1話
夢の最後に出てくるあの人はいつも涙を流している。
覚醒したてでまだ布団にくるまっていたい体を無理やり起こしてベッドから起き上がり、大きく腕を伸ばす。
そのまま腕を回しながら肩や首回りの筋肉をほぐしてストレッチを行っていく。
腕、背中、足、と動かしていくとその部分がほんのり温かくなり、血のめぐりが良くなっていくのが分かる。
一通りストレッチが終わると朝食を用意するためにキッチンへ向かう。
といた卵に刻んだホウレンソウと焼きベーコンを入れ混ぜ、バターをひいて熱したフライパンで焼いていく。
少ししたら一度卵をかき回して焼けている部分と生の部分を混ぜ合わせ、フライパンの端に寄せながら丁寧に折り畳んでいく。
形がまとまればあらかじめ出してあった白く平べったい皿にのせ、飾り付けをする。
特にベーコンの香ばしい臭いが鼻孔を刺激してくるが、少し量が多かったのかもしれない。
盛り付けた皿をテーブルへ持っていく。
テーブルの上にはみずみずしくハリのあるレタスを使ったサラダと雪のように白くてふっくらとしたパンが置いてある。
出来立てで香ばしい臭いのするオムレツを手前に置いて朝食は完成だ。
食後の紅茶を飲みながら今朝見た夢のことを思い出す。
商人にしては体が大きいため子どもを怖がらせてしまう、と常々悩んでいた心優しい父と、病弱ながらも家にいた泥棒を蹴り飛ばすほど気の強い母と一緒に引っ越しの荷造りをしている夢だった。
これは捨てよう、それは持っていこう、あれはどこだ?と荷物を詰め込みながら新しく行く村に期待が高まっていた。
もちろん今まで住んでいた町に未練がないわけではなかったが、引っ越しの理由が母の療養のためだったのであまり無理は言えないのだと幼心に分かっていた。
引っ越しの準備はお酒をこっそり隠していた父が母に叱られながらも、母がふらつき大慌てで父とかけよって心配しながらも、少しずつ進んでいった。
さあこの荷物で最後だ、と言うところで景色が一変する。
場所は家の中から外へ。
夕陽によって地面や辺りの家、木々に至っては葉の1枚1枚まで薄暗いオレンジ色に染まっていた。
両親はおらず、少し離れた所に黒髪の誰かが立っていた。
ふと、その人物がこちらを振り向くが、髪は強い暴風にさらされた後のようにひどく乱れており、顔の上半分を覆い隠しているので顔立ちを見ることは叶わない。
しかし、乱れた髪のすき間から涙が溢れ出し、頬を伝い顎先へ落ちていく様子はなぜかはっきりと目に焼き付いている。
その様子はひどく………
ガシャーンッ‼
音によって夢の世界から意識が引き戻される。
音がした足元を見るとティーカップが割れており、手元を見るとティーカップの取手のみが指に引っかかっていた。
どうやら取手の部分にヒビが入っていたため、カップが落ちてしまったようだ。
先程までの考えを頭を振って霧散させ、黙々と破片を掃除していく。
掃除が終わると、出掛けてるための用意をするために洗顔や着替えをしなくてはいけない。
半ば自分に言い聞かせるようにしてすぐにその場から動き出す。
まるで、先程までの考えを打ち消すように。
いつもの服に着替え、武器を携えたベルトを腰に巻いて、布袋を手に取り、靴を履いて、仕事の報告のために所属している冒険者ギルドへ向かう。
稚拙な文章ですがどうぞ良しなに