0016話 たまには作者を叩いてみよう(作家は儲からないという説について)
ここ「小説家になろう」で昔から時々見かけるエッセイに、プロのライトノベルの作家さんの収入についての話がある。
ライトノベルの作家さんの収入は低い。
故に「小説家になろう」から書籍化デビューしたとしても作家として暮らしてゆくのは大変だとか、夢は見ない方がいいとか、諦めた方がいいとか、まぁそう言う事を書いているエッセイが複数ある。
まぁ一理ある話ではある。
実際に昨年も一人のライトノベル作家さんが引退宣言をしたが、その理由はお金にならないというものだった。
ただし、注意すべきは、その去年、引退を表明したライトノベル作家さんは、こう言っては何だがヒット作が無いあまり売れない無名に近い作家さんだ。
「小説家になろう」のエッセイで、書籍化作家として暮らしていくのは大変だと話すケースにしても、売れない事を前提にして印税がどうの、販売部数がどうのと語っている。
それは、それで一つの事実ではあろうが、その正反対の例について触れようとしないというのも如何なものだろうか。
確かに売れない作家さんは多いだろうし、その暮らしは大変だろう。
だが、書籍化デビューした全ての作家さんが絶対売れない作家になると決まったわけでもない。
逆に売れているライトノベル作家がいるのもまた事実。
それを無視して「売れない」「儲からない」とマイナス方向にばかり読者を誘導するのは、あまりに恣意的ではないだろうか。
今でこそ無くなったか制度だが、昔は「高額納税者公示制度」と言うものがあった。
所謂「長者番付」というやつだ。
高額納税者の納税額を税務署が発表するという制度だ。
その中には「作家・文化人長者番付」もあった。
納税額がわかれば、ある程度は年収も推定できる。
80年代から90年代にかけて、その「作家・文化人長者番付」で常連だったライトノベル作家が、
「スレイヤー◯」で有名な神坂◯さん。
「銀河英雄伝◯」で有名な田中芳◯さん。
「吸血鬼ハンター◯」で有名な菊池秀◯さん。
といった人達だ。
菊池秀◯さんなんて多い時で1億円も納税していた。
こういう作家さん達はかなりの額を稼いでおられたのだろう。
森博◯さんという作家さんがおられる。
代表作の一つ「スカイ・クロ◯」はアニメ化されたし、デビュー作の「すべてがFにな◯」はアニメ化やドラマ化もされたからご存知の方も多いだろう。
この方は、ご自分の作家業での収支を2015年に出した「作家の収◯」という本にて赤裸々に語っている。
「すべてがFにな◯」の印税だけでも6100万円にもなったそうだ。
作家デビューしてから稼いだ印税の額は12億円を超えたそうだ。
2年前には、やはりネット小説から書籍化デビューした作家さんが3000万円の脱税をした罪で有罪判決を受けるというニュースがあった。
こういう脱税のニュースが流れている以上、確実に稼いでいる作家さんはいる。
今は削除されてしまったが、この「小説家になろう」から書籍化された作品に「魔法科高校の劣等◯」というライトノベルがある。累計750万部も売れているそうだ。
ライトノベルの作家さん全体から見ればこういう稼いでいる人は確かに少数派なのかもしれない。
だからと言って、他の書籍化デビューした作家さん達がこういう人達と同じ立場に立つ事は絶対に無いとは言えない筈だ。
そんな事は「やってみなくちゃわからない」筈だし、売れっ子ライトノベル作家を目指す事は何も悪い事でもなければ、罪でもない。
ところでTB◯が年末に毎年恒例で放送しているドキュメンタリー番組がある。
「プロ野球戦力外通告・クビを宣告された男◯」だ。
子供の頃からプロ野球選手に憧れて、とうとう夢を適えてプロ野球選手にはなれた。しかし、2軍からついに1軍には上がれず、戦力外通告を受け解雇されてしまったとか、1軍に上がったがすぐに2軍に降ろされ以後活躍できず戦力外通告を受けたなんて例を紹介している。
プロになってからも過酷な競争は続くし、誰もが1軍のレギュラー入りをできるわけではない。
サッカーのJリーグも同様だ。
日本サッカー協会に登録しているサッカー選手の人数は日本全国で90万人を超える。
だが、その中でもJ1リーグに登録されているプロ選手は552人でしかない。
しかもその中からワールド・カップの日本代表として選ばれるのは23人でしかない。
どんな世界でもトップクラスになるのは難しい。生易しいものではない。過酷な競争だ。
だからこそ挑戦のし甲斐があるし成功した時の喜びは何物にも代えがたく大きいのではないだろうか。
それは書籍化デビューし、更に人気作家になるという事も同様ではないだろうか。
自費出版みたいな事を除いて、書籍化デビューするのさえ難しく、更に人気作家になるともなれば、それこそ確率的には難しいかもしれない。
成功するかどうかはわからない。
成功の保証は無い。
だが、しかし、「当たって砕けろ」の精神で挑戦するのも悪くは無い筈だ。
自分の人生の全てを賭けているという訳でもないだろう。
失敗したって人生は続く。
先に述べた「プロ野球戦力外通告・クビを宣告された男◯」では、球界から去った人達が新たな人生を切り開いている話もあった。
焼き肉店やうどん店を経営したり、会社員となって働いている人もいた。
それとは別の話しだが、一部上場の企業のトップの中には、ホームレスから再起し起業し会社を成長させ上場させた経営者もいる。
書籍化デビューに失敗したとしても、書籍化デビューはしても人気作家にはなれなかったとしても、別にそこで全てが終わるわけではない。
幾らでもやり直したり、新たな道を模索する事はできるだろう。
ならば「当たって砕けろ」とばかりに結果がどうなるかはわからないけれど、一か八かで書籍化デビューして人気作家の座を目指すのも悪くはないのではないだろうか。
「案ずるより産むが易し」という言葉もある。
案外とんとん拍子に人気作家になったりする場合もあるかもしれない。
最初から書籍化を諦めた方がいいとか、大したものじゃないなんて言っている人の話しは、野球で言えばリトルリーグの野球少年に最初から草野球でもして、甲子園もプロになるのも諦めろと言っているのと同じだ。
野球に限らずサッカーでもプロ棋士でもテニスでもフィギュアスケートでも同じ事だ。
そんなものは自分の可能性を挑戦もせずに捨てているのと変わらない。
諦めるのはいつでもできる。
挑戦した後でも遅くはない。
挑戦し終わった後に「精一杯やったけどダメだったよ」と自嘲すればいいのだ。
そもそもライトノベル作家のマイナス面ばかりを述べている人達の中に、自費出版みたいな事を除いて、書籍化デビューしていた人は見当たらない。少なくとも私が読んだ人達はそうだった。
だから書籍化デビューできない人が、妬みや僻みからマイナス面を強調し、作家なんて大した事はないんだと、自分に言い聞かせたり、他者に思わせようとしているようにしか思えない。
中には「負け犬の遠吠え」なんて自分で書いている人もいるから、そういう人はある程度、自覚はあるのだろう。
だが、中には儲からないだの何だのマイナス的な事ばかり言っている割りに、小説コンテストには頻繁に応募している人がいる。マイナス面は覚悟しての応募という事だろうか。
どちらかと言えばマイナス面ばかりを強調して、他の作者のモチベーションを下げ足を引っ張り、書籍化デビューを狙うライバルを減らそうとしているようにしか見えない。
まぁこういう人達の話しでも書籍化デビューできない事に苦悩している人にならば、慰めや心の拠り所にはなるだろう。
そういう方向性の人達においてはプラス効果になるだろう。
まぁあれこれ書いて来たが、書籍化デビューを目指している作者さんには、ライトノベル作家は儲からないなんて言葉に惑わされる事なく、前向きに挑戦する事をおすすめしたい。
書籍化デビューして儲からないライトノベル作家になるか、その逆に数千万や億の年収に届くライトノベル作家になるかは、それこそ「やってみなくちゃわからない」のだから。




