後日
数十秒して意識が戻ると、そこはウエストセンターの待合席だった。
辺りを見回すと、すぐ横にシロナの顔があった。
「お疲れ様、アイク君」
「ああ、おつかれ」
俺達は三回戦で女剣豪とネクロマンサーのペアにボコボコに負けた。
「シロナ、顔大丈夫か?」
「それは、もちろんリアルじゃないんだから大丈夫だけど」
「ああ、そうだよな」
「でも、心配してくれてありがとう」
シロナが微笑む。
「そういえば、あのペアの名前わかるか?」
「ちょっと待って」
シロナが、建物のスクリーンに表示されているプレイヤーと顔を探すので、俺も一緒に探す。
「あった、ツキカケさんとヨルナさんだね。刀使いの人がツキカケさん」
「あれだけ強いなら、今日の予選を勝ち抜いて、明日の本戦に行けそうだな」
「うん。そういえば、もう一人のフード被った人はどんな人だったの?」
「ああ、ネクロマンサーだったよ。多分ゾンビにボキボキに骨折られて死んだと思う」
「それは災難だね……」
「それを言うならシロナの方が恐ろしかったけどな」
「えっ、でも私なんか気が付いたら負けてたみたいな、全然実感が湧かなかったんだけどな」
もしかしたら、敵の一刀があまりにも鮮やかすぎて、首を切られたことに気づいていないのかもしれない。
「シロナ、首スパーンって切られて死んだぞ」
「ええっ、私そうだったの!?」
シロナが驚きの事実を知り目を丸くしていると、サクヤがやってきた。
「お二人とも、お疲れ様でした」
「そういや、サクヤの知り合いはまだ勝ち残ってるのか?」
「はい。といいますか、ついさっきお二人を倒したあの刀使いの人ですね」
マジかよ。サクヤの知り合い強すぎんだろ。
「レベルいくつぐらいの人なんだ?」
「たしか、165ぐらいだったような……」
「それ間違いなくトップ層じゃん。そんな凄い人と知り合いなんだね」
「私がまだ初心者だったころ親切にして下さって、それから交流があるんです」
「あの人が親切か……ちょっと想像つかないな」
「ツキカケさんは普段は親切なんですよ。ただ、少し戦闘になると目の色が変わるといいますか」
まあ、あの殺意のこもった目だけで、軽くモンスター死にそうだもんな。
「はぁ~、でも見事に負けちゃったね」
シロナが試合の緊張を解き放つかのように、うーんっと伸びをした。
「今回の依頼は失敗かな……」
「そんなことないよ。私の力だったら、一回戦も乗り越えられなかっただろうし」
「でも、頼まれたからには、せめてあと2、3回は勝ち上がりたかった」
「でも、私は2回勝てただけでも、十分嬉しいよ」
シロナはそう言ってくれている。でも、やっぱり三回戦でのあの負け方は情けなくて、悔しかった。
「シロナ、さっきFFして本当にごめん」
「ううん、私は気にしてないよ」
「……疲れたから、今日はこれで落ちる。おやすみ」
「うん、おやすみ……」
俺はシロナの方を向くことなくウィンドウを操作し、ログアウトした。
大会の翌日の日曜、俺は朝からレベリングのため再びアリ穴に潜っていた。
四方八方から迫りくるアリ達をツイン・サーキュラーで斬り刻んでいく。
あと3000でレベルアップするタイミングで、メッセージを受け取った。
敵を一掃して時間を作り、ウィンドウを開ける。差出人はサクヤだった。
『突然で申し訳ないのですが、今から依頼を頼んでも大丈夫ですか?』
少し返答に戸惑う。
『内容によるけど』
『突発性時間限定クエストです』
どうやらデートクエストに続き、また面白そうなクエストを見つけてきたようだ。レベリングは後でも出来るので、俺は依頼を受けることにした。
『オッケー。どこに集合にする?』
『中央口ゲートでお願いします』
『少し時間かかるかもしれないが、待っててくれ』
『もちろんです』
俺は両手に握る片手剣をしまい、アリ穴を出発した。
最寄りのサウスフォールから中央口にジャンプすると、すぐにこちらに手を振る少女が見えた。
「お待たせ、サクヤ。それで早速だけど、どんなクエストなの?」
「このクエストです」
サクヤがウインドウを可視化させて、簡易クエスト一覧を開ける。討伐クエストや収集クエストを通り過ぎて一番下までスクロールすると、それはあった。
「ダンジョン踏破クエスト?」
「はい、どうやら時間内にダンジョンの指定されたゴールに行き着いたら、クリアらしいんですが」
「ちなみに、ダンジョンは既存のものなのかわかる?」
「それはどこにも書いていないので、もしかしたらこのクエスト専用のインスタント・マップかもしれませんね」
「クエスト終了まであと30分か。アイテムを用意して挑もう」
俺とサクヤは中央口ゲートの通りにあるポーション屋さんに足を運んだ。
「すいません、ここに俊足ポーションっておいてありますか」
「1つ2000ゴルドで売ってるぜ」
「じゃあ、俊足ポーション10個ください」
「合計20000ゴルドになるぜ、毎度あり!」
溌剌とした店主からポーションを受け取り、腰の小袋に入れる。
「すいません、私も半分出すので」
「サクヤは出さなくていいよ、俺が勝手にやったことだから」
割り勘しようとするサクヤをとどめると、俺はサクヤにパーティー申請を送った。
「申請受諾しました」
「よし、サクヤは準備はいいか?」
「えっと、修道女の装備より、走りやすい装備の方がいいでしょうか?」
「時間制限が厳しいかもしれないし、その方がいいかもな」
「では、着替えてくるので少し待っててください」
サクヤが路地に入っていき、しばらく待つと戻ってきた。
普段の修道女の服装とは違い上は白のコート、下は薄ピンク色の膝丈スカートという出で立ちで、リアルで見た桜夜の私服に似ていると思った。
「変ですか……?」
「ううん、全然そんな事ないよ!ただ、少し防御力が気になってな」
「さっきの修道女の服とそんなに変わらないので、大丈夫だとは思うんですが」
それなら問題はないだろう。俺とサクヤはクエスト開始確認の表示の「はい」のボタンを押し、ダンジョンへジャンプした。




