奏でる音
改札をくぐろうとする彼の腕を私はギュッと掴んだ。
「ゆうくん……あの……」
なんと言っていいのかわからない、心がちくちくするのを必死に抑え、私は呟いた。
「大丈夫だって。そんな不安そうな顔するなよ」
彼は来月から、転勤で大阪に行くことが決まっていた。彼と付き合いはじめてもうすぐ1年。彼の仕事柄上、こうなる可能性も十分わかってはいたが、いざこのときがやってくるとやっぱり辛かった。彼は毎週週末に私に会いに来ると約束してくれた。「大阪と東京なんて飛行機使えば1時間もかからない。おまえの通学時間より短いくらいだ」無邪気に笑う彼の言葉に励まされた。
それでも、たった1週間だったとしても、別れは別れだった。彼に行くなと言いたいわけではない。ただ、ほんの少しだけ別れまでの時間を伸ばしたかっただけだった。でもそんな子供みたいなわがままはもう終わり。
「わかってるよ。またすぐ会えるもんね。そんくらい我慢できるよ。私もう大人だもん」
きっと強がっているのはバレバレだけどそう言うしかなかった。そうしないと涙が堪えきれないから。
「梨香、別に泣くの我慢しなくていいんだよ。こういうときくらい。……でもこれから1週間、毎日家で泣いちゃわないようにお守りやるよ」
そう言って掴まれた私のは手には、指輪がはめられていた。
「これで何も心配せずに俺を待っててくれるだろ? 」
ちょっと目をそらし私の反応を伺う彼の姿はとてもかわいかった。
「ゆうくん大好き」
質問の答えとはちょっとずれているけどこれだけで全てが伝わったと思う。改札をくぐる彼の背中に大きく手を振って笑顔で彼を見送った。彼の足音は次なる一歩のメロディーを軽やかに奏でていた。




