ダンジョン
当初は前話と合わせて一話で投稿するつもりでしたが、長くなってしまったので二話に分かれました。
視界が戻ると、薄暗いダンジョンの中に俺達はいた。
「見たことないところですね」
サクヤがマップデータがないのを見て呟く。サクヤ同様、俺もマップデータはなかった。
「どうやらインスタント・マップかもしれないな」
「あっ、カウントが減ってます!」
サクヤに言われ視界の端にあるデジタル時計をみると、その下に19:50と表示されたものがあった。俺達が話している間にも、一秒、また一秒とカウントを減らしていく。
「20分しかない、急ごう」
俺は先程購入した俊足ポーションをサクヤに手渡し、自分も飲む。これにより、AGIのステータスが5分間30%上昇する。
「早速十字路ですね……」
「左から行こう」
壁に一定間隔で置かれた松明の光に照らされた洞窟を二人で走る。その時、俺達の数メートル前にゴブリンが出現した。
「ツイン・サーキュラー!」
2、3体湧いたゴブリンを一瞬で片付けると、先を急ぐ。レベルが110を超えてたので、サクヤ一人だったら危険だったかもしれない。
「アイクがいてくれて助かりました」
サクヤが後ろで礼を言うが、今回の本題はゴールを見つけることだ。このクエストは結構運によるところが大きいのかもしれない。
十字路の先に現れた十字路をさらに曲がると、行き止まりになっていた。
「二手に分かれて探した方がいいんじゃないですか?」
「それだと、サクヤがモンスターに遭遇した時に対処できない恐れがあるからダメだ」
「わかりました」
サクヤがやられて俺だけがゴールに辿り着いても、クエストクリアにはならないだろう。
先程の十字路に戻って、違う道に入っていく。しかし再び行き止まりにぶち当たる。
「20分以内に見つかるでしょうか……」
「運次第かもな」
それからも十字路や分かれ道に直面し、その度に虱潰しにあたっていく。しかし、残り時間が5分となった時にある異変に気付いた。
「マッピングが完了しました……」
「ゴールがないだと……」
俺達はダンジョンの分かれ道を全てあたったが、全て行き止まりでゴールらしき場所は発見できなかった。
「もしかして、インポッシブル・クエストだったんでしょうか……」
「それはありえない。どこかにヒントがあるはずだ」
今まで走ってきた道で、変わったところがないか思い出していく。でも、思い当たるような場所がない。
「もしかしたら」
「なにかわかったのか?」
「ちょっとついてきてください」
俺の前を走るサクヤが十字路で悩みながらも奥へ進んで行く。そして、ある行き止まりにやってきた。
「ここです! ここだけ松明がありません!」
確かに、壁をみるとここの行き止まりだけぷつりと松明が途切れていた。
「ということは」
俺は近くの松明に手を伸ばしてみる。すると、一つだけ取り外し可能なものがあった。
「これで壁を照らせば、なにかわかるはずだ」
俺は松明を持って壁を照らしていく。すると、壁にアルファベットが書いてあるのが見えた。
「break…壊せってことですか?」
サクヤが新たに直面した問題に疑問符を浮かべる。俺が拳や剣で壁を殴りつけるが、全く壊れる様子はない。
「どうしましょう、時間がなくなってきました!」
「焦らずに、壁を壊す方法を考えるんだ!」
とはいっても、壁を壊す方法なんて思いつかない。もしかして、鉄槌を持っているプレイヤーでもいないとクリア不可能ってことなのか……
でも、このクエストはヒーラーのサクヤに発生した。ならば。
「サクヤ、錫杖で壁を殴ってくれ」
「でも、攻撃力なんてないですよ?」
「それでもやってみてくれ」
サクヤが不思議がりながらも、ストレージから錫杖を取り出す。そして、壁の前で大きく振りかぶると、えいっと壁を殴った。
途端に今までびくともしなかった壁がガラガラと崩れ落ちていく。そして、その先にゴールと思わしきラインが見えた。
「あと10秒です!」
俺達は崩れた壁の瓦礫を飛び越え、ゴール目がけて全力で走る。しかし、サクヤの足では間に合いそうになかった。
「サクヤ、手を握って!」
俺は左手をサクヤに伸ばし、右手でデカめの両手剣を生成する。そして、それを少し後ろに手放した後、魔石を噛み砕いて一言。
「ウェポン・トランス・リベレーション!」
叫ぶと同時に、背後で両手剣の質量に見合った大きな爆発が起こる。洞窟内で逃げ場のない空気は俺達の背中を押し、瞬間的に凄まじい加速度を授けた。
「きゃあーっ!」
「絶対手を離すなよ!」
走っているときとは比べ物にならないスピードで、景色が後ろに流れていく。俺は空中で離れていくサクヤの手を引っ張って身体を抱き寄せると、ゴールラインを確認することすらできずに、蹴飛ばした石ころのように地面を転がっていった。
「うっ……サクヤ、大丈夫か?」
「なんとか大丈夫です……」
うっすらと目を開けて抱きしめていたサクヤを見ると、こちらと目が合った。
「なんだか、デートクエストの時の事を思い出しますね」
「そう言えば、あの時もこんな風にサクヤを抱きしめてたな」
俺の言葉にサクヤが顔を赤くする。もちろん、俺も赤くなっていることだろう。
「立てるか?」
「ギリギリ足は生きているので立てますね」
サクヤは俺の胸から離れよろよろとしながらも立つと、手で服の埃を払っていく。が、
「あれ……」
スカートを払っている最中に違和感を感じ、サクヤが手を止めた。そして、ゆっくりとお尻の方へ手を持っていく。
「もしかして、穴……?」
そう言いながら振り返り、半ばこちらへ背を向けた状態になる。
「ちょっ、今こっちへ背を向けたら……」
「えっ?」
俺の声にサクヤが手を止めてこちらを向く。そして、もう一度お尻を触ると、事態を把握した。
「見えましたか……?」
「いや、その、スパッツ的なものだけで、俺は何も……」
「嘘です! そんなの穿いてません!」
咄嗟に出た嘘はすぐにバレてしまった。
「だって、今のは不可抗力というか、気をつけてないサクヤにも非が……」
「人のパンツ見ておいて、人のせいにするんですか! 最低です!」
サクヤがさっきとは少し違う意味で顔を赤くし、俺から距離をとる。
「もしかして、冒険で爆発を使うのも、こういうのが狙いなんじゃないですか!」
「そんなわけないだろ! 俺にとれる手段がこれしかなかっただけだ!」
「とりあえず着替えるので、アイクはあっち向いててください!」
俺は大人しく顔の向きを変えると、サクヤが装備変更するのを待つ。
「…………」
「今振り向いたら、絶交ですよ!」
「振り向いたりしないから!」
装備変更が終わるまでじっと待つと、いいですよ、との声が聞こえた。振り向くと、サクヤはいつもの修道女の服に着替えていた。
「さっきは興奮して少し言い過ぎました……」
「俺も、結果的にスカート破いてしまって、ごめん」
着替えている間に、サクヤも落ち着いてくれたようだった。
「そうだ、クエストは間に合ったのか?」
「ちょっと待ってください……あっ、クエスト達成になってます!」
サクヤがこちらに駆け寄り、可視化したウインドウをこちらへ見せた。
「クリアタイム、ギリギリだな。そういや、報酬は何だったんだ?」
「えっと、足装備ですね」
「よかったらだけど、見せてもらえないか?」
「手伝ってくれたんですし、もちろんです」
サクヤが着替えるので、俺はもう一度もむこうを向く。
「いいですよ……」
声がかかり振り返る。すると、そこには白いフリルのミニスカートを穿いたサクヤが、裾を押さえてもじもじしながら立っていた。
「丈がすごく短くて恥ずかしいです……」
「でも、似合ってると思うよ」
「本当ですか?」
サクヤが心配そうに上目遣いでこちらを見つめる。あざとさのないその仕草に思わずドキッとした。
「うん、すごく可愛いと思う」
素で出てきた俺の言葉にサクヤが三度顔を赤くし、小さく微笑んだ。




