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ガタリ ~朝霧と共に散りゆく夢幻~  作者: ReKu
『夢始め』
4/67

四品目『夢の島への誘い』

おぅ、旦那ぁ、いらっしゃい。

今回で此処に来るのは四回目ですかねぇ。

旦那が来る周期が今んところ二週間間隔ですかねぇ、なんでそろそろ来るかと思って今回はテーブルをご用意しやしたぜ。

どうです、現の遊園地とかにあるタイプのテーブルでさぁ。

見たことあるでしょう?白のテーブル。

他にも避暑地とかに置かれてそうですよねぇ、あと夏に海水浴場とかでしょうか?

ところで旦那、また少しは此処に慣れやしたかい?

…うん…うん?

ちょっと旦那ぁ、いくらなんでもそれは欲張りすぎじゃないですかね?

後、お茶とお菓子と灰皿とタバコがあったら慣れるとか、我が儘すぎでさぁ。

第一ずっと話しているあっしはその間一切喉を潤していないんですぜ?

まったく…。

さて、気を取り直して今日も我が儘な旦那に夢の話を聞かせてやりましょうかねぇ。

今回話す夢はあまり出会う事のない不思議な味でしてねぇ…。


いやね、この夢を見た男はね、もう三十路間近なんですよ。

ところが、夢の中で中学校に行こうとしてるんですよ。

いつものように自転車に乗っていつもの道を登校するでさぁ。

旦那にもそんな過去があったでしょう?

きっと今より素直で我が儘でなくて、心の汚れていない時の旦那の事でさぁ、へっへっへ。

それで北にある中学校へ途中まで道中を進んだのはいいんですがね、赤信号に捕まっちまったんでさぁ。

どうも、信号が青から赤に変わったばかりらしくてね、おまけにそこの信号の待ち時間が長いのなんのって。

で、どうせ信号渡ってから東に進むから、青になるまで待たずに今のうちに東に移動しよう、そう思ったんでさぁ。

東に進んでいる最中に北側に渡る信号が青だったり、車が車道を走行していなければ無理して渡ろう、ってね。

ところがだ、東へ進めど進めど間が悪く北側に渡れない。

それに車の通行も結構ありましてね、それを待つくらいならまだ東に進んだほうがいいだろうと思ってドンドン進むんですが…。

東に進めば進むほど近代的な建物から昭和的な建物に住宅が変わっていくんでさぁ。

車の通行も減りましてね、向こう側に渡ったのはいいけれども通り抜けできそうな道がこれまたないんでさぁ。

たとえいったとしても袋小路だったりする感じですかね、見た瞬間にわかるみたいでしてね?

え、なんとなくわかるんですか、旦那?

へぇ、車を運転している時に似ている、といいますと?

住宅街は車で通り抜けて目的の場所に行くのは自分は地元でなけできない?

あと曲がろうとしても進入禁止の標識があったり、自分だけかもしれないがタイミングを逃すとドンドンどっかでUターンしないとドンドン目的地から離れていくんですかい?

自動車ってのは便利そうで案外そうでもないのかもしれないですねぇ?

まぁ、そんな感じで男はさらに東へ進んでいったんでさぁ。

するとまた住宅に変化が出てきましてね、さっきまでは二階建てが多かったのに一階建てや平屋が目立つようになってきましてね。どこか活気も減って寂しい雰囲気になってきたんでさぁ。

男は北側ばかり気にして走っていたんですけどもね、ふと前を見ると少し先に土手が見えてきましてね。

ゆっくりと坂道を上っていけば北側の一階建ての住宅の屋根が見えるようになってくる。

土手の上には線路が一本通ってましてね、男にはこの線路が『あぁ、ここは最寄り駅の▲▲××線の踏切だな』 と直ぐ解っちまう。

だけど知ってる踏切とは明らか違うんだなぁ 。

だってですね、旦那。電車の通行がよっぽど少ない田舎みたいに、遮断機は無いんですが踏切警報機はありましてね。

踏み切りの少し手前までいくと視界には住宅一戸すら見えない。

男が見上げれば空はまるで真夏のように晴れていて日差しも眩しくてねぇ、その日差しの下、踏み切りの手前に一人の男性が立っているんですよ。

手には竹刀を持った体格のガッシリとした男でしてね。

自転車に乗りながら男はそれが誰だかすぐにわかったんでさぁ。

高校時代の体育教師で同時に男の担任だった男でしてね?

そこに立っている理由も男にはわかっちまう。

あぁ、この体育教師は登校する生徒が変な場所にいったりしないか見張っているんだ、ってね。

へっへっへ…どう思います、旦那?

小学校の頃、下校時に生徒が道草食わないか見張っている教師が時々いた、それの登校版じゃないかって?

なるほどねぇ、旦那はこの体育教師が生徒が寄り道しないか見張っているとお考えなわけだ。

もちろん、男も同じ考えをしてましてねぇ。

ヤバイと思いながらも体育教師の前まで進んでいったんでさぁ。

体育教師は厳しい顔つきで男を見つめてね、こういったんです。

『どうしてこんなところまで来た。』

その問に対して男は正直に答えたんでさぁ。

ただ中学校に向かおうとしたけれども、曲がるタイミングを失い続けてここまで来てしまった、とね。

旦那、答えを聞いた体育教師はどんな反応をしたと思います?

肯きもせず、表情をピクリとも変えず、ただただこう男に言い放ったんでさぁ。

『そうか、じゃあ通っていいぞ』

へっへっへっへっへ、旦那ぁ、本当にこの体育教師はさぁ、へっへっへっへ、何のためにたっていたんでしょうかねぇ。

んんっ、夢の中の出来事に理由なんてないって何時もあっしが言ってただろうって?

いやいや、確かにその通りだ、旦那のおっしゃる通りでさぁ、へっへっへ。

それでね、旦那。

男は体育教師の許可が出たもんだから踏み切りを渡ろうとしたんですよ。

体育教師とすれ違うときに横目で顔色を伺いつつゆっくりとね。

体育教師は男の方を見向きもせずずっと真正面を見つめ続けているでさぁ。

もう男に用は無い、興味も無いといった感じでしてねぇ。

そして男は線路を越えて土手の向こうへ足を踏み入れちまった。

線路を越えればそこは何も無くてねぇ、地平線が見える広大な大地、生い茂る草、むき出しの地肌、ところどころに咲く花は心地よいそよ風にゆらゆら揺れていましてねぇ。

空は先ほどと変わらずよく晴れた青空、真っ白の雲が少し流れているといった感じですかねぇ。

え、それは不味いんじゃないかって?

へっへっへ、旦那ぁようやく気づきましたかい?

男は現の世界から少しずつ離れていって、見張りの体育教師がいるにもかかわらず踏み切りという境界線を越えてしまったわけですよねぇ。

そして目の前に広がる光景はまるで…へっへっへ。

おや、旦那どうしたんですかい?

へっへっへ、こないだまで見たこと無いような、クックク…顔してますぜ?

心配しないでくだせぇ旦那ぁ、まだ夢は続きますぜ?

男はね、その幻想的な美しい光景の中をまっすぐ自転車を漕いでいったんですよ。

もう完全に男はその光景に目を奪われてましてね、何度も立ち止まってしまいそうになったでさぁ。

でもね、旦那。この男フッと我に返ったんですよ。

あぁ、学校に行かなきゃ、ってね。

男は北へ、進行方向左手ですねぇ、そちらに曲がったんですよ。

そしたらね、景色が変わったんですよ、まるで一瞬でどこかに飛ばされたかのようにねぇ。

先ほどまでと打って変わって薄暗い細く狭い路地に男はいたんでさぁ。

いや、青空は見えていて晴れているんですよ?

たとえるなら高層ビルとビルの間、自分の家を隣の家のわずかな隙間みたいな感じでしょうかねぇ。

旦那も子供の頃にそういうところに入ったりとかしたんじゃないですかい?

それで路地の幅がですね、大人二人並んで歩ける程度でしてね?

左右の壁は赤い小さめのレンガが埋め込まれたものでして、無駄に高くてねぇ。

そうですねぇ、高さは7メートルくらいはありそうですかねぇ。

普通なら引き返しますよねぇ、旦那。

だって、さっきまでの光景と変わりすぎですもんねぇ。

でも、この男は違ったんでさぁ…。

その赤レンガの薄暗い路地を自転車を降りてしげしげと眺めながら進んでいったんですよ。

どうしてかって?

実はね、旦那。この男はこう思いながら歩いていたんですよ。

この光景をオレは知っている、とね。

男はね、はてどこで見たのだったか?と思い出しながら路地を進んでいくと少し開けた場所に出たんですよ。そこはどうも学校の用でしてね、校門の前に男は出てきちまったんだなぁ。

校門の後ろにはね野球の球が外に飛び出さないようにグリーンネットが設置されてましてね。

それを見上げれば30メートルはありますでしょうかねぇ…。

敷地内からは生徒達が遊んでいるんですかね、ワーワーと元気な声が聞こえてくるんですよ。

男は視点を上方から戻すと校門横の赤レンガの壁に埋め込まれた学校名が書かれたプレートを見つけたんでさぁ。

この学校の名前は『夢の島ネバーランド第一学校』って名前みたいでしてね。

はてこれまた珍妙な名前ですよねぇ、旦那。

ん、なんです旦那?

夢の島とネバーランドは同意義に近いんじゃないかって?

旦那、これは夢ですぜ、っといつもなら返してあげるんですがねぇ…この名前に対する疑問はあっしも同意ですねぇ。

男は今度は校門の脇に視線を移動させましてね。

さっきまでいなかったはずなのに、女性達が三人、いや四人でしたかねぇ。

生徒達の母親なんでしょうねぇ、楽しげに井戸端会議をしているんですよ。

その見た目がですね、どの母親を若いんですよ旦那。

髪の毛も茶髪や金髪に染めていましてね、夜中にコンビニエンスストアの前とかに(たむろ)してるような感じなんですよ。

その母親達に男は違和感を感じてまして『なんだろう、なにかおかしいぞ』とジッっと観察していんですよ。

そうしましたらね、カキーンと小気味好い音が聞こえてきましてね。

男が校門のほうを見ると勢いよく転がってきた野球の球がね、ネットを潜り抜けて敷地の外に出てきちまった。

そしてこともあろうか男の方へ真っ直ぐと転がってくるでさぁ。

男は身をかがめてヒョイと球を手にとって再び校門のほうを見ると生徒と思われる三人の子供が並んで男のほうを見ている。

学校指定なんでしょうねぇ、三人共同じ紺の半パンに体操服、頭には赤白帽子を被っているんですが…帽子のつばで影になっているせいなのか顔がわからない、顔がわからないのが原因なのか生気がないようにも感じ取れましてね。

子供達は一言も喋らず、男を いや男の持った野球の球をジッと見つめているだけでして。

さらに横から井戸端会議をしていた母親達が子供達の前に進み出てきた。

顔は恐ろしい形相に変わって、あ、いや化け物みたいになってたわけではないですぜ?

殺意の籠もったような顔といえばよかったですかね。

そんな母親達を前にしても男は臆することなく球を返す為に歩を進めたんですよ。

そしたらですね、旦那。母親達が男に向かって走ってきたんですよ。

思わず立ち止まった男は母親達に押されましてね、赤レンガの壁に押し付けられちまったんだなぁ。

別に何も悪いことはしていやしないはずなんですがねぇ、そりゃぁいきなりのことだったもんで男も驚いちまってね、されるがままでしてね。

ですけども落ち着いてきてその母親から逃げるように路地の奥のほうへ移動したんですよ。

といっても校門を通り過ぎて少しいけばドアがあるだけで行き止まり。しかもなぜかその一部だけが赤レンガではなくて緑のレンガでしてね、さらに妙にそこだけ明るい。

ただ明るいんじゃぁなくて緑色の光が差し込んでるですよ。

そうですねぇ、わかりやすくたとえるなら…仮設トイレですねぇ。

ほら、工事現場やイベント会場とかに、あれですよ、あれ。

緑色のプラスティックを日光が通って中が妙に緑に明るいんですよ。

ほぅ、旦那も昔使用したことがあるから良くわかるんですかい?

それならいいんですよ、わかりにくかったらこっちも説明に困りますからねぇ。

まぁ、男と母親達はそこでほぼにらめっこ状態になりましてね。

男も内心なんだかよくわからないけれどもヤバイ状況だということは理解してるんでさぁ。

その状態でしばらくすると校門から男女がでてきたんですよ。

見た目は二人とも30くらいでしょうかねぇ…、出てきた男の方は細目のスッキリした顔立ちでしてね。

二枚目とまでは言えないですがなかなかイイ男なんですよ。

女の方は男に寄り添うように後を付いてきましてね、こちらもなかなかの美人さんなんでさぁ。

でもね、二人そろって同じ特徴がありましてね。

身なりも裕福そうなのに顔が肌が青白くてですね、薄幸感が漂ってるんですよ。

どうやらこの学校の責任者…でてきた男は理事長か経営者みたいでして、女のほうは夫人みたいなんだなぁ。

二人は母親達と比べて冷静でしてね、状況を確認したり母親から事情を聞いたりしてから男に近づいてきた。

理事長と夫人の顔を間近で見た男はね…思い出しちまったんですよ。

そして気づいちまったんですよ…。

『俺はこの責任者の男を知っている。この場所も知っている。夢の中だけで…』ってねぇ。

最初は15年くらい前ですかね…。

男が当時中学生くらいの頃観た夢の中で、男は幼稚園児くらいだったんですよ。

親父さんに連れられてね、狭く薄暗いこのレンガ路地で何かをずっと待っていたでさぁ。

まぁ、用事があって待っていたのは親父さんですけどね。

待ってる間に男は便意を催してきましてね、トイレの場所を親父さんに聞いて向かったんですよ。

それがこの緑のレンガ路地のドアってわけだ。

男は和式の緑の光が差し込むトイレで用を足していると外から話し声が聞こえてくる。

尻を拭いて手を洗ってドアをあけてトイレから出ると親父さんが見知らぬ男と話ている。

それが理事長だったわけですよ。

その夢から五年後くらいでしょうかねぇ…また同じような夢を男は見ちまったんだなぁ…。

その時は男は高校生でしてね、夢の中では小学生だったんだなぁ。

今度は校舎の屋上にいる夢でしてね。

校舎も趣味の悪いことに赤レンガの壁でしてね、屋上にはヘリポートまであるんでさぁ。

屋上から下を見れば相当高いのか下は真っ暗でなにも見えやしない。

まるで監獄みたいだとその時男は思ったんでさぁ。

両方の夢もさすがにうろ覚えだったらしくてね、それ以上は男も思い出せなかったんですけどねぇ、

もうひとつ思い出したことがありやしてね…。

その夢を観た高校時代の後輩がですね…その赤レンガの奇妙な学校を知ってたんですよ。

実際にあるのか…それとも存在しないのか…はたまた後輩の戯言か…。

真相はわからないんですけどもねぇ、へっへっへ。

そんな事を思い出しながらだんまりを決め込む男に理事長はどうしたのかと声をかけてきたんでさぁ。

なぜだか男はそれだけで焦りを感じはじめましてね。

カラカラになった喉から声を絞りだして言ったんですよ。

『俺はアンタを知っている』

すると

「お会いしたことはないはずだが?」

と理事長が答える。

男は声を少し荒げちまいましてね。

『俺は夢の中でだがアンタにあった!もう十年近くも前だ!!』

理事長の顔が強張りましてね、目つきも鋭くなって男に問いただす。

「どういうことだ?」

男は声を荒げたままさらに答える。

『アンタ達には夢の中でしかあったことが無い、だけどアンタはまったく老けていない!老いを感じさせない!!十年以上もの年月が経っているに!!』

男がそういうと理事長が男の襟首を掴みましてね、恐ろしい形相で男を睨み付けてくる。

夫人は後ろ手で顔を隠して泣き始めちまいましてねぇ。

もの凄い焦りと言い表せないとてつもない不安感で男はどうにかなっちまいそうだった。

そんなこれから!って時に男は目覚めてしまいましてねぇ…。

いやぁ、あっしも真相が知りたいですよ、へっへっへ。

え?その場所にいた人達は何者だったんだろうって?

わかりませんねぇ…わかりませんがあっしは男が夢から覚めたのは正解だったと思いやすよ?

奴等はきっと外道じゃないかとあっしは思うんですよ。

どうしてかって?

そりゃぁ、旦那…天国のような場所から道を外れた場所にある不気味な場所にいるような存在ですよ?

修羅か餓鬼か畜生か、それとも地獄の鬼共か…まったくわかりやせんがねぇ。


おや、旦那。

体が透け始めてきやしたぜ、現はそろそろ朝みたいですねぇ。

さぁ、今日も一日お仕事がんばってくだせぇ。

まっとうな仕事をしてくださいよ、旦那。

道を踏み外しちゃいけやせんぜ?

へっへっへ…それじゃあ、いってらっしゃいませ。


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