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Diva
安酒場の
古びたオルガンで
歌姫気取りのアタシに
持ち歌なんてない
顔も知らない
誰かの恋を
時間がくるまで
歌うだけ
すすけて
染みだらけの
ドレスの薔薇が
鮮やかな真紅だったころ
オルガンの横で
煙草をふかして
歌が終わるのを
待っていたひと
毎夜アタシを
幌の影で抱いたけど
約束のひとつも残さずに
帰らないまま
顔も忘れた
わずかなチップを
胸にねじ込んで
スカートをめくれと
さわぐオヤジ
グラスのなかの氷が
溶けて丸くなっても
掌で回しながら
頬杖をつくグランパ
夜になると
店の灯りめざして
重い足どりで集まって来ては
安酒をあおりながら
誰かの夢を
誰かの嘘を
アタシが歌うのを
聞いて泣いてる
歌姫気取りのアタシに
持ち歌なんてない
顔も知らない
誰かの恋を
自分に重ねて
泣いている




