Weekly*8
*sunday
桜を
見てきた
わざわざ人混みを選ばなくても良かったのだけど
夏に胸を震わせた
不忍の蓮池が
少し
気になっていたから
桜の向こうは
抜けるような青空だったよ
桜に、なのか
青空に、なのか
少し涙がにじんだ
昔、
祖母の家の畑の真ん中に
桃の木があって
その下にポンプ式の井戸があった
実がなると
その井戸のみずで軽くすすぎ、たわわな実にかぶりついた
何年かして
桃の木は切り倒された
木が病気になった、と祖父が話していた
小さな切り株に腰をおろし
あの
甘い汁を懐かしんだ
人の命のほうが儚いと
あなたは言うけれど
生きとし生けるものは
どれも儚いのよ
*monday
人を信じるって難しい
そもそもその人のことを
どれほど知っているのだろう
どんなに会話をしても
言葉は言葉でしかない
わたしとて
どれだけ真実を
正確に伝えることをしてきただろう
いったん
心に芽生えてしまった感情は
根を張り
たくましく蔦を伸ばす
心から染みだす涙さえ
吸いとって栄養にしていくのだ
自分以外の何かに
心を癒されることがあったとしても
それは対症療法にしかならず、根治するのは自分自身のしごと
今までだって
そうやって生きてきた
幸せになることが目標じゃない
生きたいように生きる
それがいい
それでいい
*tuesday
かなしい気持ちで
一日を過ごした
雨の降り始めに気づかず
わずかに開けた窓から
吹込む雨に濡れたカーテンを
重い気持ちで外した
思いつめたりせず
聞き分けよく
笑っていれば良かったのに
小さなこだわりが
自分を追いこみ
鳴らない電話の前で
冷めた紅茶をすすっていた
恋はこんなにも挑戦的に
小さな胸を苛む
濡れたカーテンごと
水流に呑まれる
わたしのささやかな反抗
*wednesday
桜が見たいなんて
もう言わないよ
仕事帰りに通る
川沿いの桜が
いちばん心穏やかに
見上げることの出来る
場所だから
なにがしたい、とか
どこかへ行きたい、とか
それは口実に過ぎなくて
一緒にいられる時間が楽しい、なんて
しおらしいことを言う
オンナでもない
この
どうしようもなく
退屈な心を
手繰りよせて欲しいって
言えたら良かった
*thursday
ひんやりと
冷たいふとんの中で
折り曲げた膝をゆっくりと伸ばす
体から染みでる体温が
淡い膜となってまとわりつく
自分を守るものは
自分のなかから生まれる
安心できる場所は
ここだった
*friday
大切なものは
たくさん抱えてはいけない
なにか
なくしていないか
ケアを
忘れていないか
いつも
落ち着かなくなる
不安や淋しさに満ちた
心は重い
対等な力で
引き合っているか
確かめる方法は
いくつあるだろう
無邪気なきみに
すくわれる日がある
不器用な自分に
すくわれない日がある
*saturday
雨の気配に
目を覚ました
ベッドのなかで
伸びをして
からだを半分
起こした姿勢のまま
ほつれた袖口を
見つめていた
必要とされなかったことに
気づいてから
日常に溶け込んだ
ささやかな習慣は
終わらせてしまった
雨の気配に
目を覚ました
ひんやり冷たい
場所をさがして
シーツの上で
からだを反転する
濡れた窓にはりついた
桜の花びらが
まぶたの下に膨らむ
涙のように
たやすく落ちまいと
こらえている
そのけなげさが欲しかった
雨の気配に
目を覚ました
そうか
もう君はいないんだ




