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進展?

 先輩とILで会った翌日、俺はいつもの様に学校に登校していた。


 しかし、いつもと学校の様子が違った。と言うより俺に対する周囲の視線が不自然だった。皆、俺を見るなり何故かジト目や半眼を送るのだ。


 さすがに、これは俺も耐えられなかった。近くにいた1年の時に同じクラスだった男子に理由を聞いてみることにした。


「なあ、なんで俺こんなに周囲から注目されてるんだ?てか、俺の事わかるよね?」

「わかるよ! 逆になんで知らない可能性を考えてるんだよ」


 すると、その男子の隣を歩いていた友達と思われる生徒が一言言った。


「とりあえず、3回死んどけ」

「ええっ!?」


 よくわからないが身の危険を感じたので、急いでHR教室に向かう。廊下を歩いている間も俺は謎の視線に晒され続けた。


 教室のドアを開けた。すると、今まで騒がしかった教室が、しんと静まりかえった。


 あまりに異様な状況に入り口で立ったままになっている俺のところに誠が来た。コイツならこのおかしな状況を説明してくれるだろう。


「なあ、誠、校門くぐってからずっとみんなが俺を邪気のこもった目で見てくるんだが、一体俺に何があったんだ」

「はあ? この期に及んでとぼけるつもりか、クウ」

「ちょっと話についていけないんだが」

「さあ、洗いざらい話してもらおうか!」

「おい、ちょっと待てって……」

「お前は昨日、白金先輩とキスしたっていうのは本当なのか!?」

「はあ?」


 よくわからない展開に戸惑う俺。クラスメイトを見ると、俺の回答を固唾を飲んで待っている。


 ていっても、俺、先輩とキスするなんてイベント発生した覚えが……


「あー、あれはその、なんというか、キスはしてないよ?」

「キスは、ってなんだ! キス以外の事はしたっていうのか!!」

「キス以外の事もしてねえよ!」


 教室の入口で互いに叫び合う男子二人。でも、なんで、昨日俺と白金先輩が会議室にいたことがバレてるんだ? まさか、先生が言ったわけじゃないだろうし。


「第一、証言は出てるんだよ。昨日の夕方、会議室に金髪の子と男子生徒が身を寄せあっている様子を一部始終を見たと、陸上部員から何人も報告を受けているんだよ!」

「部活しろよ! ……それで?」

「金髪なんて白金先輩しかいないし、じゃあ、お相手は誰なんだよってなって」

「……はい」

「昨日会議室に行った男子なんて一人しか心当たりないから、俺がそのことを言ったら、瞬く間に広まって、こうなりました」

「お前が犯人かよ!!」

「判決! クウはキスはしてない!」

「その含みのある言い方はやめろ!」


 クラスメイトは「一応、無罪か」「いや、キスはって事は、もしかして一線超えてる場合も…」「ひゃあぁ……」「やっぱり有罪で」などと口々に言っている。頼むから、『藍海空人、有罪』という文面を他の人に送るのはやめてくれ……


 その時、俺のタブレットがメールを受信した事を知らせた。差出人は橋本先生だった。


『放課後、くだんの会議室に来る事』


 どうやら、噂話だけでは済まないようだった。




俺が放課後会議室に向かうと、そこには橋本先生と白金先輩が既に席に着いていた。


「よし、じゃあ始めようか。二人ともなんで呼ばれたかわかってるよね」

「「はい」」


 二人の声が同時に発せられる。それを聞いて先生はクスッと笑った。


「では、単刀直入に聞こう。藍海君」

「はい」

「しっかりとゴムは付けたかな?」

「はい?」

「こんな所でとぼけるとは男らしくないぞ。まさか、ゴムがなんのことか僕わかりません、とか言うんじゃないだろうな?」

「と言うか、そもそも俺達何もしてません!」

「そうか、人には言えない事をしてしまったんだな。仕方ない、白金さん、隣に座っている男子生徒に一体何をされたのかい?」

「何もされてません!」

「つまり、口封じのために藍海君は口に出すのもはばかられるような事をした、と。これは罪は重くなりそうだ」

「だから、俺は何もやってないって言ってるじゃないですか!」


どうやら、橋本先生は俺を犯人に仕立てあげたいようだ。


「といっても、多数の生徒から昨日のことについて目撃証言が出ているんだ。そう言い張るのなら、昨日何をしていたか詳しく聞かせてもらえないだろうか」

「えーっと、ですね。先生が出て行って先輩とふたりきりになった後」

「先輩とふたりきり、の部分で照れるな」

「先輩が窓から夕日を見よう、って言って」

「一応その言葉を信じよう」

「窓際で二人で夕日を見てたら、先輩がこっちに寄ってきて」

「ほう?」


 先生が疑いから徐々に興味へと目の色を変える。


「その後、先輩が、目を閉じて、って言ってきて……」

「ほう、それでどうなったんだ!?」

「目を閉じてしばらくした後、先輩が俺の耳元で……」

「ちょっと、藍海君!そ、そのあとはダメッ!!」

「この金髪は何を囁いたんだ、一体なんと囁いたんだ!?」


 先輩があわてて俺の口を両手で塞いできた。真っ赤になった先輩の顔が目の前にあってなんかドキドキします。


「おい金髪、手をどけるんだ!さもなくばスカートを捲って、君の下着の色を藍海君に教えるぞ!」

「ただの、セクハラじゃないですか!」

「ほらほら、手をどけないならスカート捲っていっちゃうぞ~」

「ちょっと、せ、先生、やめてください!」


 先輩が俺の口から手を離して、捲られていくスカートを必死で抑えた。


「藍海、今だ!」

「『キスはしてあげなーい』って言いました」

「とんだビッチだな!」


 先生は先輩のおしりをパンと叩いた。先輩はちょっと泣きそうだった。


「金髪、そこに座れ。私は少年の純粋な恋心を尊重する」

「あ、はい」

「藍海君、もし何か辛いことがあったら先生に遠慮無く相談してくれ。出来るだけ力になろう」

「あ、ありがとうございます」


 先生は慈悲に溢れるような顔で俺のフォローをすると、体を先輩の方へと向けた。


「よし……さて、金髪。少年の心をもてあそんだ罪は重いぞ、わかってるな?」

「……はい」

「ということで、君には何か罰……あっ、教育上よろしくないか。ミッションを与えよう」

「罰なんですね」

「そうだな……藍海君、少し席を外してくれないか」

「えっと、会議室の前で待っていたらいいんですか」

「そうだな」


 俺は鞄を持つと、会議室を出た。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「さてと、藍海君には少しいなくなってもらったので、いろいろ話そうか」

「罰の内容ですか」

「単刀直入に聞こう、白金さんは藍海君のことが好きなんじゃないのか?」

「……え、ええぇ!!なんでそうなるんですか!」

「図星か」


 橋本先生はニヤっと笑うと、ポニーテールにしていた髪をほどいた。艶やかな黒髪が背中へ流れ落ちた。


「ここからは、教師としてじゃなく、近所のお姉さん的な立場で話をするんだけどね」

「なんか、髪下ろすと先生すごい大人っぽいですね」

「大人っぽいじゃなくて、普通に大人ね」

「すいません」

「んで、君は優等生だし真面目そうだから、男子をたぶらかすような真似はしないだろうと思って。そんな君がこんなことをするのだから、これはイタズラとかじゃなくて、普通に藍海君のことが好きなんだけど、一歩踏み込めない、っていう予想」

「予想というより、予知ですね」

「で、実際のところはどう思ってるの」

「えっと、好きですよ。藍海君のこと」

「青春してるね!で、彼のどこが好きなのかな」

「みんなの依頼こなしてるとことか、その……笑った時の顔とか」

「キュンキュンするね!私もそんな恋したかった!」

「先生の学生時代ってどんな感じだったんですか?」

「聞きたい?」

「聞きたいです!」

「じゃあ、藍海君も交えて話すか」

「わかりました」

「おーい、藍海君、もう入ってきていいぞ」


 すると、扉の向こうから「わかりました」と返事が来た。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「話し合った結果、ミッションは決まったんですか?」

「今はそれは置いといて、私の学生時代の話をしよう」

「はあ」

「あれは中学生の時だったかな、私は好きな人がいたんだ」

「青春してますね!」

「さっきも同じやり取りが……まあいい。それで、私はその彼にバレンタインチョコを渡したんだよ」

「キュンキュンしますね!」

「藍海君、ちょっと黙っててくれ。それで、直接渡すのは恥ずかしいから、朝早くに来て、彼の机の引き出しにしまったんだよ」

「それで、どうなったんですか?」

「帰りにふとゴミ箱を覗くと、私のチョコが入っていたんだ……」

「「そんな……」」

「全部手作りで、メッセージカードも書いて、箱に入れて綺麗に包装して、今考えると顔を覆いたくなるぐらいに恥ずかしい本気チョコだったのに…」


 聞いていていたたまれなくなったので、俺はフォローに回ることにした。


「あれじゃないですか、カードも読んでチョコも食べて、箱を捨てたんじゃないですか?」

「箱を振ったら、カタカタと音が鳴ったよ……」

「確認しちゃったんですね」

「帰った後、夕飯ができるまでひたすら泣いていたよ」


 会議室が完全にお通夜モードになっていた。


「その、それって何年生の時だったんですか」

「確か、3年生だったと思う」

「それ、受験に集中したかったからじゃないですか?」

「えっ?」


 思い出すだけで悲しくなってきた橋本先生が、顔を上げた。


「受験で頭がいっぱいいっぱいで恋愛のことを考える余裕がないから仕方なくチョコは捨ててしまった」

「でもせめて、食べるわけにはいかなかったのか」

「食べるとなったら、誰からチョコをもらったのかわかっちゃうじゃないですか。そうなると、やっぱり先生のこと意識してしまうと思うんですよ。でもそれだと、受験に集中できなくなってしまう」

「そういうことだったのかな……」

「大丈夫ですよ。その、先生は魅力的な女性だと思いますし! 気にしなくていいですよ」

「そうだな、ありがとう」


 先生が柔らかい笑顔を見せた。気のせいか、隣にいる先輩がジトッとこちらを見ている気がする……


「さてと、藍海君の紳士な対応が見れたところで、そろそろ白金さんにはミッションを与えようか」

「結局、どうするんですか。私達何も話し合ってない気がするんですけど」

「どうしよっかな~、白金さんが藍海君に向かってスカートを捲り上げるとか?」

「ブフォッ!ちょっと先生何言ってるんですか!?」


 ヤバい任務に思わず吹いてしまった。


「悪いのは私だし、藍海君がいいっていうなら、私は……私は……さすがにムリです!」

「二人して顔真っ赤にして純情だね~。まあ、これは冗談で任務は」


 そこで言葉を切ると、先生は立ち上がって、先輩を指差して言った。


「白金さんには藍海君と付き合ってもらいます!」


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