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お誘い2



「少し家に上がって行きませんか」というのは、あくまで体調が悪くて一人は心細いから、少しの間だけ居て欲しい、という意味だというのも、既に言い訳にしか過ぎない気がする。


 俺は何気なく放った自分の言葉の意味を再び理解して、そして硬直していた。


 何言ってんだ、俺。これじゃあ、まるで家でデート続行しませんかと誘っているのと同じじゃないか。


 目の前では、先輩がすごく嬉しそうな、それでいて遠慮のような表情を顔に浮かべている。


「でも、いきなり家に上がって迷惑じゃないかな……?」

「いえ、むしろ居てもらったほうが助かります」


 その言葉を聞いて先輩が少し恥ずかしがりながら、玄関をくぐった。


「じゃあ、その、お邪魔します……」


 ……というわけで初デートからいきなり二人きりでお家デートという、超急展開を迎える事になりました。


 どうしていいか全然わからないので、とりあえず自分の部屋に先輩を連れていく。


 ドアを開けた瞬間漂う、ゲームの機械っぽい匂い。女の子を呼ぶような部屋じゃないことは明らかだ。


 普通の女の子なら嫌な顔をするかと思ったが、先輩のリアクションは違った。


「すごい! こんなにゲームがたくさん……」


 先輩は壁に沿って置かれている、ゲームを収納したカラーボックスや棚に心を奪われているようだった。どうやら先輩も俺と同じ人種のようだ。


「何かゲームでもしますか?」

「えっ、いいの!?」

「はい、ほとんど動くと思いますよ」


 俺の言葉にますます目を輝かせると、先輩はハードを選び始めた。その間に、俺はキッチンへ行きお茶とアレルギー用の薬を持ってくる。


「先輩、お茶どうぞ」

「ありがとう、体の調子は大丈夫?」

「これから薬を飲むので、多分良くなると思います」

「よかった……」


 先輩はホッとため息をつくと、お茶に手を伸ばした。俺はあらかじめ入れておいた水で薬を飲む。


「それで、先輩はどのゲームをチョイスしたんですか?」

「私が選んだのは、これ!」


 そう言って先輩が取り出したのは、以前喜桜杯の準決勝でお世話になった、あのリモコンセンサー付きのテレビゲームだった。


「また、骨董品を選びましたね……」

「わたし、このハードはまだ遊んだことがなかったから」

「ソフトはどうしますか?」

「なら、喜桜杯で使ったソフトはあるかな?」

「それならありますよ」


 俺はカラーボックスからソフトを探し出すと、ハードの電源を入れて、ディスクを飲み込ませた。数秒して正面に設置されたモニターにタイトル画面が映った。


少々長いロードの後にキャラ選択画面に移る。


「おおぉ~全キャラ揃ってるね」

「そりゃ、もちろんです」

「この中で一番強いキャラはどれかな?」

「家庭用格ゲーなんですから、キャラの強さに差はそんなにないと思いますよ。まあ、ハズレキャラはいますけど」

「じゃあ、これに決めた!」


 そう言って先輩が選んだのは爆弾を操る傭兵キャラだった。正直、強キャラの一角と言っていい。


「それを選ぶとは、センスありますね」

「だって見るからに強そうだし」

「まあ、たしかにけわしい顔してますしね」


 俺は持ちキャラである金髪の男の子を選択し、ステージ選択に移る。


 先輩は初心者なので、平坦でギミックのない初期ステージを選ぶ。


 数秒の後、画面がステージと二人のキャラを映し出した。


「操作方法はどうしたらいいのかな?」

「説明書の方が詳しく書いてあるんで、それを見たほうが早いと思いますよ」

「ん、わかった」


 説明書を渡すと、先輩は黙々とボタンの確認を行った。時々、手榴弾やミサイルなんかがこちらに飛んできた。


「ねえ、このアピールって何?」

「えーっと、それは単にアピールなんで、戦闘にはほとんど関係ないです」

「えっ、でもこの人段ボール被って引きこもっちゃったよ?」

「あ、そのキャラは特別なアピールでして、段ボールから抜け出す時に他のプレイヤーがそれに当たると、僅かながらダメージが発生するんです」

「なるほど……よし、大体分かったからバトルしよう!」

「最初に言っておきますけど、手を抜く気はないですよ」

「もちろん、そうこなくちゃ!」

「それじゃあ……バトル開始!!」


 俺の掛け声とともに、二人のキャラがステージの両端から猛然とダッシュした。先輩が操る傭兵はダッシュ攻撃を、俺は回避行動をとる。


「んー、ファーストアタックは失敗か」

「そんな簡単に攻撃が当たるとでも思ってたんですか?」

「おっ、それは挑発かな?」

「さあ、どうでしょう?」


 先輩のキャラはこちらの行動を探るかのように、距離を詰めたり開けたりしている。俺は手榴弾を回避ステップで避けながら距離を縮めていく。


 俺の操る少年が小柄な体格とサイコキネシスを駆使して手数で攻めていった。相手は手榴弾や回避で攻撃を凌ぐが、さすがに始めてまだ5分程しか経ってない経験ではプレイングがまだ雑だ。


「くっ、初撃をもらってしまった……!」

「一度当てたら、逃しはしませんよ……!」


 俺は攻撃を食らって僅かに浮いた相手に空中で蹴りを続けて2発入れ、ステージの外へと押しやっていく。


 そして、ステージ唯一の横一直線の足場から外に出ると、俺のキャラは小さな体躯をめいいっぱい使ってバク宙蹴りを叩き込んだ。


 メテオ判定が入り、先輩のキャラが果てしない雲海に落ちていく。しかし、場外寸前のところで突如として落下が止まった。相手がサイファーに捕まってステージに復帰したのだ。


「そんな簡単にやられるとでも思ったのかな?」

「ちっ、しぶといですね」

「では、今度はこちらから仕掛けさせてもらうよ!」


 そう言うと同時に、先輩はスピードを変えて手榴弾を2個投げてきた。その後すぐに誘導可能なミサイルを発射する。


 俺は1つ目の手榴弾をキャッチすると、2つ目に向かって素早く投げた。そして爆発した手榴弾の煙の中を突き進むミサイルをジャンプで躱した。


 そして、ミサイルを操っていて身動きの取れない傭兵に、木の棒を素早く撃ち込んだ。


 まだそれほどダメージは入っていなかったが、ステージの端にいたこともあって、先輩が操るキャラは場外へとふっとばされてしまった。


「んー、負けちゃった!」

「さすがに始めたての人に負けるほど弱くはないですよ」

「なら、キャラを変えてもう一戦!」


 その後も、先輩と俺は一回戦う度にキャラを変えて勝負した。結果としては俺の全勝だったが、試合内容によっては互角に近いものもあった。


「やっぱり空人君はゲーム強いね」

「小学生からずっとやりこんでましたから」

「他のゲームも遊んでいい?」

「もちろん構いませんよ」


 それから俺達はレースゲームだったり、パーティー用ゲームなどをして楽しんだ。気がつけば部屋のアナログ時計は6時を指していた。


「もうこんな時間!そろそろ帰らないと」

「ここから家まで帰れますか?」

「私の家、ここから近いから多分帰れるよ」

「では、今日はこれでお別れで。本当に今日はすいませんでした」

「ううん、非があるのは私の方だから気にしないで」

「じゃあ、また会いましょう」

「うん、またね!」


 こうして俺の初デートは無事(?)に完遂することが出来たのだった。


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