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お誘い

やっと来ましたデート回です

 マンティコアを討伐した次の日、現在11時30分。俺は学校の近くの駅で待ち合わせをしていた。


 マンティコアを倒し、サクヤがログアウトした後、シロナに「明日駅で11時半に会えないかな?」と言われ、俺は何気ない口調で「分かった」と答えた。


 それがILの話ではなく、いわゆるデートのお誘いだと気づいたのは、今日の朝になってからのことだった。


 なにが「分かった」だよ、当然みたいに答えてんじゃねえぞ、昨日の俺。


 朝起きて事実に気付き、軽いパニックになった俺は、少ない私服の中から2時間かけて一番マシな組み合わせを選び抜き、財布に5000円を入れて、来るべき時を待つ。


 駅前には俺のような中高生が男子同士で騒いでいたり、異性と手を繋ぎながらどこかへ向かっていたりしていた。控えめにみて、俺の居るべき所ではない気がした。


 少し居心地の悪さを覚えた時、向こうから天然の金髪をなびかせながら、白いワンピースを着た紛う事なき美少女が歩いてきた。周りにいた人がその端麗な容姿に目を惹かれる。


「おはよう、藍海くん。もしかして待った?」

「いえ、俺も今来たところですよ」


 仮に待ったとしても、これは絶対的な常套句ということぐらいは俺でも知っている。人生大一番のミッションが今、幕を開けた。


「ところで、これからどうします? 話があったのが昨日の今日なんで全然プランがないんですけど……」

「それじゃあ、少し早いけどお昼にしようよ」

「普段行っているお店とかあったりするんですか?」

「んー、あまり外でランチは食べないから詳しくないかも」

「なら、歩きながら探しましょうか」


 駅前のロータリーにはファストフード店やコンビニはあるが、デートのランチに相応ふさわしい場所ではない。


 とりあえず、俺達は駅から伸びる通りに沿って歩くことにした。その時、


「その、これから空人くんって呼んでいいかな……?」


 俺より少し背の低い先輩が上目遣いに訊いてくる。その頬は少し朱に染まっていた。


「もちろんいいですよ」

「ありがとう、空人くん!」


 先輩が眩しい笑顔をこちらに向けて、ぎゅっと左手を握ってきた。先輩の体温が伝わってきて、俺の脈拍が一気に加速する。


「そ、それじゃあ行きましょうか」

「うん!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 今、私は空人くんと手を繋いで通りを歩いています。


 本当に、昨日の自分ほど褒めたいと思った自分は今までありません。


 デートに誘った時は断られたらどうしようと不安で仕方がなかったのですが、いざ言ってみると、予想外なぐらいにあっさりとOKの返事が来たのでホッとしました。


 それからは自分の部屋で服をあれやこれやと引っ張り出して、一人ファッションショーをしていたのは言うまでもありません。


 リアルでは会議室以来、顔を合わせてなかったので、久しぶりに空人くんに会えて早くも嬉しさMAXです。


「そういえば、なんで突然会おうなんて言い出したんですか?」

「えっと、最近現実で空人くんの顔見てなかったから、会いたいなと思って」


 私の言葉を受けて空人くんが少し照れながら頭をポリポリと掻きました。もちろん、言った私自身も恥ずかしくて俯いています。


「その、先輩は何が食べたいですか?」

「今は洋食の気分かな」

「じゃあ、あそこなんてどうですか」


 空人くんが信号を挟んで向かいにあるレストランを指差しました。通りに面している部分はガラス張りになっていて、店内のウッドテイストな内装が良い雰囲気を出していました。


「よし、あそこにしよう!」


 信号が変わるのを待ち、そのお店へと向かいます。改めて店内を見ると、まだお客さんはあまりいなくて、すぐに注文できそうです。


「お客様は2名様でよろしいでしょうか」

「はい」

「ではこちらにどうぞ」


 ウエイターさんに連れられてお店の奥の席に座ります。空人くんと手を繋いでいた右手が寂しくなりました。


「ご注文がお決まりになりましたら、テーブル奥にあります、ベルを鳴らしてください」


 そう言い残してウエイターさんが音を立てずに去っていきます。私たちはメニューに目を通しました。


「うーん色々あって迷っちゃうな」

「それじゃあ、俺はカレーライスで」

「もう決めたの?」

「それ以外、あんまり食べたいと思うものがなかったので」


 しかし、メニューにはカレーライスの他にもオムライスやシチューなど美味しそうなものはありました。


「んー、なら私はオムライスかな」


 二人とも注文が決まったのでウエイターさんを呼びます。


「ご注文はお決まりになりましたか」

「えっと、オムライス一つと、カレーライス一つでお願いします」

「かしこまりました」


 ウエイターさんがメニューを下げて厨房へと消えていきました。


「これで、あの時みたいにすぐに料理が出てきたら面白いよね」

「それ、作り置きバレバレじゃないですか」

「あ、そっか。てことは、あそこで食べたケーキも作り置き?」

「そこはシステムが頑張ってるんですよ、多分」


 そんな話をしてると、数分でオムライスとカレーライスが出てきました。


「かなり出来上がるの速かったですね」

「それじゃあ、食べよう!」


 私はいただきますを言った後、スプーンを口に運びました。


「ん~、美味しい!」

「カレーライスも美味しいです」


 口に入れた途端に卵がふわっととろけて、ケチャップライスとの相性もバッチリです。


 その時、ふと数日前の出来事が蘇りました。今なら再チャレンジが出来ます。


 よし、今回は食べさせてあげよう! 私はスプーンにオムライスを一口すくうと、空人くんがカレーライスを飲み込むのを待って、


「空人くん、口開けて」

「えっ」


 空人くんが薄く口を開いたところにスプーンを差し入れました。


 よしっ、今回は成功です!前回の雪辱を形は違えど果たせました!


 しかし、空人くんの様子が不自然です。固まったまま目を左右に泳がしたりしています。


「空人くん、どうしたの? その、もしかしてお口に合わなかった……?」

「えっと、いや、その、俺アレルギー持ちで……」


 どうしよう、とんでもないことをしてしまいました。


「ごめんなさい! 私が知らなかったばかりに……」

「先輩は気にしないでください」

「でも、死んじゃったりしないよね!?」

「そんな大げさなものじゃないですから!安心してください。ただ……」


 そこで空人くんが咳き込みました。


「大丈夫!?」

「まだ、大丈夫です…」

「まだ、ってどういうこと?」

「とにかく、症状が悪化する前に食べて会計を済ませましょう」


 そう言って空人くんは黙々と食べ始めました。私もそれに空人くんにならいます。


 並の量のオムライスを7,8分で食べ終わると、私たちは店を出ました。


「あ……蕁麻疹じんましんはないですけど、喉が変で、ゴホッゴホッ」

「本当にごめんなさい……」


 私最悪です。せっかく空人くんに会えたのに……


「すみません、今日は家に帰ります……」

「タクシーとか呼ぶ?」

「いえ、駅から家が近いんで、歩いて帰れます」

「なら、せめて家までは送らせて、ね?」


 二人揃ってさっき来た道を戻ります。その足取りは来た時よりも遅いです。


「その、これを機に、って言ったら変だけど、空人くんのこともっと知りたいの」

「と言われても、そんなに話すことないですよ」

「それでも、今日のような事はもう起こしたくないから……」

「ん……でも、アレルギーや持病とかは今日のだけです」


 それから10分ぐらい住宅街を歩くと空人くんの家に着きました。2階建ての一軒家です。


「それじゃあ、今日はここで……」

「うん、体調良くなったら連絡してね」

「わかりました」


 そう言うと、空人くんは玄関前の顔認証を解除して家に入ろうとして、


「あっ」


 立ち止まりました。


「どうしたの?」

「その、今両親が二人とも出ていて俺一人なんですよ、なんで、少し家に上がって行きませんか?」


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