哲学者の石の黄金寓話 (錬金術寓意文書) 1625年の古書を翻訳。 Gold allegory of philosopher's stone (alchemy allegory document)
1625年に刊行された匿名の錬金術寓話文書の 翻訳(かなり自由な翻案)になります。
錬金術文書ですから、その内容は錬金術の階梯とイニシエーションを寓話物語として述べられているのであり、単なるおとぎ話ではありません。
錬金術のマスターになるためにクリアしなければならない様々な階梯を寓意で表しているのです。
錬金術全盛時代、こうした錬金術の奥義についての寓意文書が多作されました。
と、、いうのも当時もし錬金術そのものを直截に薬物の調合法などを記述したら
直ちに魔術師として宗教裁判所に拘束されて死刑になったから
こうしたほのめかしてきな表現でしか記述できないのです。
この物語の奥にどんな錬金術の象徴と寓意を読み取るか、
それが初心者たるあなたには試されているのです。
さあ、あなたはこれらの寓意物語の奥の真理を読み解き錬金術の「秘密の山」の階梯をクリアして
錬金術のマスターの山の頂上にたどり着き、そこにある「賢者の石」の秘密を手に入れられるのか。
これらの寓意物語に、あなたは単なるおとぎ話しか読めないのか、
それとも隠された錬金術の秘密の寓意を読み解けるのか。
それはあなたの心の階梯がどの程度高められているか次第なのでしょうね。
できるか
できないか
それはまさにあなた次第です。
もちろん、、、今現在では、、不老不死の霊薬 (エリクシール)を作るだの、水銀を黄金に変えるなどという錬金術は単なる妄想?の産物でしかないということですが、むしろ今ではそういう視点ではなくて、「意識の変容」 (メタモルフォーゼス・オブ・コンシアスネス)という深層心理学的な観点からのアプローチが
重要視されるようになっているのです。つまりもっとかみ砕いていうなら
サトリへの意識変容、、ということでしょうね。
つまり、、、、
一人の人間がこの人生でどう変容してゆけるのか?
あるいは人間精神の深層での変容はどうなされるのか?
瞑想の道程
内面世界への旅
深層意識への旅 インナートリップ。
精神の闇から明澄なハイビジョンへの道程
そういう面での錬金術寓意文書の再読み込みが可能であるという再発見
それは、、例えばあの禅のサトリへの階梯を描いた「十牛図」などとも通底するような意識変容?という
事なのでしょう。
そうした観点からのアプローチとしてはユングの「心理学と錬金術」のご一読をお勧めします。
哲学者の石と黄金寓話 (錬金術寓意文書) 1625年刊行 作者不明
第1章 探索の旅立ち
ある時だった、私はさわやかな新緑の森をさまよっていた、私は人生に疲れ果てていた。
というのも、私の両親はつらい出来事でなくなってしまっていたからだ、
なぜこんな目に合わなければならないのか?私にはまったく理解できず混乱と惑溺の日々を送っていたのだった。私は涙にくれながらとぼとぼと森を歩き、、気が付くと、そこは人も通らぬようなけもの道に迷い込んでいたのだった、
私は戻ろうとしたが折から山風が強く吹き渡り、まるで私を押しこくるように前へと進むしかなかったのだった。、
こうして私はまるで操られるように道なき道を、荒れ果てた山道を前へ前へと辿るしかなかったのだった。
しばらく行くと森は終わりそこには一面に草原が広がっていた。そこには見たこともないような赤や黄色の果物の実る果樹が円形にその草原を取り囲んでいた。
進んでゆくと髭の長い老人が何人もそこにいて、私が「ここはどこですか?」と尋ねると、
一人の老人が
「ここは、プラートム・ファリキターテスじゃよ」
と答えてくれたその意味は「幸福な人々の草原」ということだそうでです。
数人の老人の中には私が以前どこで見たことがあるような人が一人いたがさてどうしてもそれ以上は思い出せないのだった。
老人たちはよそ者の私が来たことなど全く気にもかけずに盛んに議論を交わしていた、
しばらく聞いているとその議題は、自然の深淵な秘密についてだった。
その秘密とは、、
さらに聞き耳を立てていると、
どうやら世界の高貴な秘密とは、自然の中にひっそりと潜み、神が宇宙から隠しておいて
神と通底できるほんの一握りの「通底者」にしか掲示されないものだ、、というのだった。
第2章 意見と価値の争論
こうして長い間彼らの論議に耳を傾けていると、彼らの論争は本当に質が高くて深い真理に通じていると理解できたのだった
彼らは「第一物質」や、錬成術のことだけでなくさらに、古人の寓話や、先人の哲学書にまで及んで尽きることがなかった。
彼らはアリストレスやプリニウスまで引き合いに出して論争しあっていた。
私はただ聞くだけでは我慢できなくなりとうとう論争に加わったのだった。
老人たちは私の意見に反駁して攻め立てたが私も負けじと反論して、さらに彼らは私に試験を課して試問すら始めたのだった。
しかし私の哲学的基礎は固まっていたのですらすらとその設問に答えられた。
とうとう私は彼らの出す設問をすべてクリアして、かれらは驚嘆しつつ
私を彼らの「学院」の新入生として合格したと決めるのだった。
第3章 獅子の穴底で
私は彼らの集いが楽しくてそこにとどまろうとするのだったが、、
老人たちは
「いいや、あなたはさらにこの先の獅子の穴に向かわなければならない」と諭すのだった。
「そこに行って、獅子のことをただしく理解し、また、獅子を手なずけて、その獅子が中と外でどう反転するのか、どんな霊能力があるのか行って確かめるのです」
私は決心して老人たちの案内で獅子の穴に向かった。
老人たちは獅子の扱いや性質をそれとなくほのめかしてはくれるのだががはっきりとは言ってくれない。、そしてもしあなたが獅子に打ち勝ったそのときはすべて秘密をお話ししましょうというばかりだった。
さてそうして獅子の穴に来てみると、そこには巨大で高齢の、私にはとても打ち勝てそうもないような
獅子がいたのだった。、今まで何人も獅子を手なずけようとしたがみんな失敗してしまったということだった。
しかし私を見つめる老人たちの期待を裏切りたくない一心で私は大きな穴の底へと入っていた、
獅子はぎらぎらする目で私をにらみつけ、今にもとびかかろうとしていた、
私は一瞬、猫なで声で獅子に取り入ろうかと思ったがふと以前、
自然魔術のグルから教わった精妙な攻撃術を思い出した。
とっさにそれを駆使して、私は巧妙に攻撃して獅子の体を割き、心臓をつかみみ出すことに成功したのだった。その心臓を絞るとその血液は極めて赤い,胆汁質の血であった、
私はさらに獅子の体を切りわけて、骨まで捌いて、獅子を解体したのだった。
私は赤い血と白い骨に分け終わって
そうして私が獅子の穴から出てくると、
老人たちが何やら論争しているではないか、
よくよく耳を傾けると
老人たちはこういっていたのだった。
「彼は今殺した獅子を再び生きかえらせなくてはならない。それができないなら我らの仲間にするわけにはいかない」
そういっていたのだ。
第4章 高い壁の上を渡る
私はそれを聞くと、それ以上私にどうにもできないので。その場から一目散に走って逃げ出したのだった。どこをどう通ったのだろうか?気が付くと、私は道の先に細い橋のようなものがあるのを見た。
行ってみるとそこは、30センチくらいの道幅でしかもその道の両端は断崖絶壁で、おそらく、高さ100メートルくらいはあるのだった。この細道はずっと向こうまで続いていて先は視界から消えるほどだった。戻るべきか?それとも先に進むべきか?
しかし私に戻るという選択はなかった。
この細い道には幸い手すりもあるが、見ると私の後ろから手すりにつかまってわたってくる人がいるではないか。一人だけではない次から次からわたってくる。私も手すりにつかまってわたり始めた。
この細道の先に何があるのか?
そのとき私の先を渡る人が足を踏み外して真っ逆さまに転落したのだ、
私は慎重に高い壁の上の細道を進んでいったがその間、何人もわたる人が落下するのを目撃した。
しばらく行くとそこに下り道の案内板があった、私はこれ以上高い壁の上を行くことは無理と判断して、下り道の手すりにしたがってケガもなくやっと高い壁の上から下に降りられたのだった、
見上げると相変わらず高い壁の上の細道には何人もの渡ろうとする人がいてどこかに行こうとしているのが見えたのだった。あの先には何があるのだろうか、しかし私は落下の危険を冒してまであの細道を辿る意味はないと判断して下り道を辿って下に降りたのだった。
第5章 バラの秘密
私は下に降りてさらに先を急いだ。しばらく行くとそこに美しいバラの木があった、
バラの木は赤と白のバラを咲かしていたが、赤薔薇のほうが圧倒的に多かった。
私はバラの花を摘み取り、私の帽子に刺したのだった。さらに行くと高い壁に囲まれた大きな庭園に突き当たった。
園の中には若者たちがいて、外には乙女たちがいて中に入りたがっていた、しかし園の門にはかぎが掛かって入れない、
私はこの園の庭師を探そうと道をたどった、
しばらく行くと家々が見えてきた、そこでは人々は小さな家に閉じこもり、のんびりと仕事をしていて、しかもやってる仕事は彼らの思い込みで、実は何の重要性もない仕事だった、
「ああ、そういえば私もかつてはあんな仕事をしていたのだ」と思い出した。
これ以上ここにてもしょうがないので私はあの庭園に戻ることにした、
園の門の前には人々がいて、
「俺たちは何年もここでいるが一度だって中に入ったこともない。こいつに入れるもんか」
しかし私はそんなかれらの言葉など気にもしなかった。
扉の前に行ってみると、固く閉ざされていたがよく見ると普通の目ではわからないような小さな鍵穴が見えた、私は自分のポケットを探るとなんと小さなカギが手に触れた、試しにそのカギを差し込んでみると扉は開いたではないか。
急いで中に入るとそこは長い通路で、さらに行くと、バラ垣で囲まれた20メートルくらいの正方形のバラ園があった、
そこに近づくと純白の繻子のドレスを着た乙女が緋色のマントを羽織った若者と連れだって歩いていた、
私は近づいてあなたたちはどうやって壁を越えて、中に入れたのですかと聞いてみた、すると、。
「この私の花婿様が私を手助けして超えさせてくれたのです」
「私たちはこれからこれから婚姻をあげるためここを去ります」
そういうと二人は立ち去って行ったのでした。
私はそれを見てこういった。
「喜ばしい限りです。ぜひとも私があなた方にお仕えできるようにおとりはかりくださいませ」
第6章 神秘的な水車小屋
さてそのあと私はさらに道をたどりやがて一軒の石づくりの水車小屋についた。
覗いてみるとそこには粉もなく粉箱もなくただ水車が回っているだけだった。
そこにいた水車小屋番の老人に聞いてみると、「いつもこうですよ」ということ。
さらに上流にさかのぼって行ってみるとそこにも水車小屋があった。
覗いてみてびっくり、川の水は真っ黒で、ところがそのしずくは真っ白。
細い橋がそこにあり、さてその橋というと、幅はわずか6センチ、でも勇気を出してわたってみた。
そこから道を回ってさっきの水車小屋に戻った。
あの老人に聞いてみた。「水車は何台あるんですか?」
「ざっと10台さ」
この水車小屋での体験は忘れられないものだった。できればその意味を知りたかったが
主人は何も答えてくれなかったので私はそこを後にして先に進んだ。
第7章 神秘な結婚
水車小屋の先に行くと、遊歩道のある高い丘があって、最初に出会ったあの老人たちがそこにいた。
彼らは日差しの中を散歩しながら今受けとったという手紙について議論しあっていた。
私は内心その手紙が私の件だということが察しられたので、近づき
「みなさんその手紙は私のことでしょう?」というと
「そうだ」という返事。
「あなたが、いつだったか選んでおいた、あなたの婚約者のことですよ。そろそろ結婚しなくてはならないでしょう。そのことを王様に報告しなければならないんですよ」
私は何となく心当たりがあったので「どうぞ」と答えた。
「確か、、私は彼女とおんなじ星の生まれで、幼馴染ですから結婚したら一生添い遂げるはずです。
死すら二人を分けることなどできませんよ。」
「よろしい。それでは早速婚姻の準備をしましょう、これであの獅子も命を吹き返し以前よりももっと雄々しくなるでしょうよ」
そのとき私は実はこの婚姻とは私自身のことではなくて、、そうではなくて、、ある私が知ってる人の結婚なんだということに、はっと気が付いたのです。
すると、、私の目の前には、その通りに早くも花婿と花嫁が連れだって結婚式場に向かうのが見えたのです。私はほっとしました。じつは、私の結婚なのではないかと内心不安だったからです。
きらびやかな衣装の花婿花嫁は古老たちの前に来て早速婚姻の式を挙げたのでした。
ところが驚いたことには実はその花嫁とは、、花婿の母親だったのです。
でも少女のように若かったのです。
なぜ母親と結婚するのか、そんな近親相姦の大罪を犯したのか、
いずれにしても二人は新婚の祝福の代わりに、
無期限の牢獄へと連行されて行ったのでした。
第8章 変容のレトルト
さてその牢獄は透明な部屋だった、丸い水晶ののような牢獄で、
彼らは悔い改め自分の悪事を後悔せねばならなかったのである。
彼らはこの巨大な水晶フラスコの牢獄の中では全裸であり、ただ必要な食事と飲み水だけが与えらえた。
私はこの牢獄の監視を命ぜられて、冬がまじかだったのでその水晶牢獄を温めるように言われた、
私は命令通りにゆっくりとその牢獄を温め始めたのでした。
第9章 神秘的な死滅
すると、、どうだろう。二人は温め始めるとしっかり抱き合って、やがて花婿の心臓が解け始め
抱きかかえる花嫁の腕の中にとけて消えたのだ。
花嫁はそれを見ると涙を流して嘆き、そうして花嫁自身も、ゆっくりと溶けて融合しあったのだ。
私は二人(融合して一体)が解けて死んだのを見ると心は悲しみと後悔でいっぱいになるのだった。
第10章 よみがえり
私はこの水晶の牢獄の前で3日間泣きとおした、そしてどうしたらよいのかと考えあぐねた。
そうして思いついたのは、この男女の死体が再びよみがえるためには
さらに温め続けるしかないのだということに。
私はさらに2週間にわたって温め続けた。
水晶フラスコの中は水は蒸散し、石炭化した黒い死体が現れ始めた。
その間、部屋には実に見事な虹が現れていた。
するとフラスコの中にあの二人(融合して一体)が眠るように生前のままな姿で横たわっているのが見えた。
私は喜びと悲しみの入り混じった感情に襲われた。というのは二人はまだ死んだままで息をしていなかったからだ。
私はさらに温度管理に努めて、自分の義務を遂行した。
注意深く観察していると昼の蒸気が夜になると凝結して滴りそれが二人の下に降り注ぐと
二人は次第に血の気が増してくることだった、
こうしてある日、二人はやがて眼を開きよみがえったのだ、
よく見ると二人(一体化した女王)は豪華な衣装をまとい一面にダイヤモンドがきらめく王冠をかぶり、
おき上がった、そうしてよみがえった女王は言った。
「あなたたち、肉の子よ。至高なるものは地上の王たちを自由に退位させるだろうし
御意のままに富める者と貧しいものをおつくりになるのだ、
至高なるものは自由に殺し。またよみがえらせるのだ。
わたしを見るがよい、私は大きかったが小さくもなった。
はずかしめられてまた王位に復帰した。
私は殺されてまた生き返った。
ただし私は全能の来たるべき至高の王には及ばないだろう。
その王をこれからよみがえさせねばならない。
その王が私の言ったことの真実を証明してくれるだろう。
第11章(終章) 哲学者の石
彼女がそういうと、太陽は燦然と輝き、季節はもう夏だった。
気が付くと、いつしか、新王の戴冠式の準備は整っていたのだった。
新王のためのさまざまなきらびやかな衣装もそろっていた
そして新王のための衣装は。
ダイヤモンドやルビー、ザクロ石でおおわれていた。
ところがこれらの衣装を仕立てた仕立て屋の姿はどにもにも見えないのだ。
これらの衣装は出来上がるとすぐ目の前から消えてしまい
最後の見事な衣装ができると。、高貴と荘厳に包まれた至高の王が現れた。
王はこの私が閉じ込められているのを見ると、
直ちに出してくれた、私はつつましやかに御前に進み出て、まみえたのだった。
王は私に、飲み水を所望したので私はすぐに水車小屋のある川に行って水を汲みささげた。
水を飲み終えると王は私に「数日休むから」といって部屋に引きこもった。
数日後、王は再び現れてさらに水を所望した。私は水を汲んで差し上げた。王はそれを飲み干すと、
王の姿はますます光り輝くのだった。
それから王は私を連れて、彼の至高の王国に案内し、そこで世界中のあらゆる富と、財宝を見せてくれた。
至高の王国はほんとだったのだ、
そこでは自然のあらゆる力で老人を若返らさせて、病人は健康にして
あらゆる病気も治すことができるのだった。
しかしそれよりも何よりも最高の喜びは、
この至高の王国の人々が
至高の王から
最高の英知を授かったことだったのでした。
はかない地上の栄光の後にも
至高の永遠の栄光にあずかれるように
なったことなのでした。
神よ
父よ
子よ
聖霊よ
どうぞ
私たちにも
永遠の知恵を授けたまえ
アーメン
おわり
あとがきとして
こうした錬金術寓話は広く流布しておりヨーロッパの精神世界に多大な影響をひそかに底流として与え続けたのである。
そうした錬金術寓話を基底として再構築されて生まれたのが、
例えば
ゲーテの「ファウスト」であり
あるいは
ティークの錬金術寓話に基づくところの
あの創作メルヘン群
「ルーネンベルグ」「エルフェン」「革職人組合」
であり
そうして
あのホフマンの
「黄金の壺」「四大の聖霊」「王様の花嫁」「ファルンの鉱山」
であり
ノヴァーリスの比類なき
「青い花」であり
「ザイスの学徒」であるのだ。
おまけ
この手の錬金術寓意文書はほかにもたくさん存在するのです。
なかでも有名なものとしては
「ポリフィリの夢。または哲学者の薔薇園」という
錬金術寓意文書があります。
これは澁澤龍彦の「胡桃の中の世界」というエッセ0週に収録されていますので
読むことができます。
「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」
↑上記のタイトルでウイキペディアの解説文があります。