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THE DICE IS CAST  作者: 鍛冶屋マグロ
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港町タブシーポ

『大佐!こちらノーウェイ、港町に到着した。人影は確認できない。指示を頼む。ーーこちら大佐、港町への侵入を許可する。行け!すぐ行け!ノーウェイいきまーす!!』


 深夜。美味しい海の幸を堪能したノーウェイは、目玉に搭載されたスコープで港町を眺めつつ、一人芝居に興じていた。ちなみに彼の目玉だけでも、録画機能、暗視カメラ、赤外線カメラ等多種多様な機能が備わっている。


 この身体になった時、どのような機能があるのか色々と確かめてみたのだが、頭の中でBGMを流せるという装置には流石に唖然とした。製造者は一体何を考えているのかとも思った。


『おぉ、デカい船だな。どれどれ……?』


 ノーウェイは音を立てないようにゆっくりと泳ぎ、港に停泊中の帆船へと近づく。よく見てみれば、何とその帆には彼の見知った紋章が描かれているではないか。


『あれは……シャッシャッシャッ、あの餓鬼が乗ってた船のヤツと同じじゃねーか!』


 それは彼がこの世界に興味を持つ切っ掛けとなった出来事。ノーウェイの口に緑色の炎を叩き込んだ少女は、確かにこの紋章と同じものが描かれた船に乗っていた事を、彼はしっかりと記憶していた。



『おぉヤベェヤベェ、あんまり大声で騒いで気づかれるのも厄介だ。そろそろ陸に上がるとするかね。シャッシャッシャッ』


 そう呟いたノーウェイは、勢い良く海から陸へと飛び出すと、口にくわえていたボロボロの船のマストを素早く身体に巻きつけた。そのまま尾鰭を使って器用に上体を持ち上げる。


 すると彼は、多少目立ちはするが「身体の大きな人です」と言えばなんとか通りそうな外見になった。ノーウェイは海面で自身の姿を確認すると、満足そうに頷く。


『よしよし、素晴らしいな。シャッシャッシャ……ん?どこからか旨そうな匂いがするな』


 鮫の嗅覚は凄まじい。ましてや、彼は様々な鮫の遺伝子を合わせたハイブリッドであるのだ。ノーウェイは頭を数度傾けることで匂いの発生源を簡単に突き止めた。


 そこはノーウェイからすれば懐かしい、しかしこの石造りの港町の風景にはそぐわない木造の建物だ。


 ノーウェイにはその建物から何やら怒鳴り声が聞こえてくるのが分かった。そうしている間にも、食欲を誘う匂いはどんどんと強くなっていく。 


『まぁ、これが旨そうに思え始めたのはこの姿になってからだがな。シャッシャッシャッ!』


 ノーウェイがそう笑った瞬間、若い男が建物のドアを突き破って吹き飛んでいった。向いの塀に叩きつけられ呻く男の鼻からは血がダラダラと流れ出ている。その血こそがノーウェイが探していた匂いの正体だ。


 鮫に精神を引きずられている彼にとって、生き物の血は非常に甘美なものなのである。



「ッテメ、なにすんだコラァッ!!」

「五月蝿いッスよー。大体、自分に投げ飛ばされる程度のアンタが今海に出たら死にに行くようなもんッスよー?」

「……っ、クソッ!」


 若い男は建物から出てきた小柄な少女ーーどうやら彼女が男を投げ飛ばしたらしいーーに食ってかかるが、彼女の言葉が正論だと分かるのか力なくうなだれる。


「でもよー……」

「でももしかしも無いッス。冒険者に仕事を与えるのが自分らの仕事ッスけど、流石に死にに行かれちゃ目覚めが悪いッスからねー」

「……そうだな。悪かった……」

「気にすんなッスよー」


 男は少女の言葉に納得したのかトボトボと歩きながら建物を後にした。ふぅ、と一息ついた彼女の目に、今の会話をずっと眺めていたノーウェイの姿が入る。


「およ。冒険者組合に何かご用ッスかー?」

『いや……そう言う訳では無いんだがよ。何だ?今のはァ』

「アレ、知らないんスかー?……って、アンタここら辺じゃ見たこと無い顔ッスねー」


 じゃあ知らなくてもしかたないかもッスね、と少女は呟く。彼女は自身を冒険者組合受付嬢のソゥと名乗った。


 ソゥ曰く、ここ港町タブシーポでは昔から海へ出る船の護衛などが、ここに住む冒険者ーー依頼を受け、それを達成することで報酬を得る者達ーーの主な収入源だった。しかし、最近海に出た船が次々と消息を絶つ事件が発生した。必死の捜索活動も成果が出ることはなく、それどころか捜索に出た船が行方不明になってしまうことまであり、人々は途方に暮れているのだという。


「それで領主様が船の出航を制限したッスけど、さっきの人みたいに仕事が無くて、日々の生活に困って無理にでも海へ出ようとする冒険者方も多いんスよー」

『それは大変ですねー』


 ソゥの言葉に棒読みの返事をするノーウェイ。何故ならば、この事態、言うまでもなく彼が船を襲いまくったのが原因であるという事が明白であるからだ。 


「タブシーポは昔から領主様が人魚と交渉して、危険な海の生物を近寄らせないようにしてた筈なんスけど……」

『人魚と交渉?』

「そうッス。ちなみに自分はサハギンなんスよ、ホラ」


 そう言って、ソゥは自分の顔を指さす。すると成る程、彼女の目元辺りには銀色の鱗があるのが見て取れる。サハギンとは下半身が魚の人魚と違って、まるで魚人のような種族の事だ。男は魚に手足が生えた姿をしており、女は鱗や鰭などの特徴が見て取れる程度らしい。


 人魚もサハギンも、人間とはあまり交流のない種族なのだが、ここタブシーポだけは別なのだという。


「それなのに船は何者かに沈められてる……近々、領主様は人魚と事の真偽を確かめるために会談を行うらしいッスー」

『成る程……シャッシャッシャッ。よく分かったよ……あまり分かりたく無かったが。ところで?その領主様ってヤツはどこに住んでいるんだ?』


 そうノーウェイが問いかけると、ソゥは町の北側を指差した。そこには、他のものよりも少しばかり豪奢な建造物があった。


「あそこが領主様のお屋敷ッス。……と言うか、領主様に何か用でもあるッスか?」

『いや何……』


 ノーウェイが見ているのは、ソゥが指差す屋敷とは全く反対の方向。



 そこから漏れ出すのはーー殺気。



 ノーウェイは目玉を一瞬赤く光らせると、面白そうな声でこう呟いた。


『売れる恩は売っといて損は無いだろうよ、シャッシャッシャッ!』

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