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ライバル登場

 現在昼休み。昨日先輩と一緒に廊下を歩いていたことについて聞かれそうだったので、わざとチャイムギリギリに登校した俺にとって、40分あるこの休憩時間は今日の正念場だった。


 クラスメイトが思い思いの場所に散らばっていく。俺は窓際の自分の机で弁当を広げると、教室の逆サイドから誠が椅子を引きずってきた。


「一緒に食べようぜ!」


「言われなくてもそのつもりだから。むしろ、誠来ないと俺ぼっちだから」


「にしてもさっきの国語の時間、むちゃくちゃだったよな~」


「ああ、あの問題か」


 俺達の国語は橋本先生が受け持っている。会議室同様、授業も快活な口調で冗談を交えながら、そしてしっかり要点はまとめてくれる。何気にすごいいい先生だ。


「あんなの答えられる方がおかしいよ、まったく」


 ちなみに、誠が騒いでる問題はこのようなものだった。


「A君が教室を歩いていると、二人の女子生徒が喧嘩をしているようでした。どうやら殴り合いにまで発展しそうです。周りに人はおらず、止められるのはA君だけです。さて、A君はどうすればいいでしょう」


1.「やあ、そこのハニー達、どうしたんだい?」と言って、優しくウインクする。


2.「喧嘩はやめるんだ!」と言って、二人の間に割り込む。


3.問答無用で女子を抑える。


4.無視。


「クウはどれを選んだ?」

「3」

「俺は2」

「まあ、真っ先に1と4は消すよな」

「なのに答えは、」

「「4」」


 ちなみに、この問題の解説がこれだ。


「この正答率は極めて低かったです。まず、1ですが、ウインクしただけで何もしてないので✕。2は一見正解のように見えますが、割り込んでも女子達が横にずれて殴り合いを始めるので✕。3は下手に抑えると女の子から変態扱いされて社会的に死ぬので✕。よって正解は4。女の喧嘩なんてドロドロしたものに、首を突っ込まない方が良いということです。二人が怪我でもした場合には先生に任せましょう」


 なんとも理不尽なのだが、不思議と説得力がある解説だった。


「そもそも、女の子同士で殴り合いの喧嘩を始めるなよ」

「クウ、夢を見ちゃダメだ。最近の女の子はパワフルなんだ。ゴリラなんだ」


 それを聞いた隣の席の女子が誠の方をギロッと睨んだ。その目が少しゴリラっぽかった。


 そんなことよりも、さっきから誠が昨日のことについて言及してこない。もしかして、昨日の事は見つからずに済んだ感じか?


「でも、ゴリラまではいかなくても、女子に夢を見てはいけないのは事実だな」

「ほんとそれだよ。理想の女の子なんてこの学校じゃ白金先輩ぐらいしか……あっ、お前、昨日の放課後に白金先輩と一緒に廊下歩いてたって本当か!?」


 ……見つかりました。


 もう、これについては事実だし、早いこと認めてしまおうかと考えた時、タブレットがメールの受信を知らせた。


「すまん、多分依頼来た」

「あっ、お前はぐらかすな!」


 目の前の誠はほっといて、俺は依頼を確認した。


『初めまして。2年の葉月桜夜はづきさくやです。もしよろしければ、ILでのクエストに付き合ってもらえませんか? 私一人ではクリアできないのです。時間は、突然で申し訳ないのですが、今日の7時からでよろしいでしょうか。依頼を受けてくださる場合には、私にメールを送っていただければ、待ち合わせ場所とプレイヤーネームをお伝えします。』


 依頼の文面にしてはかなり丁寧な文章だった。仕方ない、クエストの内容にもよるが、今日はシロナと会うのは諦めてこの人の依頼を受けるか。


『2年の藍海です。ご丁寧な文章ありがとうございます。ご依頼をお受けします。私のプレイヤーネームはアイクです』


「おい、無視しないで少しは何か返事してくれないか」


 誠が少し苛立った声で言った。どうやら、メールを読み書きしている間、誠はずっと話しかけていたらしい。


「先輩と昨日廊下歩いてた話だっけ? それは本当だよ」

「藍海空人、有罪!」

「有罪判決はやめろ!俺は何もやっていない!」


 誠が大声で言ったせいで、クラスに「藍海空人、有罪」の情報だけが伝播していく。それだと、俺がただの犯罪者になるからやめてほしい。


 すると、依頼についての返信が来た。


『依頼を受けていただきありがとうございます! プレイヤーネームはサクヤです。待ち合わせ場所は中央口ゲートでよろしいでしょうか。あと、隣のクラスから「藍海空人、有罪」とか聞こえてくるのですがどうしたんですか』


 どうやら、有罪判決は隣のクラスにまで伝わっているみたいだった。


『中央口ゲートで大丈夫です。あと、俺は無罪なんで、気にしないでください』


 すると、すぐに返信が来た。


『弁護人とかはいないんですか』

『弁護人だと思っていたやつが、先ほど検察の証人に寝返りました』

『なるほど。頑張ってください』


 なんかエールをもらいました。でも、これどうしろと。


 周りを見ると「藍海空人、有罪」という情報だけが一人歩きして、「結局、藍海は何をしたんだ」という謎が浮上しはじめてる。廊下歩いていただけだよ。


 すると、またメールが来た。


『藍海君に伝えたい事があるんだけど、今日の7時に中央口ゲートで会えないかな?』


 先輩からだった。断るのは気が進まないが、仕方ない。


『すいません。今日は他の依頼があるので別の日ではダメですか?』

『OK! 依頼頑張ってね』


 先輩には悪いが、これで今日はひとまず大丈夫なようだ。




 現在午後7時。今回は約束の時間ピッタリに来てしまった。


 闇雲にサクヤさんを探しても仕方ないので、前回と同様通りの端に出る。


 プレイヤーネームは頭の上のタグを見ることでわかるのだが、こんな人の往来が激しい場所でいちいちタグなんて見てられない。


 今回も、オリジナルアバターを使っている俺を向こうが探してもらうしかなさそうだ。でも、もし相手が俺の顔がわからなかったら…


 不安が頭をよぎった時、トントンと右肩が叩かれた。最近肩叩かれるの多いなと思いながら、後ろを振り返る。


 すると、そこには俺より背丈が少し低い黒髪ロングの女の子がいた。


「初めまして、サクヤです。依頼を受けていただきありがとうございます」

「こ、こちらこそはじめまして。アイクです」


 お互いに軽く会釈。とりあえず合流できてよかった。


「それにしても、アイクさんがオリジナルアバターで本当によかったです。初対面なのに、こんな人の多い所で待ち合わせをしてしまって」

「俺も見つからなかったらどうしようかと思ってました」

「それでは、依頼していたクエストをお願いしてもいいですか」

「はい、案内お願いします」


 サクヤさんが中央口ゲートから伸びる大通りを歩いて行く。白いワンピースを着て、腰まで届きそうな黒髪を揺らしながら歩く姿は、異世界の冒険者というよりも、現実の等身大の女の子を感じさせる。


「もしかして、サクヤさんもオリジナルアバターですか?」

「はい、そうですよ。その、やっぱり変ですか?」

「何がですか?」

「その、この世界ってキャラメイキングが自由なんで、金髪とか銀髪とかキラキラした髪の毛の人が多いじゃないですか。男性は黒髪短髪も多いですけど、特に女性キャラはその傾向が強いと思うんです。だから、現実そのまんまの自分の容姿がなんだか浮いてるような気がして……」


 確かに、このゲームではその傾向は強い。黒髪の女の子より、金髪銀髪の方がはるかに多い。しかし、サクヤさんの容姿は俺と違ってこの世界でも十分通用すると思うんだが。


「そうですか?この世界のプレイヤーに負けないぐらいにサクヤさんも可愛いと思いますよ」


「えっ……かわいい、ですか」


 横を歩くサクヤさんが顔を俯ける。多分、俺同様に顔が赤くなってるんだろうな。てか、初対面の女の子にいきなり「可愛いと思いますよ」とか、俺はいつからそんなイケメンになったんだ。


「えっと、その、なんか変なこと言ってしまってすいません」

「いえ、その……嬉しいです」


 サクヤさんが顔を上げて、小さく微笑む。あっ、ヤバい、すごい可愛い。先輩とのファーストコンタクトの時とは全然違う、甘酸っぱいドキドキに包まれてる感じがします。


 でも、現実では白金先輩と付き合ってるわけだから、このドキドキはいけないものなのか。いや、でも現実とILは別で考えるとしたらこれはオッケーなのか。


 サクヤさんの眩しい笑顔にドキドキが止まらなくなって赤面している俺と、そんな俺を見て少し照れるサクヤさん。はたから見れば、ただの初々しいカップルにしか見えないのだろう。


 俺の一言ですごく濃密になってしまった時間の中、俺たちは大通りを出て、路地へと入っていく。そして、何回か曲がった後、目的地に着いた。


「この家に住んでいるおじいさんに話しかけると、クエストがスタートします」


 建物の外からおじいさんを見ると、頭の上にQのマークがついている。これは、ストーリークエストの起点の目印だ。


「そういや、まだクエスト内容を聞いてなかったんですが、どんなクエスト内容なんですか」

「ええと、それなんですが……」


 サクヤさんは少し言いづらそうにしながら、視線を逸らした。


「今回依頼したいクエストは、いわゆるお買い物クエストなんです。しかし、一人や女同士ではダメで、男女のペアでないとクエストが起動しないものでして……」


 男女ペアによるお買い物クエスト。通称デートクエスト。都市伝説だとかリア充にしか発見できないとか噂には聞いたことがあったが、本当にあったのか。


 サクヤさんは腕を身体の前で組んでもじもじすると、周りの人に聞こえるぐらいの大きな声で言った。


「その、私とデートしてもらえないでしょうか!」


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