

ユウタ曰く超絶美少女を独り占めできているこの状況では無理からぬことなのかもしれない。


「んー、じゃあ魔法に詳しそうな人に教えてもらおうぜ!ほら、知ってて損はないしさ。」


そういって近くを見渡すユウタの頭の中は

(魔法といえばエルフだよな。できれば長髪美人でお姉さんタイプが好ましい。そんで魔獣討伐の時にでもカッコいいとこ見せればフラグの1つや2つ立つだろ。これが異世界召喚の醍醐味だ!)

などと純粋とは言い難い考えで溢れていたため、注意力が散漫になっていたのかもしれない。


「お、エルフさん一名発見。」


少し離れた席に、若草色の長い髪からエルフ特有の長耳をのぞかせている人物が見られたため、すぐさまユウタは声をかける。


「すいません、お聞きしたいことがあるのですがお暇ですか?」


「ちょうど銃の整備も終わって暇を持て余していた所なんだ。構わないよ、私に答えられる事ならね。」


そう言ってユウタの嫌に丁寧な申し出に答えたのは先ほどのエルフに間違いなかったが、声は男性特有の低さで顔立ちも美しくはあるがこちらも男らしく引き締まったものだった。

今更、男だとは思いませんでしたやっぱり何でもないですとはいかず、そのまま魔法について尋ねる。


「えーっと、俺たち魔法についてあまり知らなくて、エルフなら詳しいかもしれないから聞ければなーなんて思って。」


「そうか、魔法についてか。確かにエルフは魔法に関する知識が深いが、あいにく私では期待に添えそうにないな。火・水・土・風・光・闇の六属性があることと、基本的な詠唱呪文くらいしか知らないんだ。すまないね。」


「いやいや、いいんですよ十分です!ありがとうございました!」


そのまま名前も知らないエルフとの会話を打ち切り、ブランとの会話を再開させようとしていたところに横槍が入る。


「魔法のことなら俺が教えてやるぜ!こう見えても後衛担当の魔法使いだからなあ。」


唐突に割り込んできたのは、おおよそ魔法使いらしくない古びた鎧に身を包んだ短髪の中年男性だった。

やけに嬉しそうに目を輝かせているがユウタとしてはブランとの会話を邪魔されたくないのでお引き取り願うことにした。


「いいって、そこまで興味があったわけでもないし。ちょっとした話のネタ程度のものだったんだよ。だから「遠慮すんなよ!知ってて損はないんだろ!そうだな、六属性はウィスティリオから聞いたみてえだし、他の属性について話すか。「いや、だからいいって」他の属性は普通の奴には使えねえんだ。でもよ時々六属性以外の魔法、例えば氷だったり酸だったり植物だったりを使える゛堕とし子゛ってぇのが種族を問わずに生まれてくることがあんだよなあ。魔法を使う時には体内の魔力を放出して大気中のマナに干渉するんだが、そいつらはマナに一切干渉せず自分の魔力だけで魔法を使うんだ。おまえ、勇者なんだろ?なら特別な魔法が使えるんじゃねか?」


リリス同様に人の話を聞こうとしない性分らしく、ユウタはこのまま聞き流していようと決め込んでいたのだが「堕とし子」や「特別な魔法」という言葉に心くすぐられ、思わず答えてしまう。


「まだ魔法が使えるかは分からないんだけど、参考までに堕とし子の魔法って他にどんなのがあるか聞いても?あと、あんまり大っぴらに勇者って言われるのは恥ずかしいというか。」


「いいじゃねえか!国中にとっくに知れ渡ってんだしよぉ、国を救ってくれる勇者様たちってのは。ヴァンパイアやオーガを滅ぼしてくれるんなら不安ごとが減って冒険者としても願ったりだ!期待してるぜ勇者様!あー、で堕とし子についてだよな知りてえのは。」


そう言った激励の言葉にユウタは悪い気はせず、またブランに対する下心よりも魔法に対する知識欲に比重が傾いていたため、そのまま話を促す。


このやり取りの間、ユウタはブランとウィスティリオへ視線を向けていなかったためには知ることはなかった。

二人の目にそれぞれ、憎悪と哀傷の色が浮かんでいたことに。

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