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作戦

「それでは、こちらも作戦を考えようじゃないか」


 先生が悪戯いたずらっ子のようにニヤッと笑いました。


「でも、具体的にどうするんですか? まず、ILの中で想いを伝えるべきなんですか?」

「私もそれは考えたが、いきなり告白しても戸惑われるだけだと思ってな。まずはIL内でアイク君と仲良くなることが第一だ」

「はい」

「ということで、目には目を歯には歯を、ならば」

「デートクエストにはデートクエストを、ということですか」

「そういうことだ」

 一応、理には適っているのかもしれません。


「でも、デートクエストってすごいレアなクエストなんですよ、本当に。クエスト発生地点も普段は通らないような路地だったり、建物の2階だったり」

「でも、誰かが見つけたら、ネットの掲示板とかにクエストの情報とかが上がってくるものじゃないのか?」

「それが、このデートクエストって、全プレイヤーの誰かがクリアしてしまうと、クエストが消滅するんですよ。しばらくしたら、別の場所にランダムに発生するんですが。だから、見つけた者勝ちの競争になってて」

「つまり、アイク君に依頼を持ってきたその子はすごく運が良かった、と」

「そういうことになりますね」

「うーん……」


 先生は少し困った様子で首を捻ると、きっぱりと言った。


「よし、この作戦なし!」


 早くも一つ目の作戦が潰れました。


「というか、日常的にIL内でアイク君と会う口実はあるわけだろ。なら、そのチャンスをもっとモノにできるようにしよう」

「モノにはしたいとは思ってますが、実際のところ全て自分が空回りしてて……」

「君は本当に不器用だな……」


 先生と私、二人揃ってため息をつきました。自分が情けないです。


「やはり有効な手段としては、女の子らしさを出すことだろう。例えば、傷ついたアイク君を回復呪文で治してあげたり、ピンチのところを守ってもらったりとか。シロナの職業は何なんだ?」

「騎士です」

「なんで、ゴツい系代表選手なんだ! それじゃあ、守ってあげたくなる系女子じゃなくて、守ってもらう系女子になってしまう!」

「仕方ないじゃないですか。どんどんアイクくんを守りますよ!」


 実際、アイク君を守れているか、というと、それも怪しかったりします。


「はあ、これでは、バトル面での発展の見込みはかなり絶望的だな……。仕方ない、他の面でアプローチをかけよう」

「街エリアで頑張るしかないですね」

「しかし、君が前回やらかしたのも街だがな」

「いきなり手詰まりみたいにしないでください!」

「といっても、普通にしていたら何も問題はないと思うのだが」

「そのはずなんですけどね……」

「……」


 なんだろう、この沈黙。私これからどうしたらいいんだろう。


「仕方ない、君に質の高い時間を要求する私が間違っていた。とりあえず、シロナは今までどおりにアイク君と接していればいい」

「えっ、でも、それだと発展は望めませんよ」

「そうじゃない。なにも、何か出来事がないと発展できないというわけではない。長い時間を共に過ごすということもアイク君に好きになってもらう方法の一つだ」


 なかなかに説得力のある言葉でした。


「今日は金曜日だから、明日明後日は学校は休みだ。長い時間一緒にいるには丁度いい。しっかり連絡を取り合って、この土日をモノにするぞ!」

「はい!」


 こうして、私達の作戦はとりあえず長く一緒にいることになりました。


  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 現在、土曜日の午後1時。昨日の夜にシロナから一緒にクエストに行こうとメッセージが届いて、この時間にいつもの中央口ゲートで会うことになった。


 いつものように、通りの端に出て見つけてもらうまで待機。1、2分立つと、右肩とトントンを叩かれた。


「今日は絶対に人差し指から逃れてみせるからな」

「なんのことですか?」


 予想していたものと違う声が聞こえてきたので不思議に思って振り返ると、シロナではなく先日の依頼人であるサクヤがいた。


「サクヤ! 偶然だね」

「はい、たまたま通りかかったらいたので、声をかけちゃいました」


 そう言ってサクヤは少しはにかんだ。あの依頼で俺とサクヤの間にあった敬語の壁は取り払われていた。といっても、サクヤ自身は相変わらずですます口調だけど。


「もしかして、誰かと待ち合わせをしている最中でしたか?」

「うん。そうだ、せっかくだしサクヤのことを紹介してもいいかな?」

「でも、待ち合わせをしていたわけですし、相手の方の迷惑になっちゃいませんか?」

「大丈夫! いい人だし、きっと仲良くなれると思うよ」

「わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて」


 そういうわけで、俺たちはシロナを待った。




 空気が重い。


 シロナと合流した俺達は、簡単に自己紹介するために、先日シロナと行ったケーキショップに来ていた。


それにしても、なぜかシロナの表情が明るくない。さっきからなにか聞いても、うん、とだけ力なく返事するばかりだ。


「あの、やっぱり私お邪魔だったんじゃ……」

「その、そんなことはないよ! なあ、シロナ?」

「うん……」


 さっきからこんな調子だった。今だけは個室の防音設備が要らないと思った。


ポップでフワフワした感じの内装が、皮肉にも一層俺達三人の空気の重さを際立たせていた。


「そうだ、もう紹介も済んだことだし、一つクエストを受けないか?」

「クエストですか?」


 突然の提案にサクヤが難色を示した。


「その、私皆さんとレベル差結構ありますし、行っても足引っ張るだけかと……」

「えっと、レベルいくつだっけ?」

「108です」


 確かに、これでは俺やシロナにとっては難なく倒せる相手でも、サクヤにとっては強敵になってしまう。


「うーん、何か良いクエストは……シロナは何かないか?」

「えっ、私?んー……」


 シロナも考える。しかし、いい案は出ていないようだった。


「そういや、まだサクヤの職業とか聞いてなかったな。その辺話してくれないか」

「ヒーラーギルドに入っています。回復が専門で薬学や調合とかはあまりクラスを取っていません」

「状態異常回復とかは?」

「そのあたりは取ってます。ある程度のレベルなら治せると思います」

「よし、クエスト決めた!」

「ちょっと、アイク君、どこに行くつもりなの?」

「それは、お楽しみということで!」


 俺はショートケーキを食べ終えると、店を後にした。


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